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「ジョニー・デップ、ジャック・スパロウ役に復帰」は本当か?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:Splash/アフロ)

 名誉毀損裁判で身の潔白を証明したジョニー・デップに、またひとつ朗報が訪れた。ディズニーが、「パイレーツ・オブ・カリビアン」6作目にデップの出演を希望しているというのだ。

 ファンが待ち望んでいたそのニュースを伝えたのは、オーストラリアのPoptopic。ディズニーに近い、信頼できる人物がこのウェブサイトに語ったところによれば、ディズニーはデップとの関係修復を望んでおり、名誉毀損裁判が始まる前にも「パイレーツ〜」に再び出演することに興味があるかとデップに連絡を取っていたらしい。彼らはデップに心のこもった手紙を添えたギフトバスケットも送り、その合間にはライターにジャック・スパロウが主演するシリーズ6作目の脚本を執筆させ、この映画と、Disney+で配信するジャック・スパロウのスピンオフシリーズの企画を合わせ、3億100万ドルをオファーしたという。

 この3億100万ドルという数字には意味がある。名誉毀損裁判の反対尋問で、アンバー・ハードの弁護士ベン・ロッテンボーンに「もしディズニーが3億ドルと100万のアルパカをオファーしてきたとしても、あなたは絶対に『パイレーツ・オブ・カリビアン』の映画には出ないと言いましたね?正しいですか?」と聞かれると、デップは笑顔で「ミスター・ロッテンボーン、その通りです」と言ったのである。

 だが、それはおそらくデップの本音ではない。デップはジャック・スパロウのキャラクターに特別な思いをもっている。だからこそ、ハードがDV被害者として書いた「Washington Post」の意見記事が出た直後に「パイレーツ〜」6作目から降板させられたと知ると、とても傷ついたのだ。筆者も出席した過去の記者会見やインタビューでも、デップはよく「キャプテン・ジャックは一生演じていきたい」と言っていたし、この裁判でも彼がどのようにこの役を作り上げていったのかについて証言している。

 ディズニーから「パイレーツ〜」の話を持ちかけられたのは、デップが「オーシャン・オブ・ファイヤー」をオファーされるも、「自分向きではない」と断った時のこと。その頃、デップは、まだ小さかった長女リリー=ローズちゃんと一緒にアニメーション作品ばかり見ていたので、キャプテン・ジャックをこれらの漫画のキャラクターのように演じてみたら面白いのではないかと思いついた。それで、脚本には典型的なヒーローとして描かれていたこのキャラクターを、自分のアイデアでまるで違うものに変えていったのである。それを見たディズニーは不服そうだったと、デップは振り返っている。

 デップがいなければあのキャプテン・ジャックは生まれなかったし、あのキャプテン・ジャックがいなければ「パイレーツ〜」はここまでの大ヒットシリーズにはならなかった。さらにデップは「パイレーツ〜」1作目でキャリア初のオスカー候補入りを果たしている。あらゆる意味で、キャプテン・ジャックはデップのキャリアにおいてとても重要な存在なのだ。彼を「パイレーツ〜」に呼び戻すのは、とても筋が通っている。

 しかし、この報道を鵜呑みにしていいのかどうかは疑問だ。まず3億ドルという額が、あまりに高い。デップのマネージャーは、デップは「パイレーツ〜」6作目で2,250万ドルをもらえるはずだったと証言している。Disney+で配信するというスピンオフシリーズでプロデューサーを兼任するとしたとしても、桁違いだ。

 また、「New York Post」「Daily Mail」などいくつかのメディアはこのニュースを取り上げているものの、「Variety」「The Hollywood Reporter」「Deadline」など業界専門メディアは無視している。ツイッターにも「本当であってほしいけれど、ただの噂だと思う。彼のジャック・スパロウは最高なんだけど」「3億ドルも払う会社はない」「3,000万から3,500万ドル、それに20%のバックエンド(興行収入に応じて支払われるボーナス)をオファーすれば彼はやってくれると思うよ」など否定的なコメントが多いところを見ると、デップのファンも冷ややかに受け止めているようだ。喜ぶのはもう少し確かな情報が出てくるまで待つべきだろう。

ハードはまだ「アクアマン2」に残っている

 だが、「パイレーツ〜」復帰がどうなるかはさておき、デップのこの先のスケジュールは少しずつ埋まりつつある。裁判終了の後、イギリスでジェフ・ベックとのライブに出演していた彼は、次に出演する映画「Jeanne du Barry」のためにフランス入りしたばかり。フランス人女優マイウェンが主演と監督を兼任する今作で、デップはルイ15世を演じる。

 そして来年夏には、デップのバンド、ハリウッド・ヴァンパイアズがドイツとルクセンブルクでライブツアーを行うことが決定。チケットはすでに発売開始している。また、デップの長年の友人ティム・バートンが監督する「ビートルジュース2」にも出演の噂がある。バートンは今年配信開始予定の「Wednesday」にもデップを出したかったのだが、Netflixに阻止されてかなわなかったという話もあるだけに、この話が実現することを願いたいものだ。

 一方で、ハードの出演シーンが「アクアマン2」に残るのかどうかは、いまだに不透明のまま。ハードは裁判で、この続編から自分の出演シーンやアクションシーンがどんどん減り、「完成版に自分が残っているかどうかもわからない」と証言していた。彼女が敗訴すると、ワーナー・ブラザースのエグゼクティブのひとりは、一般には非公開にしているインスタグラムで、「アクアマン2」にハードの出演シーンはないと宣言している。

「アクアマン」1作目のロンドンプレミアに出席したアンバー・ハード
「アクアマン」1作目のロンドンプレミアに出席したアンバー・ハード写真:Splash/アフロ

 しかし、判決の後に行われたテスト上映では、ハードのシーンが20分から25分あったとの報告があるのだ。それ以前の報道ではハードのシーンが10分前後にカットされたとあったのに、実際にはもっと多く、判決の後も減らしていないということである。

 これらのテスト上映は、観客の正直な反応を知るためのもので、業界人やメディア関係者の多いロサンゼルスやニューヨークから遠く離れた街を選び、一般人を募って行われる。大きな決断をする前に、ハードが出ている映画を普通の人がどう受け止めるのかを、スタジオはまず見極めようとしているということだろう。

 だが、ワーナーは、デップがイギリスのタブロイド紙を相手に起こした名誉毀損裁判で負けると、すぐに彼を「ファンタスティック・ビースト」から降板させた。そう考えれば、この扱いはデップにとって不公平に思える。それに、「アクアマン2」からハードを削除しろというオンラインの署名運動には、460万人以上の署名が集まっているのだ。スタジオにとってこの声が気にならないはずはない。「パイレーツ〜」にデップが戻るのかどうかもだが、「アクアマン2」のハードがどうなるのかも、引き続き注目される。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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