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ワインだけじゃない。スキンケアからお茶まで、ブラッド・ピットが手がける多様なビジネス

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

 元妻アンジェリーナ・ジョリーと訴訟沙汰になっているシャトー・ミラヴァルは、本業のかたわらブラッド・ピットがお金とエネルギーを注いできた、情熱のプロジェクトだ。このロゼワインは、今やカリフォルニアではメジャーなスーパーのほとんどで販売されており、すっかりお馴染みの存在となった。

 ワイナリーを含むこの南仏の不動産は、2012年にピットとジョリーが共同で購入したものだが(ピットのほうが多めにお金を出している)、ジョリーはワイナリーにほぼかかわってきていない。このワインのブランドの成長は、ひとえにピットの力によるものだ。

看板商品(右)のほか、やや低価格のStudio by Miraval(左)も展開する(筆者撮影)
看板商品(右)のほか、やや低価格のStudio by Miraval(左)も展開する(筆者撮影)

 ピットはもともと、建築をはじめ芸術に強い興味を持ち、自宅のデザインや改装もこだわりをもって行ってきた。そのおかげで、ジェニファー・アニストンと結婚していた時にはビバリーヒルズに購入した新居の改修工事が永遠に終わらず、アニストンをいらいらさせたりしたようである。彼はまた、彫刻を趣味にもしている。

 しかし、最近になって、ピットは自分のセンスをビジネスに結びつけるようになってきたのだ。ワインは彼にとってスタート地点。今、彼はほかにも自己表現の場を見つけ、それを世の中の人たちとシェアしている。

 ひとつは、この秋発売開始となったユニセックスのスキンケアブランド「Le Domaine」。シャトー・ミラヴァルで栽培されるブドウを使ったもので、ボルドー大学の教授とのコラボレーションで生まれた。ボトルのデザインが洒落ているのも、いかにもピットらしい。ただし、クリームは50mlで275ユーロ(約3万9,000円)、セラムは30mlで350ユーロ(約4万9,500円)と、相当にお高めである。

Le Domaineはボトルのデザインも洒落ている(Le-domaine.com)
Le Domaineはボトルのデザインも洒落ている(Le-domaine.com)

 2020年にロンドンのセルフリッジスでデビューした「God’s True Cashmere」も、やはり高級志向。一時は恋仲かと噂も出た友人でジュエリーデザイナーのサット・ハリと立ち上げた、肌触りの良さ、着心地の良さを最大重視するファッションブランドだ。長袖のシャツは1,640ドル(約23万9,000円)から。「People」に対し、ピットは、「カシミアは上品で高品質。それに着心地が良い。一生物で、人にあげることもできる」と語っている。服に付けるラベルも100%リサイクルの綿を使うなど、細かいところにもこだわる。

 一方、一般人にも手が届きやすいのが、低カロリーのスパークリング・ティー「Enroot」。フィリピン出身の女性クリスティーナ・パトワ、元タレントエージェンシー勤務でピットの25年来の友人であるジョン・フォーゲルマンとのパートナーシップで生まれたプロジェクトだ。

 パトワが「Forbes」に語ったところによると、ピットは優れた直感とアイデアに溢れた人。シェフをコンサルタントとして連れてきては、すべての段階で味見をし、これだというレシピを決めていったという。パッケージについても、ボトルやキャップにプラスチックを使わないことを提案したり、ラベルに使われている木の絵も自分でスケッチしてみせたりしたとのことだ。「Enroot」の商品は、ロサンゼルスで人気の自然派スーパー「Erewhon」で販売されているほか、多くのホテル、レストランに入っている。

God's True Cashmereのインスタグラムより
God's True Cashmereのインスタグラムより

 ピットがアメリカ版「Vogue」に語ったところによれば、このようにビジネスに手を広げ始めたのには、過去の婚約者グウィネス・パルトロウの影響があるらしい。パルトロウは、無料のメール通信として始めた「Goop」を影響力のあるショッピングサイトに成長させ、今や女優よりこちらを本業とするまでになった。「God’s True Cashmere」が「Goop」で扱われているところを見れば、友達としてふたりが今も仲が良いというのは本当だろう。ただし、「Goop」が扱う数多くのビューティ商品の中に「Le Domaine」が入っていないのは、やや気になるところだが。

俳優、プロデューサーとしてもあいかわらず好調

 肝心の映画ビジネスも好調だ。これから賞レースが本格化していくが、健闘するのではないかと思える作品に、ピットは複数かかわっている。俳優として出演するのは、「Babylon」。ハリウッドの初期を描く今作で、共演はマーゴット・ロビー、トビー・マグワイア、キャサリン・ウォーターストンら。「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼルが監督すること、また、オスカー投票者が好む傾向にある業界ものであることで、期待が高まる。

次回主演作「Babylon」の1シーン(2022 Paramount Pictures. All Rights Reserved)
次回主演作「Babylon」の1シーン(2022 Paramount Pictures. All Rights Reserved)

 プロデューサーとしては、11月に北米公開される「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」がある。ハーベイ・ワインスタインのセクハラを暴露した「New York Times」のふたりの女性記者を描く実話ものだ。ハリウッドを、いや社会全体を揺さぶることになった「#MeToo」の誕生物語とあり、社会的な意義のある作品といえる。折しも公開のタイミングでワインスタインのロサンゼルスでの刑事犯罪が始まるため、さらに話題を呼ぶことになるのは間違いない。さらに、先月のトロント映画祭で観客賞の次点だったサラ・ポーリー監督、ルーニー・マーラ主演の「Women Talking」でも、ピットはエグゼクティブ・プロデューサーを務めている。

 ピットはつい2年前、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」でオスカー助演男優賞を受賞したばかり。この夏の主演作「ブレット・トレイン」も、全世界で2億3,800万ドルを稼ぐヒットとなった。スターとしてずっとトップを走り続けてきた彼は、今もまだその座をしっかりとキープしている。そんな彼の人生に影を落とすのが、元妻ジョリーとの醜い争いだ。

 ジョリーのように、ピットも自分の映画のプレミアに子供たちを連れて行きたいに決まっている。自分が手がけたカシミアの服やスキンケア商品も、ぜひ子供たちに見せてあげたいことだろう。そして、父を誇りに思う子供たちの顔を見たいはずだ。そんな日がきっと近いうちに来ることを、ピットのために願ってやまない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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