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ハリーとメーガンのドキュメンタリーが大不評。嘘の映像を混ぜていると批判も

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

 鳴り物入りでデビューしたハリー王子とメーガン妃のドキュメンタリーシリーズ「ハリー&メーガン」が、ぱっとしない。

 今月8日、Netflixは全6話のうち最初の3話を一気に配信。西海岸時間11日現在、アメリカでは2番目にアクセスの多いシリーズとなっている。そう聞くと悪くないようだが、実際に視聴した世帯はというと、100万にも満たないのだ。Netflixがこの夫妻と結んだ複数作品のプロダクション契約は、1億ドルから1億5,000万ドルの大規模なものだったと言われている。今作はそのうちのひとつに過ぎないとはいえ、がっかりな結果であることに違いはない。

 しかも、見てくれた数少ない人たちの反応がネガティブなのである。とりわけ不評を買ったのは、メーガンがエリザベス女王に初めて会った時のことを語る中で、ふざけたように大袈裟なお辞儀の仕方をしてみせたこと。ツイッターには、「メーガンはどうして私たちの文化をバカにするの?人種差別は一方通行なの?」「これでこのふたりは終わった。失礼にもほどがある」などというコメントが飛び交っている。

 メディアの反応も厳しい。オーストラリアの「Sky News」の司会者リタ・パナヒは、その時メーガンの横で黙っていたハリーについて、「彼はそこで愚か者のように笑顔を浮かべているんですよ。自分の祖母がからかわれているというのに」と強く批判した。別の司会者から、このドキュメンタリーは面白かったかと聞かれると、「ノー」とはっきり答え、「すごく退屈」「これはドキュメンタリーではありません。リアリティ番組です。カーダシアン一家と同じレベル」と、ばさりと斬っている。

 ほかのメディアも同感だ。イギリスの「The Guardian」は「難しい質問が一切なされない、一方的なPR」「最初の3時間に新しいことはひとつも出てこなかった」と書いた。アイルランドの「The Irish Times」も、「私たちがすでに知っていることをまた繰り返しているだけ」と指摘する。「もし何か驚きが用意されているのだとしたら、もっと後に出てくるのだろう」とも述べている。

 彼らの言うとおり、昨年、メーガンがオプラ・ウィンフリーとのテレビインタビューで告白したようなショッキングなことは、今のところ、このシリーズにまったく出てこない。最初の3話はハリーとメーガンの子供時代や故ダイアナ妃のことに時間が割かれ、人々のコメントを混ぜたりして無理に引っ張っているような感じもする。それについては、ハリーの回顧録の出版も控えているため、美味しいところは取っているのではないかとの憶測も聞かれる。だが、もしそれが本当なのだとしたら、大金を払ってくれたNetflixに対して失礼な話だ。「The Sunday Times」の批評家は、「私がNetflixだったら、金返せと言いたい」と書いている。

押し寄せたマスコミの映像は「ハリー・ポッター」のプレミアだった

 そして実際、Netflixのトップは、かなり怒っているようなのだ。反響が悪いからということに対してというより、このシリーズに嘘の映像が使われていることが明らかになったことについてである。

 それらは、メーガンにカメラを向ける大勢のマスコミの映像。ひとつは、何年も前の「ハリー・ポッター」のプレミアの時の映像だとわかった。もうひとつは、イギリス人モデル、ケイティ・プライスが裁判所から出てくるのを待ち構えるメディアの映像のようだ。ドナルド・トランプの元弁護士マイケル・コーエンが刑務所から出てきた時の映像も混じっている。

 それらは予告編にも使われており、予告編が公開された段階で指摘の声が出ていた。しかし、本編が配信されると、ほかにも問題が出てきたのだ。ある女性が、宮殿には昔から人種差別的な芸術作品があるとコメントするシーンである。その女性が語るのに合わせ、壁にたくさんの絵画がかけられた部屋の様子が映し出されていく。しかし、その光景は宮殿の中ではなく、関係のない建物だというのだ。

 そこで映るのが「宮殿だ」とはっきり言うことはしていないにしろ、完全にミスリードで、意図的にそう誤解されることを狙って入れたと思われてもしかたがない。あるテレビ界のインサイダーは、「The Sun」に対し、「サセックス公爵夫妻は、どの映像が本物でどれがそうでないのか、誰よりも知っている。疑問のある映像が織り込まれていることをまるで知らなかったNetflixのトップは、問題を醸し出す可能性のあるものがないか注意してほしいとふたりに言った」と語っている。

アメリカでも変わってきたメーガンに対する温度

 昨年春、ウィンフリーによる独占インタビューが放映された時、アメリカでは圧倒的にメーガンに同情する声が強かった。しかし、その後、状況はかなり変化してきている。あのインタビューでの彼女の話には事実と違うことがいくつもあるとわかったし、イギリス王室をけなしつつそれを利用して金儲けをするこの夫妻に対して、さすがにアメリカ人も白けるようになってきたのだ。そこへきて、このドキュメンタリーである。エリザベス女王がお亡くなりになったばかりだというのに、王室を批判するこのシリーズを予定どおりに出したこの夫妻のことを「無神経すぎる」と感じる人は少なくない。

 だが、本番はこれからだろう。第3話はふたりが結婚する直前で終わったので、来週木曜に配信開始となる残りの3話には、ウィンフリーのインタビューでメーガンが語った王室の人種差別の話が出てくるのではないかと思われる。さらに、来年1月には、ハリーの回顧録「Spare」が出版される。その時にはまた宣伝のために彼はメディアに登場し、家族の話を語るに違いない。それらの話に、世間はどう反応するのだろうか。

場面写真:Courtesy of Prince Harry and Meghan, The Duke and Duchess of Sussex/ Netflix

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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