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スタローンが再び激怒。自分が生んだキャラクターが「寄生虫に蝕まれている」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

 シリーズ全部の脚本を書き、主演をし、続編のうち4本を監督したシルヴェスタ・スタローンは、「ロッキー」の権利を持たない。最初の脚本を売り込んだ時に、プロデューサーに売ってしまったからだ。

 家賃を払うのにも苦労する無名の俳優だったスタローンは、当時、自分が主演の映画が実現することに大喜び。まさかその映画が世界的に大成功し、続編やスピンオフが作られることになるなど、思いもしなかった。

 だが、権利を持つアーウィン・ウィンクラーが91歳になり、自分も76歳になった今、スタローンは、自分の亡き後、権利がすべてウィンクラーの子供たちに渡ってしまうことを本気で無念に思い始めたようだ。つい先日も彼はインスタグラムでウィンクラーに「少しでもいいから権利が欲しい」と懇願してはその投稿を取り下げたところだが、自分の知らないところでイワン・ドラゴのスピンオフが作られようとしていると知ると、再びソーシャルメディアで怒りをぶちまけた。

 インスタグラムに投稿されたそのメッセージは、「またもや辛い。今、知った」という正直な言葉で始まっている。続いて彼は、「まただよ。このひどい94歳の(注:原文のまま。ウィンクラーは上記の通り91歳)プロデューサーと、まぬけで使えない強欲な子供たち、チャールズとデビッドは、僕に言うこともせずに、僕が生んだもうひとりのキャラクターを食い潰そうとしている」と遠慮なく攻撃。さらに「ファンのみなさんに謝りたい。僕はこいつら寄生虫にロッキーのキャラクターを搾取されることなど望んでいなかった」とファンに呼びかけ、ドラゴを演じるドルフ・ラングレンについても「彼のことは尊敬している。でも僕が見ていないところで起こっていることを彼から教えてもらいたかった」と不満を滲ませた。

(スタローンのインスタグラムより)
(スタローンのインスタグラムより)

 スタローンはまた、同じメッセージをツイッターにも投稿。こちらには「また別のキャラクターを殴り倒したことについて、アーウィン・ウィンクラーと彼の家族に祝福を送りたい」という皮肉なひと言が付け加えられている。

 これら投稿には、「スタローンが書くのでなければドラゴの話じゃない」「あなたが生んだキャラクターなんだからあなたに著作権があるべきだ」「あなたがいなければこれらの映画はどれも存在しないのに」「ハリウッドの欲だ。僕らはあなたの味方」など、スタローンを支持する数多くのコメントが寄せられている。だが、ごく少数ながら、「子供たちに遺すお金は4億ドルしかないからね。かわいそうだね」「このキャラクターであなたはものすごくお金をもらっただろう?何本作ったんだっけ?今になって泣いているのか?ビジネスにおいて自分で決めたことなんだから、男らしくしろ」など、このシリーズで十分稼いだスタローンこそ強欲だと批判するものもある。

たしかにスタローンはたっぷりと稼いだが

 過去に権利を分けてほしいと口にした時、スタローンはいつも同じことを言われてきた。事実、スタローンは、出演、脚本、監督をした時は監督のギャラに加え、興行成績に応じてボーナスをもらってきており、1作目だけでも200万ドル(現在の為替相場で2億6,600万円)以上稼いだと言われる。今の時代でも大金だが、70年代において、それはさらにすごい額だ。また、助演を務めた「クリード」でも、1作目では1,000万ドル、2作目では1,500万ドル前後のギャラをもらった。彼はこの2作のプロデューサーも務めているため、実際にもらった額はもっと多いはずである。2019年の「Variety」で、スタローンに近い人は、「彼はすべての角度から金を稼いだ。今もまだ稼いでいる。なぜ不満を言うのかわからない」とコメントをしていた。

 とは言っても、自分に相談もなく、誰かが自分のキャラクターを使って勝手な話を作ろうとするのは許せないというスタローンの気持ちは理解できる。一方で、ウィンクラーは、プロデューサーとして、あの時無名の俳優に賭け、大きく当てたのだ。ウィンクラーは、当初、ロバート・レッドフォードなど大物スターを主演に据えるつもりでいたが、自分が主演したいというスタローンの願いを聞き入れてあげた。スタローンがいなければ「ロッキー」はなかったが、別の人が買っていれば、スタローンが出る「ロッキー」はなかったのかもしれない。

 悔やまれるのは、最初にしっかり交渉していれば、ということ。だが現実的にそれができたものだろうか。答のないまま、スタローンの中では無念が募っていく。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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