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ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー:情熱の略奪愛はなぜ憎しみの泥沼訴訟に至ったのか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
熱愛の末カップルになったふたりだが...(写真:ロイター/アフロ)

 アンジェリーナ・ジョリーによる離婚申請から丸6年。ブラッド・ピットとジョリーの争いが、ますます泥沼化している。今年2月には、ふたりが共同所有する南仏のワイナリーの半分の権利をジョリーが勝手に売ったことに対してピットが訴訟を起こし、今週はジョリーがそれに対抗する文書を裁判所に提出した。

 その中で、ジョリーは、ふたりが夫婦関係にあった2016年にプライベートジェットの中でピットから受けたDVを詳細に綴っている。離婚後、ジョリーが持つ半分のワイナリーの権利をピットが買うはずだったのに交渉が決裂し、別の会社に売るはめになったのは、過去のDVについて話さないと誓う書類に署名するようピットが要求してきたからだというのが、ジョリーの主張だ。

 もちろんそれはジョリーの言い分であり、真実なのかはわからない。ピットは彼女が語るような暴力を振るっていないと反論しており、それが本当であれば、そんな書類を用意するはずはないのだ。

 当時の報道を振り返っても、プライベートジェットの中で酒を飲んでいたピットがジョリーと言い争いになり、止めようと間に入った長男マードックス君にたまたまピットが触れてしまったのはたしかなようだ。それでFBIや児童福祉のソーシャルワーカーが時間をかけて調査をしたのだが、DVはなかったということで解決した。そんな結果もあって、世間はピットがDVをしていたと疑うこともなく(ジョリーが被害を訴えたのはその1回だけで、以前から日常的にあったわけではない)、ピットはその後も順調なキャリアを築き、オスカーまで取っている。

 それが面白くないのか、ジョリーは今年春、匿名で、2016年の調査の詳細情報を公開するよう、FBIを訴訟した。そうすることでメディアがこの件を取り上げることをジョリーは期待したのだと、ピットの側は見ている。ワイナリーの件でピットに訴訟されたことも、ジョリーは、DV疑惑をぶり返すチャンスとして使ったのではないか。

アメリカのスウィートハートから奪い取った相手

 それにしても、ジョリーはどうしてピットをそこまで憎むようになったのだろう。そもそも彼は、ジョリーが狙いを定め、誘惑して、見事に奪い取った相手なのだ。

 タイミングは、完璧だった。ピットとジョリーが「Mr. & Mrs. スミス」の共演で出会った時、ピットはアメリカのスウィートハートとしてアメリカ国民から強く愛されるジェニファー・アニストンと結婚していた。だが、映画女優として尊敬されたいという野心を持つアニストンは、子供を持つのはレギュラー出演するテレビ番組「フレンズ」が終了してからと言っていたのに、終わる時期が決まるやいなや立て続けに映画を入れてしまったのだ。

ブラッド・ピットとジェニファー・アニストン(2000年)
ブラッド・ピットとジェニファー・アニストン(2000年)写真: ロイター/アフロ

 果たして自分が子供を持てる日は来るのか、我慢するしかないのかとピットが煮えきらない思いを抱いていたところへ、シングルマザーとして養子マードックス君を育て、すでにオスカーも持っており、飛行機を操縦する趣味もあれば国連を通じて慈善事業に貢献しているジョリーが現れた。どうでもいい映画のために子供を持つことを拒否する妻に比べ、この女性はなんと刺激的なことか。

 ジョリーも、ピットがそう感じていることは十分認識していた。ピットにすっかり懐いたマードックス君が「あなたは僕のパパなの?」と聞いたというのも、裏でジョリーが糸を引いていたのではないか。いずれにせよ、その言葉がピットの心に強く響いたのは想像にかたくない。この女性と一緒になって、この子の父親になる自分の姿を思い描くたびに、その願望は強くなっていったことだろう。

 そしてついにピットはアニストンとの破局を決意した。少なくとも敬意を払ってか、離婚申請をしたのはアニストンだったが、そうなるとすぐにもピットはジョリーのもとに走る。それからまもなく露出したアフリカの海辺でバケーションを楽しむピット、ジョリー、マードックス君のパパラッチ写真は、彼らがカップルになったことの決定的な証明になった。その写真はジョリーの垂れ込みで撮影されたものであることが、最近明らかになっている。彼女はそうやって世間に勝利宣言をしたのだ。

 そこへきて、妊娠がトドメとなった。ピットがほしくてたまらなかった、自分の子供。アニストンが生みたがらなかった自分の子供を、ジョリーは妊娠してくれたのだ。それまでジョリーは「世の中には親がいない子がたくさんいるのだから、自分の子を作るつもりはない。養子はもっと取るつもりだけれど」と言っていた。そんな彼女に「あなたの子ならほしい」と言われて、ピットは天にも昇る心地だったのではないか。

 その後、このふたりは、さらに養子と実子を迎え入れ、6人の子供を育てる大家族となる。アニストンとの結婚前に「7人子供がほしい」と言っていたピットにとっては、理想的だっただろう。子供たちを連れて世界を飛び回るこのカップルは、とても幸せで満足しているように見えた。

 しかし、実はその頃から、話の端々に、育った環境の違いによる価値観の相違は見られている。そこから生じる不満が、少しずつ溝を深めていったのかもしれない。

子育てについての価値観の違い

 ハリウッド俳優ジョン・ヴォイトを父に持つジョリーは、映画の都ロサンゼルスに生まれ育った。一方、ピットは一般人の両親のもと、オクラホマ州に生まれ、ミズーリ州に育っている。

 そんなふたりは、6人の子供をどう育てるべきかで意見が違っていた。ピットは自分が育ったように、ひとつの決まった学校に通わせ、普通の子供時代を送らせたいと思った。ジョリーは自分たちと一緒に世界を飛び回らせて、世界のあちこちを見せるのが子供たちのためだと考えた。結果を見れば、ジョリーが押し切ったことがわかる。

 彼女が思い通りにした例は、初期にもあった。実子シャイロちゃんが生まれ、マードックス君、ザハラちゃんと合わせて子供が3人になってまもなく、ふたりはベトナムから3歳半の男の子パックス君を養子に取ったのだが、実はピットは反対だったというのだ。もっと養子を取ることに反対だったのではなく、「今はその時期でない」と思ったのである。この時ふたりは破局するかというほど揉めたそうだ。

 そのことを後で聞かされたパックス君は、当然ながら、良い思いをしなかったという。だが、誰がわざわざそんなことを本人に聞かせたのだろう。ジョリーは早くから子供たちを自分の味方につけるよう計算して動いていたのかもしれない。また、ピットは自分の父がそうだったように、愛はあるが厳しいお父さんであろうとした。一方、ジョリーは子供に甘いお母さんで、そこにも大きな違いがあった。

ピットとジョリーはいつも子供たちを連れて移動していた
ピットとジョリーはいつも子供たちを連れて移動していた写真:Splash/アフロ

 そんなことがあっても、ふたりは、恋に落ちてほぼ10年経った2014年、晴れて結婚している。子供たちが望むからというのが大きな理由だったが、ふたりにしても、結婚という形を取ることで、あらためて相手としっかりやっていこうという気持ちがあったのではないか。

 だが、そううまくはいかず、お互いの間には不満が募っていった。ピットの酒好きは以前からのことながら、そんな中で次第に量が増えていったのかもしれない。あるいは、ジョリーがピットを嫌いになっていく中で、それまでは許せていた彼の飲酒が許せないことになっていったとも考えられる。そうしてついに離婚をすると決めた時、ジョリーにとって、飲酒は、彼から彼が何よりも大切にする子供たちを奪うための切り札となったのである。

飲酒をやめてもピットと子供たちを引き離す

 その決定的な仕打ちを受けて、ピットはすっぱり酒をやめた。その更生ぶりは裁判所にも認められ、彼が子供たちと面会をする環境は次第に良くなり、最終的に50/50の共同親権が実現した。なのに、それに不満なジョリーは、うまい口実を見つけて判決を覆したのである。飲酒ができるだけ会わせないための理由だったのなら、酒をやめた今、彼が子供たちが会っても問題ないはずだ。つまり、それは本当の理由ではない。彼女はとにかくピットを苦しませたいのだ。

 では、なぜ彼女がそこまで彼を恨むのか。そこは、はっきりしない。子育て方針の違いこそあれ、ピットが子供たちを愛していることは、誰よりも彼女が知っているはずだ。だからこそ、子供たちと引き離すことが最高の仕打ちだとわかっているのである。こんなふうに泥沼を引きずることは彼女自身のイメージのためにも良くないが、彼女はそれを厭わない。ピットはジョリーの悪口を一切公言しないのに、ジョリーは自分のイメージを多少犠牲にしてでもピットのイメージをさらに悪くしようとしている。

 彼女は究極の目的は何なのか。ピットがDV男と認定され、業界からブラックリストされることか。だが、ピットは法的にも6人の子供たちの父親だ。父親がそんな状況に追いやられることが子供たちにとって良いこととは思えない。

 恋に落ちた頃、そして6人の子供を持つに至った頃。ジョリーには彼を愛していた時期があった。それらの時間を、彼女は今どう振り返るのだろう。いずれにしても、今、この元カップルに平和の兆しは見えない。かつてあった愛の強烈さが、その事実をより暗いものにする。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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