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出演映画100本目を迎えたリーアム・ニーソン、傲慢な俳優を一喝する

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
100本の映画に出演してきたリーアム・ニーソン(写真:ロイター/アフロ)

 16日(金)に日本公開される「探偵マーロウ」は、リーアム・ニーソンにとって記念すべき100本目の出演映画だ。

 今月7日に71歳の誕生日を迎えたニーソンの映画デビュー作は、1978年の「Pilgrim’s Progress」。以後、オスカー主演男優部門に候補入りした「シンドラーのリスト」、「スター・ウォーズ」新三部作、「ラブ・アクチュアリー」、「愛についてのキンゼイ・レポート」、「バットマン ビギンズ」など、幅広い映画に出演してきた。だが、2008年の「96時間」がサプライズヒットし、56歳にしてアクションスターのキャリアが始まることに。自分でも予想しなかったこの展開に、ニーソンは面白がりつつ純粋に感謝をしており、「声をかけてもらえるかぎりはアクションをやっていきたい」と語っている。実際、近年の出演作の多くはアクション映画で、“リーアム・ニーソンのアクション映画”は、ひとつのブランドになったような感じだ。

 ニール・ジョーダンが監督する「探偵マーロウ」にも、アクションはある。しかし、レイモンド・チャンドラーの名作「ロング・グッドバイ」の公認の続編である「黒い瞳のブロンド」を原作にしたこの映画は、フィルムノワール。ニーソンが演じるのは、過去にも映画に登場した名探偵フィリップ・マーロウだ。この映画のこと、これまでのキャリア、業界の変化について、思いを聞いた。

――過去に別の俳優が演じてきた役に、どんな準備をして挑んだのでしょうか?

 フィリップ・マーロウは、ハンフリー・ボガート、エリオット・グールド、ロバート・ミッチャムなどが演じてきた。僕も、彼らの映画を見ている。彼らは良い仕事をしたよね。だが、この役を演じる上で、僕が頼りにしたのはニール・ジョーダンとウィリアム・モナハンが書いた脚本だ。ほかには、チャンドラーの小説をたっぷり読み、フィルムノワールの名作を見た。

 ニールとは1980年からの知り合い。過去に何度も組んでいるし、今年もまた別の映画を一緒に作る予定だ。彼と僕の仕事は、毎回、とてもうまくいく。ひとつ意識したことと言えば、エリオット・グールドのマーロウみたいに、常にタバコを持つのはやめようということかな。あの映画(『ロング・グッドバイ』)で、彼はどのシーンでもタバコに火をつけているか、タバコをどこかに置こうとしている。

「探偵マーロウ」でニーソンが演じるのは、過去にもほかの俳優が演じたフィリップ・マーロウ
「探偵マーロウ」でニーソンが演じるのは、過去にもほかの俳優が演じたフィリップ・マーロウ

――アクションをやるのは楽しいですか?

 アクションは大好きだよ。1981年の「エクスカリバー」の時からそうだった。剣を使う戦いを、おもちゃをたくさんもらった子供のような気分でやったのを覚えている。「96時間」では凝ったファイトコレオグラフィーに挑戦して、とても楽しかった。ああいったスタントをやるのはわくわくする。スタントマンが僕をかっこよく見せてくれるしね(笑)。まだ全然飽きないよ。15年前よりちょっと動きが鈍くなったかもしれないが、それが人生というものだし。

――この映画でダイアン・クルーガー(46)演じるクレアとロマンチックな関係になりそうになると、あなたが演じるマーロウはストップします。昔の映画では、女性が男性よりずっと若くても、ごく当たり前に受け入れられていましたよね。

 その通り。昔は(自分と同じような年齢の俳優に)18歳や19歳の女優を平気であてがったものだよね。この脚本にそういうシーンが書かれていなかったのは嬉しいよ。もしそんなシーンが入っていたら、僕は絶対この映画を受けなかった。それは正しくないから。

舞台は1939年のロサンゼルス。仕事の依頼を受けたマーロウは、ハリウッドの闇に飲み込まれていく
舞台は1939年のロサンゼルス。仕事の依頼を受けたマーロウは、ハリウッドの闇に飲み込まれていく

――良い意味で時代が変化してきた結果だと思いますか?

 そう思うね。「#MeToo」はハリウッドを大きく変えた。キャスティング・カウチ(監督やプロデューサーが役を求める女優に肉体関係を迫ること)は、長いことあったんだよ。僕らはみんな耳にしてきた。ある意味、それは受け入れられていた。だが、もはや許されない。もう誰もそんなことに耐えようとはしない。耐えるべきじゃないんだから。今、ようやく、女性が声を聞いてもらえるようになったんだ。

 この映画は僕の100本目の出演作だが、振り返って、ひとつ恥ずかしいと思うことがある。僕がこれまで出てきた作品のうち、女性が監督したのは2本しかないんだよ。キャスリン・ビグローの映画「K-19」(2002)と、BBCのドラマ(1988年の『Screen Two』の1話)だ。たった2回。すごく残念なこと。僕はもっと女性監督の活躍を見たい。本気でそう思っている。

――駆け出し俳優だった頃、100本目の映画に出る自分を想像しましたか?

 まさか。1976年、僕はベルファストの舞台俳優だったんだよ。こんなに長く、しかも映画の仕事をさせてもらえて、インタビューを受けることになるなんて、思いもしなかった。僕はすごく運が良い。だが、運は自分で作るものだとも思っている。僕は家で寝ていたわけじゃない。外に出て、一生懸命仕事をしてきた。そんな中で優れた人たちと組ませてもらえる幸運も得た。ニール・ジョーダンもそのひとりだ。

――過去にもあなたと組んだダイアン・クルーガーは、あなたのことをとても腰の低い、気取らない人だと言っています。

 それは嬉しいね。ダイアンもそうだよ。僕らは勘違いしちゃいけないんだ。よく友達に言うんだよ。もし僕が「今日は取材を6つもやらなきゃいけないんだ。かわいそうだろう?」なんて言ったら怒ってくれと。みんなもっと大変な仕事をしているんだから。建築現場の仕事とか、学校の先生とか、すごく立派できつい、本当の仕事を。小さいことに腹を立てそうになると、僕はいつも「たかだか映画じゃないか」と自分を叱咤するよ。

 みんな知っているだろうが、この業界にはエゴがたっぷりある。僕自身、目撃してきた。一般の人も、そういう逸話を読んだことがあるだろう。現場の中であれ、外であれ、傲慢な行動をしたスターの話さ。それは悲しいこと。俳優という職業につく人みんなに悪いイメージがついてしまう。僕らの行動は世界中から見られているんだ。自分が敬意を持たれたいなら、ほかの人に対してそう接しないと。エゴは最小限にとどめ、しっかりコントロールしていくべきだよ。

ニール・ジョーダンが監督するこの映画は、濃厚なムードのハードボイルドミステリー
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「探偵マーロウ」は6月16日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー。

場面写真:Parallel Films (Marlowe) Ltd./ Hills Productions A.I.E./ Davis Films

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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