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ジェレミー・レナー、瀕死の事故は甥を救うためだった。同じことが起きたら「またやる」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 生死の境をさまよった大事故から3ヶ月。ジェレミー・レナーが、テレビで久々に姿を見せた。

 著名なテレビジャーナリスト、ダイアン・ソイヤーのインタビューに応じるレナーは、話し方もしっかりしていて、笑顔もたっぷり見せる。届いたばかりだという歩行器を使って歩く様子も出てきた。

 除雪車に轢かれ、大怪我を追った彼がここまで回復したのは、驚きだし、とても嬉しいことだ。それを誰よりも実感しているのは、レナー自身。自分は死ぬかもしれないと思い、搬送された病院で、家族に向けてお別れの手紙を書いたのだと、レナーはこのインタビューで明かしている。その手紙には、「機械につながれたまま生きることはさせないで。そうなるのならば逝かせて」とも書いた。

 その事故が起きたのは、今年1月1日。レナーはネバダ州の山に家を所有しており、前夜の大晦日も、招待した家族や親戚と一緒に楽しく過ごしていた。レナーが所有する除雪車は、この家を買った時に一緒に付いてきたもの。雪が多く降るこの地域では重宝するもので、その朝もレナーは27歳の甥に手伝ってもらい、家族のひとりが所有するトラックを、除雪車に牽引させて移動させた。

 除雪車を運転したのはレナー、トラックの中に座ったのは甥。無事移動させ、甥はトラックから出たが、地面が凍っていて除雪車が滑り、レナーは除雪車とトラックの間にいる甥が心配になった。それでレナーは除雪車のドアを開け、半身を車から出して、甥の安全を確認しようとしたのだが、次の瞬間、車から転げ落ち、うつ伏せになって地面に倒れ、轢かれてしまったのだ。

 足の指、次に足首、そして脚、胸が潰れていくのを、何もできないまま、レナーは感じた。片方の目が飛び出したのを別の目で見たのも覚えている。「あんなにひどい死に方はなかっただろう」と、レナー。甥も、その瞬間、大好きな叔父が死んだのではないかと思った。だが、レナーのうめく声が聞こえ、生きていることがわかった。

 甥は携帯電話を身につけておらず、救急車を呼ぶにも呼べない。幸いにも、道路の向こう側の家の車庫が少しだけ開いており、人がいるのが見えた。救急車を呼び、助けが来るまでそばにいてレナーが目を閉じないように励まし続けてくれたのは、その家に住むカップルだ。

「僕のせいで家族に辛い思いをさせてしまった」と謝罪

 病院に運ばれたレナーは、体の15%に当たる30本の骨が折れていた。片側のあばら骨は12本、もう片側は2本が折れ、そのうち1本は肝臓に突き刺さっている。右膝、両方の足首、足の指、右肩、顎も折れていた。後頭部にも大きな傷があった。医師らは、金属や釘を使ってそれらの負傷した部位を再構築していく。痛みはとてもひどく、寝られない日々が続いた。

 だが、レナーが考えていたのは、自分の辛さよりも、家族の辛さだった。病院に駆けつけてくれた家族に、喋ることができないレナーは、手話で「ごめんなさい」と謝ったという。「僕のせいで、家族にこんな思いをさせてしまった。僕は家族にひどいことをしてしまった。僕の行動が家族に大きな悲しみを与えた。その責任を感じた」と、レナーはソイヤーに語っている。

 レナーの医師は、レナーがここまで回復できたことについて、「若く、体力があったことが助けになったと思う。強い意志の持ち主でもあるし、家族のサポートもあった」と述べる。ロサンゼルスの家でレナーのリハビリを手伝う医師もまた、「大事なのは意志の強さ。あなたは治してやるという強いモチベーションを持っている。だからあなたのお世話をするのはやりがいがある」とレナーを褒めている。リハビリが楽でないのは、レナーの表情からも明らか。インタビュー中も、顎が辛くて途中で休憩することもあった。金属を入れた顎で話すのは、レナーにとって新しいことなのだ。

辛さを強さに変えることこそ真のスーパーパワー

 だが、レナーは、自分の身に起こったことを悲劇とはとらえていない。甥を救うために自分が取った行動に後悔はなく、同じことが起きたら「またやる」とも言い切る。

「あれをネガティブな体験と受け止めることを、僕は拒否する。甥を同じ目に遭わせることを、僕は許さない。自分が被害者だ、間違いを起こしてしまった、という方向からは見ない。あの思い出をトラウマにすることは絶対にしない」と、レナー。「鏡を見て、以前と同じ自分を見ますか」とソイヤーに聞かれると、「いや、(今の)僕は、ラッキーな男を見ますよ」と答えた。

 ナレーションで、ソイヤーは、「辛さを強さに変えることこそ、真のスーパーパワーなのです。それをみなさんに知ってほしいと彼は思っています」とフォローする。その言葉には、とても強い説得力がある。スクリーンの中でかっこいいことをたくさんやってみせたレナーは、スクリーンの外では、もっと強く、家族愛にあふれる人だったのだ。彼はきっと近いうちに、またスクリーンに戻ってきてくれることだろう。真のヒーローが輝く姿をまた見られる日が待ちきれない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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