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「パンデミックを経て結末を変えた」。ジェニファー・ローレンスが最新作にかける思い

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ジェニファー・ローレンスが演じるリンジーは、アフガニスタンで負傷した米軍兵

 1990年代生まれで、初めてオスカー主演女優賞を受賞した人。2015年と2016年には、最も多くのギャラを稼ぐ女優の首位に君臨した。だが、ジェニファー・ローレンスに初のオスカーノミネーションをもたらした「ウィンターズ・ボーン」は、低予算のインディーズ映画だ。最新作「その道の向こうに(原題:Causeway)」で、ローレンスはそのルーツに立ち戻る。

「スタジオからあれこれ言われることなく自由にやれるのは、本当に素敵だったわ。今作で、私たちは、自分たちの直感を信じ、映画そのものに耳を傾けたの。撮影した映像を見て、ストーリーを見つめ直して、ここからどこへ行くのか見守っていけばよかった」。

 ローレンス演じるリンジーは、アフガニスタンで負傷した米軍兵。故郷のニューオリンズに戻って治療を受けているが、できるだけ早くまた軍に復帰したいと願っている。あんな恐ろしい思いをした場所でも、ここよりはましなのだ。そんな中、彼女は、自動車修理工のジェームズ(ブライアン・タイリー・ヘンリー)と出会う。彼もまた、心と体に大きな傷を負っていた。

リンジーは、車の故障をきっかけにジェームズと出会う
リンジーは、車の故障をきっかけにジェームズと出会う

「ブライアンとライラ・ノイゲバウアー監督は、お互い昔からの知り合い。ライラは、私とブライアンがとても良い友達になるだろうと思っていたの。私たちの間には特別な相性があるはずだと。実際、私とブライアンはすぐに打ち解けたわ。彼はとても優しい人。彼が私の人生に入ってきてくれたことを嬉しく思う。私たちの友情はスクリーンを通じてきっと伝わるはず。自分たちでもそう知っていたから、私たちは、リンジーとジェームズの友情をもっと映画の中心に持っていくことにしたのよ」。

 撮影が始まったのは、2019年後半。2020年にパンデミックが到来し、撮影が長い間中止になったことで、ストーリーは大きな影響を受けた。それまで当然と思っていた、人とのつながりが絶たれるということを世界規模で体験したことから、ローレンスらは視点を新しくしたのだ。

「パンデミックの前後で、私たちがこの映画をどんなものにしたいかという思いに変化が出た。そこを機に、映画はそれまでと違うものになったの。それまで、私たちは、いろいろ違ったラストを考えていたわ。リンジーがアフガニスタンに戻るとかね。だけど、パンデミックから戻ってきた後、私たちは、もっと友情を追求したいと思ったの。このふたりに、あそこにとどまっていてほしいと」。

ブライアン・タイリー・ヘンリーは、今作でインディペンデント・スピリット賞などに候補入りしている
ブライアン・タイリー・ヘンリーは、今作でインディペンデント・スピリット賞などに候補入りしている

 あまり映画に出てこない、女性の戦士を物語の主人公にしたことも、誇りに思っている。

「社会で見逃されがちな人たちに声を与えることは、とても重要。そのお手伝いができるのが、この仕事の素敵なところだと思っている。誰かが『私の存在を認識してもらえた』と感じてくれたなら、それは作り手である私にとって最高の光栄。この役のためには軍隊に所属する多くの人に会って話を聞いたわ。この映画が公開された今、車の事故などで怪我をして人生を再構築しようとしている人などからも、反響をいただいている。それはとても嬉しい」。

 今作では、初めてプロデュースを手がけた。製作を兼任するプロジェクトは、この後にも複数立ち上がっている。新たなキャリアの転機を迎えた彼女は、私生活でも別の局面に入ったばかり。今年2月、2019年に結婚した夫との間に初めての赤ちゃんが誕生したのだ。母になったことで作品選びに変化が出たかという問いに、プライベートをあまり語りたがらないローレンスは、やや答えにくそうに答える。

「それは確かね。そうならざるを得ない。いつ、どこで撮影がなされるのかなどという物理的なことを、以前よりもっと考えるようになった。それによってすべてが変わるのよ」。

 それでもきっと、彼女はこれからもすばらしい作品を世界に届け続けてくれることだろう。女優としても、女性としても、ジェニファー・ローレンスはますます輝いていくはずだ。

プールの清掃員のバイトをしながら、リンジーは軍に戻れる日を待ちわびている
プールの清掃員のバイトをしながら、リンジーは軍に戻れる日を待ちわびている

「その道の向こうに」はApple TV+にて配信中。

写真提供/Apple TV+

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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