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メーガン妃、パロディアニメに大憤慨も訴訟は断念

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(Comedy Central)

 ハリー王子とメーガン妃をパロディにしたアニメーション番組「South Park」の最新回が放映されて、1週間。番組が大反響を呼ぶ中、沈黙を守ってきたふたりが、ついに発言した。製作者を訴訟するつもりなのではとの憶測も出たが、アメリカ時間21日、ふたりのスポークスパーソンは「People」に対し、「完全なナンセンス。何の根拠もありません。つまらない報道」とコメント。訴訟する可能性を否定した。

 しかし、その少し前、「The Spectator」は、カリフォルニアにいる情報源の話として、メーガン妃は「South Park」のネタにされたことに大きく憤慨したと報じている。ただし、番組を見るのは断固として拒否しているとのことだ。また、この番組が放映された後、ハリー王子とメーガン妃はお互いに責任をなすりつけて責め合っているとも書かれている。彼らの情報源によれば、夫婦間の摩擦の原因はハリー王子の回顧録「Spare」に対する悪評。爆発的に売れたものの、BBCから「怒った酔っ払いが送った長いテキストメッセージ」とけなされるなど評判は散々で、メーガン妃は屈辱を受けたのだそうだ。そんなタイミングで「South Park」により、プライバシーがほしいと言いつつ目立ちたがる人たちとして描写されてしまったのである。

 しかし、彼らが訴訟をしないと決めたことはまるで驚きではない。これらのキャラクターはフィクションだと番組は最初にうたっているし、きわどいネタを愛する「South Park」の製作陣は、どこまでなら大丈夫かを知っていて、その範囲でやっているはずだからだ。感情的になった本人たちが訴えると騒いだにしても、彼らの弁護士に、訴えても無駄で、むしろ笑われてイメージダウンになると忠告されたのではないか。

 ソーシャルメディアにも、「訴える根拠がないしね」「引き受けてくれる弁護士がいなかったってこと」などというコメントが見られる。事実、権力を持つ人や有名人がジョークのネタにされるのはアメリカではよくあることで、「弁護士からこれは言論の自由に入ると言われたんだろう。でなければNBCの『Saturday Night Live』は存在するだけで訴訟されてしまう」と、政治家や有名人のパロディを得意とする長寿番組を比較に出したツイートもあった。

「South Park」の最新の回で、フィクションのカナダの王子とその妻は「プライバシーがほしい」というプラカードを掲げて世界各国をプライベートジェットで回る(Comedy Central)
「South Park」の最新の回で、フィクションのカナダの王子とその妻は「プライバシーがほしい」というプラカードを掲げて世界各国をプライベートジェットで回る(Comedy Central)

 さらに、そうでなくても夫妻はすでに別の訴訟で十分忙しいのだ。2021年春に大きな注目を集めたオプラ・ウィンフリーによるテレビインタビューでの発言をめぐり、メーガン妃は母親違いの姉サマンサ・マークルに名誉毀損で訴訟されているのである。サマンサは、自分が作り上げた嘘の生い立ち話を人々に信じさせるため、インタビューの中でメーガン妃が計画的に父と自分を悪い形で描写したと主張。その結果、「恥をかかされ、世界中から嫌われることになった」と述べている。このインタビューが放映された直後、アメリカでは圧倒的にメーガン妃に同情する声が強かったため、サマンサはとりわけそう感じたのだろう。

 サマンサはメーガン妃に75,000ドル(約1,000万円)の賠償金を求めている。この裁判のため、メーガン妃とハリー王子は供述を取られる予定だ。この訴えに対しても「完全なナンセンス」で終わらせたいのだろうが、そううまくいくものか。このことだけに関しては、本気で「プライバシーをくれ」と言いたいところかもしれない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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