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ポール・ウォーカーの娘とリタ・モレノが中絶経験を告白。米連邦最高裁の判決を批判

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
マーロン・ブランドとの間に妊娠した子を中絶したリタ・モレノ(写真:ロイター/アフロ)

 時計が、50年前に戻った。現地時間24日、米連邦最高裁判所は、人口妊娠中絶を憲法上の権利と認めた「ロー対ウェイド」を覆す判決を下したのだ。テキサスなど、すでに中絶を事実上禁止している州もあるが、この判決を受け、保守が強い多くの州で、中絶が違法扱いになると見られている。

 女性の権利を剥奪し、中絶を望む女性を危険に晒すこの判決に、人々は激怒。ここロサンゼルスでも大きな抗議デモが起こったが、メディアやソーシャルメディアを通じ、ハリウッドセレブらも強い抗議の声を上げている。

 そのひとりは、故ポール・ウォーカーの娘でモデルのメドウ・ウォーカー。現在23歳で、昨年秋に結婚したウォーカーは、2020年に中絶していたことをインスタグラムで明かしている。

「中絶をするという決断をするのに苦しんだ女性はたくさんいます。私も、世界がパンデミックで崩壊していた2020年、中絶を決めました。それはとてもプライベートでパーソナルな経験でした。そうあるべきなのですが。幸運にも、私は、その辛い過程を支えてくれるすばらしい医師に恵まれました。そのおかげで、幸せで健康な今日の私がいるのです」と、ウォーカー。最後に彼女は「中絶を禁止することで中絶はなくなりません。安全な中絶がなくなるのです」と訴えた。

 1961年の「ウエスト・サイド物語」でオスカー助演女優賞を受賞し、スピルバーグによる「ウエスト・サイド・ストーリー」にも出演したリタ・モレノは、最高裁の判決が出た後、「Variety」のインタビューに応じ、「絶望的な気持ち」と心境を語っている。現在90歳のモレノは、「ロー対ウェイド」判決が出る前で中絶が非常に難しかった時代に、マーロン・ブランドの子供を妊娠したことがあるのだ。この事実については、過去に回顧録やドキュメンタリーの中でも触れられていた。

「マーロンは友達を通じて医師を見つけてきてくれました。マーロンはその医師に500ドルを払いました。闇医者ではなく、本物のお医者さんでした」と、モレノは当時を振り返る。それでも、その医師はきちんとした手術をせず、帰宅すると出血が始まり、モレノはブランドによって病院に運び込まれた。

「あの医者は正しいことをしなかったのです。あの時はわからなかったけれど、私は死んでいたかもしれません」と言うモレノは、「ロー対ウェイド」判決が出た時、大喜びした。だが、最近また悪いほうに向かっていることも感じていたという。

「ヒラリー・クリントンもみんなに警告していましたよね。こうなることはわかっていたから、ショックは受けていません。それでも驚いています。私が一番思うのは、若い女の子たちのこと。極端な例を挙げるなら、レイプで妊娠させられた女の子たち。フェアじゃないという表現は弱すぎますが、フェアじゃありません」と、モレノは述べている。

男性セレブもトランプと共和党を批判

 昨年の大晦日に99歳で亡くなったベティ・ホワイトは、生前のインタビューで、「もし男性が妊娠できるなら、きっとジフィー・リューブ(街のあちこちにある、予約なしで素早く車のオイルチェンジをしてくれる店)で中絶を扱っているでしょう」と語っていた。だが、今回の判決に対しては、男性セレブからも強い抗議の声が上がっている。

 ジョン・レジェンドは、「ストーム・トルーパーがやってきて、女性たちに政府が押し付ける出産を受け入れろと言う。胸が悪くなる」とツイート。ジャック・ホワイトは、インスタグラムに投稿した長いメッセージの中で、こうなったのもトランプが大統領だった時に保守派の判事を3人も任命し、最高裁が右寄りになったからだと批判、「トランプ、あなたはこの国を50年前に引き戻しましたね。あなたのお父さんは天国から笑顔で手を振ってくれているでしょうか。でも反対の手には、裏でこっそりと払ってやった中絶の記録があるんじゃないですか」と書いた。しかし、何もできなかった「弱い」民主党を非難することも忘れていない。

 セス・マクファーレンも、トランプが勝った2016年の大統領選の悪影響であることを指摘しつつ、「この先どこまで行くかはアメリカの投票者にかかっている」と有権者たちによく考え、投票することを促した。一方でジョシュ・ギャッドは、「今日は280字もいらない。ただひと言:怒り」とツイートしている。

 つい最近、アメリカでは、禁じられていた中絶を求めて苦悩する60年代の女性を描く複数の映画が高く評価されたばかり。ひとつは昨年のヴェネツィア映画祭で上映され、先月アメリカで限定公開されたフランス映画「Happening」。そして、今年のサンダンス映画祭で上映された「Call Jane」と「The Janes」だ。この2本は同じ事実を語るもので、前者はドラマ、後者はドキュメンタリー。これらのどの映画でも、妊娠するには必ず男性がかかわっているのに、中絶を禁止することで女性が一方的に人生の選択肢を狭められること、それに逆らって中絶を求める場合、女性がどのような危険をおかすことになるのかがリアルに語られている。

「Call Jane」に主演するエリザベス・バンクスは、 ツイッターを通じ、「いつ、誰と親になるべきかを政府が決めるべきでないと信じる家族、男性、女性にとって最悪のニュース」と、この判決を嘆いた。だが、彼女はまた「人権のための闘いは、これで終わりでありません」とも宣言している。

 その通り、諦めずに闘い続けるまでだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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