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スティーヴン・タイラー、未成年への性的虐待で訴訟される。17歳で妊娠中絶を強要された

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

「#MeToo」から丸5年が経ち、その発端となったハーベイ・ワインスタインがロサンゼルスの刑事裁判でも有罪判決を受けたこの年の瀬、今度はエアロスミスのリードシンガー、スティーヴン・タイラーが未成年への性的虐待で訴訟された。

 訴えた女性は、タイラーがおよそ50年前に交際していたジュリア・ホルコム。ホルコムはタイラーの回顧録にも、エアロスミスの回顧録にも登場し、ふたりの3年に及ぶ関係は、これまでにも知られてきた(エアロスミスの回顧録では、本名ではなく別名で登場)。自分の回顧録で、タイラーはホルコムのことを「卑猥さを知っている16歳」「運転免許をギリギリ取れる年齢だがとんでもなくセクシー」「僕の心が強く欲しがる存在」と描写している。

 今になってホルコムが訴訟を起こしたのは、カリフォルニア州が 期間限定で未成年への性犯罪に対する時効を無くした特例措置がこの年末で期限切れになるためだ。ホルコムは、「65歳になった今、最近法律が変わったおかげで、若かった私に虐待を加えた人に法的手段を取る機会が与えられたことを知りました。この行動によって、セレブリティの加害者を守る業界の実態を晒されること、また長年にわたって私自身やほかの世間知らずの子供や大人を搾取してきた責任を取ってもらえるようになることを願います」と声明を発表した。声明の冒頭には、「以下は、虐待を生き抜いた勇気あるジュリア・マイズリー(元ジュリア・ホルコム)の公式声明。彼女は未成年の時、世界的に有名なロックバンドのリードシンガーにより手なづけられ、搾取され、性的虐待を受けた」と書かれている。

年齢を知っていながら関係を迫られた

「Rolling Stone」が入手した訴状によると、16歳になったばかりだったホルコムがタイラーに出会ったのは、1973年、エアロスミスがライブのためにホルコムの住むオレゴン州ポートランドを訪れた時のこと。ホルコムはタイラーのホテルに連れて行かれ、家で辛い思いをしていることなどを話した。その時に彼女の年齢を聞いていながら、タイラーは彼女に性行為をする。ツアーで次に訪れたシアトルでも、ふたりは関係を持った。

 アメリカでは、他人が未成年を連れて旅行をする場合、両親の手紙が必要なため、タイラーとホルコムは、シアトルに一緒には飛んでいない。その面倒をなくすために、1974年、タイラーは、自分をホルコムの法的後見人にしてほしいと、ホルコムの母に願い出た。タイラーはホルコムをちゃんと学校に行かせる、実家にいるよりも世話をしてあげると母に約束したが、実際には彼女を旅に連れていってはドラッグや酒を与え、性的虐待をするという生活が続いたという。

 17歳の時、ホルコムはタイラーの子供を妊娠。しかし、タイラーによって人口妊娠中絶を強要された。妊娠5ヶ月の時にアパートで火事が起き、煙を吸ったせいでお腹の子に悪い影響が与えられたというのがタイラーの言い分だ。ホルコムは中絶を嫌がり、医師からも火事の影響はないと言われたが、中絶をしないならもう面倒はみないと脅されたため、従わざるを得なかった。その後、彼女は新しい人生を歩むと決め、タイラーと別れて故郷のポートランドに戻っている。

こんな体験をしたのは自分だけではない

 声明の中で、ホルコムは、この訴状には自分の「苦労した若い頃、スティーヴン・タイラーと音楽業界によって搾取された時期、その世界から逃げ、信仰を通して人生を立て直し、家族を作ったこと」が語られると述べる。また、彼女は、「利益とさらなる名声のために、私と家族に再びトラウマに陥れた」と、タイラーが自分との関係について回顧録に書いたことも責めた。妊娠中絶について意見が激しく分かれるアメリカで、熱心なキリスト教徒であるホルコムは中絶反対派だ。アクティビストとして活動する今の彼女にとって、何もわからなかった若いその時期に起きたことは、とても暗い思い出であるに違いない。ホルコムは、声明で、「音楽業界によって苦しめられたのは私だけではないと知っています。今こそ声を上げ、苦しみを生き抜いたほかの人々と団結する時だと私は信じます」と述べている。

 タイラーはミュージシャンとして活動するほか、人気コンテスト番組「American Idol」で審査員を務めたり、「Be Cool/ビー・クール」など映画に出演したりもしてきた。エアロスミスは、タイラーの娘リヴ・タイラーが出演した映画「アルマゲドン」に主題歌「ミス・ア・シング」を提供している。

 エアロスミスは2019年からラスベガスでショーを行ってきたが、2020年、パンデミックのため中止に。その後再開するも、今年5月、タイラーが自主的に依存症の更生施設に入ると決め、その期間の分は延期になった。さらに今月は、タイラーの病気を理由に、開始の1時間15分前になってショーがキャンセルされている。病気について詳しいことは不明。

 この訴訟について、タイラーはまだ何もコメントをしていない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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