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アンバー・ハード、弁護士を変更。新たに雇ったコンビは「言論の自由」が専門

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ハードの弁護士を務めたイレーン・ブレデホフト(左)とベン・ロッテンボーン(右)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 アンバー・ハードが、ジョニー・デップに対する控訴に向けて戦略を変えた。これまで彼女の弁護士チームのトップを務めてきたイレーン・ブレデホフトを切って、別の弁護士を雇ったのだ。

 新たにやって来たのは、フィラデルフィアを拠点とするデビッド・L・アクセルロッドとジェイ・ワード・ブラウン。言論の自由についての訴訟を得意とする彼らは、2017年にサラ・ペイリンが「New York Times」の意見記事をめぐって起こした名誉毀損裁判でも、被告側の弁護をして見事に打ち勝ってみせた。ブラウンは、30年以上にわたってジャーナリストやドキュメンタリー映画監督を弁護してきた人。アクセルロッドは元連邦検察官で、企業や個人の民事訴訟を手がけてきている。

 アクセルロッドとブラウンは、ハードの広報チームが作成したプレスリリースの中で、「控訴でミズ・ハードの弁護をさせていただける機会をいただけたことを、私たちは歓迎します。言論の自由は、すべてのアメリカ人にとって重要です。上訴の裁判では、人気に惑わされることなく正しく法が適用され、ミズ・ハードに対する判決が覆されて言論の自由が再び確約されると、私たちは信じています」と声明を発表した。

 一方、ブレデホフトは、「バトンタッチをするのに、今はちょうど良い時です。アンバーと上訴のチームが成功に向けて進んでいく中で、私はできるかぎりのお手伝いをします」とコメントをしている。先の裁判でブレデホフトの次に重要な役を担ったベン・ロッテンボーンは、上訴でも弁護士チームに残るという。

 4月に始まり、6週間に及んだ名誉毀損裁判で、ハード側の主張はデップに暴力を受けていたということに終始していた。「言論の自由」が持ち出されたのは、ロッテンボーンによる最終弁論だ。つまり、ギリギリまでハードのチームはこの論点について考えていなかったということである。裁判に負けた後に受けた独占テレビインタビューで、ハードが「言論の自由」を出してきたことを考えても、彼女らは「最初からこの路線で行くべきだった」と後悔するようになっていたのかもしれない。

 しかし、このテレビインタビューでも、ハードはインタビュアーのサヴァンナ・ガスリーに「嘘を言って誰かの名誉を傷つけることは言論の自由に含まれませんよ」と言われている。そして、裁判の焦点である、ハードが書いた「Washington Post」の意見記事は嘘にもとづくと、陪審員たちによって判断されている。ここについてはどうするつもりなのだろうか。

 同じプレスリリースで、ハードの広報担当者は「新しい弁護士チームによる控訴では、たくさんの新しい証拠が明らかにされます」とも述べている。しかし、それらの新しい証拠がいったいどこに隠れていたのか、甚だ疑問だ。ハードがテレビのインタビューで言った「裁判に出すことが許されなかった心理カウンセラーのノート」も、実際には存在していないと思われる。デップから日常的に激しい暴力を受け、鼻が折れたり、目の周りが真っ黒になったりしたとハードは言っているが、それを証明する写真も、医師の診断書や目撃証言も、裁判には出てこなかった。全米の15都市にオフィスを構え、合計600人の弁護士を抱えるこの大手弁護士事務所に勤めるコンビがどんな魔法を使うのか、興味が持たれる。

デップは25年ぶりに映画を監督

 そうやってまだ裁判を引きずりながらも、デップは着実に新しい人生を歩んでいる。最近はディオールがデップとの契約を更新し、彼が出演する「Jeanne du Barry」のビジュアルも公開された。そんなところへ、今度は彼が監督する映画のプロジェクトがあることが明らかになったのだ。

「The Hollywood Reporter」が報道するところによれば、タイトルは「Modigliani」。20世紀初めにパリで活動したイタリア人画家アメデオ・モディリアーニの伝記映画で、アル・パチーノもプロデューサーとしてたずさわるらしい。デップが映画を監督するのは、1997年の「ブレイブ」以来初めてだ。撮影は来年春にヨーロッパで開始するという。

「モディリアーニの人生の話をスクリーンで語らせていただけることを、僕は心から光栄に感じています。辛いことがたくさんありましたが、彼は最後に乗り越えました。それは誰もが共感できる人間ドラマです」と、デップは「The Hollywood Reporter」に語っている。

 デップは先月、自分のアート作品をギャラリーで売り出し、たった数時間で完売させて、話題を集めたばかり。ギャラリーのカタログによると、デップは音楽や演技の前から絵画に強い情熱を持ってきたとのことだ。25年ぶりに挑む監督作が偉大なアーティストの話というのは、まさにふさわしい。真実を語って自由を得たデップは、今、何の心配もなく羽ばたいている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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