Yahoo!ニュース

ハリー王子のTVインタビュー、視聴率ふるわず。矛盾する発言も

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「60 Minutes」の独占インタビューに応じたハリー王子(CBS)

 予告映像が出た時から大きな話題を集めたハリー(ヘンリー)王子の独占テレビインタビューが、現地時間8日(日)、アメリカとイギリスで放映された。だが、認知度の高さとは裏腹に、視聴率はどちらもぱっとしない結果に終わった。

 アメリカでは、CBSが報道番組「60 Minutes」の中で放映。30分という大きな枠を使い、アンダーソン・クーパーがインタビューを行った。この番組を視聴した人は、全米で1,000万人強(注:アメリカでは、視聴率をパーセンテージではなく人数で表示する)。この番組の今シーズンの成績においては決して悪くないものの、2021年3月、やはりCBSが放映したオプラ・ウィンフリーによるインタビューが1,700万人もの視聴者を集めたことに比べると、大きく劣る。ただし、この番組は系列のParamount+でも同時配信されており、そちらにどれだけアクセスがあったのかは、現段階でわかっていない。

 イギリスのITVが放映したトム・ブラッドビーによる90分の独占インタビュー「Harry: The Interview」も、苦戦。この番組を見たイギリス人は、わずか410万人と、イギリスでウィンフリーのインタビューを見た人の3分の1程度だ。

 ウィンフリーによるインタビューは、初めてとあってショッキングだったが、その後、この夫妻は、自分たちがいかに王室から苦しめられたかの話を何度も繰り返してきている。つい最近も、Netflixで6時間にもわたってその話を聞かされたばかりだ。この冴えない数字は、「もうお腹いっぱい」と感じている人が少なくないことの表れかもしれない。

兄と継母を悪者扱い

 予告映像でも明かされていた通り、クーパーとのインタビューで、ハリー王子は兄ウィリアム王子の悪口をかなり言っている。仲が良くないのは昔からのことで、世間が勝手に思っているようにメーガン妃のせいで兄弟の関係が拗れたわけではないとも、ハリー王子は強調。とは言え、ウィリアム王子は、「アメリカ人」「女優」「バツイチ」「黒人とのハーフ」という理由でメーガン妃のことを最初から気に入っていなかったとも、ハリー王子は述べている。

 また、義理の母であるカミラについても良くないことを語っている。父と結婚して王室の一員になることを願っていた彼女は、イギリスのメディアに近づき、仲良くなることでイメージアップを図ったのだというのだ。「カミラの個人的なPRのために僕は犠牲になった」と、彼女がメディアと情報交換をしたせいで自分自身もそのとばっちりを受けたと彼は語る。これを受けて、ハリー王子とメーガン妃を強く批判してきたイギリスのジャーナリスト、ピアース・モーガンは、「オプラ、ジェームズ・コーデン、Netflix、Spotify、ペンギン・ランダムハウス、CBS、その他家族の悪口を言うことにお金を出してくれるメディアと仲良くしているくせに、どの口が言うか」とツイートしている。

 ブラッドビーとのインタビューでも、ハリー王子は兄への不満を語った。たとえば、メーガン妃との結婚式にひげを剃らずに出席することについて、エリザベス女王からはお許しを得たが、ウィリアム王子からは反対されたのだという。そんな兄に、ハリー王子は「(ひげを剃ってしまったら)メーガンに誰だかわからないと思われる」とはむかったそうだ。ウィリアム王子とキャサリン妃はメーガン妃に対してステレオタイプな視点から見ており、そのせいで壁ができて、メーガン妃は歓迎されていると感じられなかったとも、ハリー王子は述べた。ただし、ウィリアム王子がメーガン妃と結婚するなと説得してきたことはない。兄から言われたのは、「すごく大変になるぞ」ということだった。

 また、ハリー王子は、このインタビューで、王室は人種差別者ではないと、以前とは矛盾することも言っている。ウィンフリーとのインタビューで家族を人種差別者扱いしたことをブラッドビーが持ち出すと、ハリー王子は首を横に振って、「それを言ったのはイギリスのメディアだ」と否定したのだ。「メーガンも、彼らは人種差別者だとは言っていないよ」とも付け加えている。だが、ウィンフリーとのインタビューで、メーガン妃が王室の誰かから「生まれてくる子はどんな肌の色をしているのだろう」と言われたと言い、彼らが人種差別者であることを示唆したのは、紛れもない事実。ハリー王子はそれをなかったことにしたいようである。

出版社はハリー王子に26億円を前払いした

 このふたつのインタビューに加え、ハリー王子は、現地時間9日に朝番組「Good Morning America」と深夜のトーク番組「The Late Show」への出演もこなした。これらはすべて、10日に発売になる回顧録「Spare」の宣伝のためだ。

 この本を出版するペンギン・ランダムハウスは、ハリー王子と4冊の契約を結び、2,000万ドル(約26億円)を前払いした。さらに、ハリー王子のゴーストライターを務めたJ・R・モーリンガーにも100万ドルを支払ったとされる。この後の3冊がどのような内容なのかは不明ながら、分析によると、この回顧録は最低でも170万部売れてくれないと元が取れないとのこと。それだけに、大がかりな宣伝が必要というわけだ。

 発売前日である現地時間9日現在、Amazonのチャートにおけるランキングは5位で、とりあえずベストセラーにはなりそうではある。それでも、すでに散々聞かされたハリー王子の文句をさらに聞くために定価36ドルの本を買う人が最終的にどれだけいるのかはわからない。

 ひと足先に本を入手して読み終えたというモーガンは、「この王室の内情暴露は想像を絶するくらい下品」「金のためにプライバシーをすべて売った」「驚くべき裏切り」とツイートしている。しかし、酷評されたNetflixのドキュメンタリーシリーズ「ハリー&メーガン」と同じように、この本もまた、悪い評判が逆に宣伝になったりする可能性もある。この夫妻が得意としてきたその手は、今回も通用するのか。この後のなりゆきが気になるところだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事