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最後に笑うのは彼女。キム・キャトラルが「SATC新章」復帰で得たもの

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
キャトラル(左)はほかの3人と共演しないことをカメオ出演の条件にした(写真:Keizo Mori/アフロ)

 やはり彼女がいないとダメなのだ。「And Just Like That.../セックス・アンド・ザ・シティ新章」にサマンサ・ジョーンズ(キム・キャトラル)が戻ってくるというニュースが大歓迎を受けたことは、その事実を証明した。

 ただし、キャトラルの復帰は、あくまで1回かぎりとのこと。6月22日から始まる第2シーズンの最後に姿を見せるということで、もしかしたら第3シーズンでの本格復帰につながるのかとファンは期待したが、それはないようだ。キャトラルは過去に、「映画2作目を作った時にこのキャラクターを演じるのはもう終わりと思った」「61歳は53歳でも41歳でもない。サマンサは私のヒーローだけれど、私は昔のように忙しく働きたくはない。私の決意は、自分が今人生のどこにいるのかを反映している」と、気持ち的にも、年齢的にも、サマンサを演じるのは卒業したと宣言しているので、それも納得だ。

 それでも、カメオでいいから出演してほしいと乞われたのは、キャトラルにとって良い気分だったことは間違いない。キャトラルはこのニュースをLGBTQプライド月間の初日である6月1日、「Happy Pride」というキャプションとともにインスタグラムで誇らしげに発表した(サマンサはバイセクシュアル)。この投稿には現時点で22万以上の「いいね」がついている。キャトラルは「And Just Like That...」を見ていないが、サマンサのキャラクターがテキストメッセージの形でまだ登場することを聞いて、「みんなに恋しがってもらえるのは最高に嬉しいこと」だとも語っていた。そしてついに、自分をひどく扱った張本人たちではないにしろ、製作陣が頭を下げてお願いしてきたのである。

(キム・キャトラルのインスタグラムより)
(キム・キャトラルのインスタグラムより)

「Page Six」が製作関係者の話として伝えるところによると、キャトラルは出演を承諾するにあたり、いくつか条件を出したという。ひとつは、サラ・ジェシカ・パーカー、シンシア・ニクソン、クリスティン・デイヴィスと共演しないこと。そして、パーカーの味方をしたショーランナーのマイケル・パトリック・キングの姿も見たくないこと。キングは過去に、パーカーのギャラがキャトラルより高いことについて、オリジナルのシリーズが始まった時、パーカーは映画スターだったのだと弁護している。当時、アメリカではまだ、テレビは映画より明らかに格下だった。そんな中でパーカーはタイトルに「セックス」とつくテレビドラマに出てくれたのだからと、キングは述べている。

 そしてもうひとつは、パトリシア・フィールドに衣装を担当してもらうことだ。オリジナルのシリーズで衣装を手がけて名を馳せたフィールドは、映画2本でも仕事をしたが、「And Just Like That...」はモリー・ロジャースにバトンタッチした。しかし、再びサマンサを演じる上で、キャトラルは懐かしいフィールドにスタイリングをしてもらうことを望んだ。何を着たいか、キャトラルにははっきりしたビジョンがあり、フィールドはそれを実現させたのだそうだ。つまり、キャトラルはかなり良い待遇を受けたのである。

 しかも、車の中で電話の会話をするだけの短いシーンの撮影に、彼女はかなりのギャラをもらうようなのだ。「Page Six」に対し、製作関係者は「彼女はすごい額のお金をもらうはず。そしてキムはパワーを見せつけることになるでしょう。このドラマはまだ彼女を必要としているんです。彼女がヒーローになれて嬉しい」と語っている。原作者キャンディス・ブシュネルも、「彼女は良いギャラをもらったはず。キムは大人の女性。自分が納得する形で物事をやるのです」と述べた。ブシュネルはまた、「私はキムが大好き。みんなキムのことが好き」「ファンはそれ(サマンサの復帰)を望んでいます」とも述べている。キャトラルは、原作者からも大歓迎されているのだ。

皮肉にも、一番話題を呼んでいるのはここにいない人(WBD/Max)
皮肉にも、一番話題を呼んでいるのはここにいない人(WBD/Max)

 今からこんなに期待が高いとあれば、キャトラルがカメオ出演する回がかなりのアクセス数を稼ぐことは想像に難くない。そうなれば、キャトラルはまさにヒーローとなる。久しぶりにサマンサを見たファンはソーシャルメディアに感動のコメントを投稿して、彼女はさらに注目の人となるだろう。もうサマンサを演じるつもりはないのは本当だとしても、あまりに反響が良ければ、第3シーズンでもまたカメオを、という話が来たりするかもしれない。いずれにせよ、最後に笑うのは彼女のようだ。その日を想像し、キャトラルはにんまりとしているだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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