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「絶対払えない」アンバー・ハードから、ジョニー・デップはどう金を取り立てるのか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
イギリスでファンに囲まれるジョニー・デップ(写真:Splash/アフロ)

 勝訴から1週間。ジョニー・デップが祝福ムードに酔っている。音楽活動で現在イギリスにいるデップは、現地時間日曜、バーミンガムのインド料理店に20人ほど親しい人を招待し、貸し切りパーティを開いた。報道によれば、デップはその一晩で5万ポンド(およそ821万円)を落としていったそうだ。

 また、火曜には、インスタグラムにあらためて支持者への感謝のメッセージを投稿。ヴァージニア州フェアファックスの裁判所の前に集まってくれたファンに手を振る映像や、舞台でライブ演奏する映像を編集した動画とともに、「僕にとって最も大切な、忠実で揺るぎない支持者の人々へ。僕たちはどんなところにも一緒に行き、すべてをともにしてきました。同じ道を歩き、一緒に正しいことをしてきました。みなさんが、それを大事なことだと思ってくれたから。これからは、一緒に前へ向けて進みましょう。以前からそうですが、あなたたちこそ僕の雇用者です。あらためて、ただ、ありがとうと言いたいです」とファンに感謝を捧げた。

 だが、ここから前に進んでいく上で、デップは裁判で勝ち取った合計1,035万ドルを、ハードからどう回収するのだろうか。デップもハードに200万ドルの支払いを言い渡されたので、差し引きした場合、ハードの支払い分は835万ドルとなるが、それでも相当だ。判決の翌朝にテレビ出演したハードの弁護士イレーン・ブレデホフトは、ハードがそのお金を払えるのかと聞かれると、「絶対に払えません」と答えていた。

 ハードが裁判で証言したところによると、「アクアマン」で得たギャラは100万ドル、続編はその倍。彼女が2019年、ロサンゼルスのダウンタウンから東へ車を2時間半以上走らせたところにあるヤッカ・バレーに購入した一軒家は、現在100万ドル前後の価値があると推定されている。この裁判のための高額な弁護士代は、その家のための保険でカバーされたようだし、離婚の時にデップが支払った700万ドルの残りもまだあるだろう。デップはそれらを全部差し押さえた上で、不足分は、将来ハードが仕事をして得るギャラの一部か全部を、裁判所を通じて支払わせることができる。

 もっと手っ取り早く終わらせたいのであれば、デップがハードからお金を受け取る権利を安く回収業者に売ってしまうという方法がある。業者はハードが判決で決められた満額を払い切るまで回収するので、その差額が儲けとなり、デップにとっては、得られる金額は大きく減っても、時間と気苦労が省ける。

 しかし、デップがこれらの手段を選ぶことは想像しがたい。どちらも正当な方法で、デップにはその権利があるのだが、この先ずっとハードを非常に苦しめることになるのは誰の目にも明白だからだ。

 裁判の間、デップは最初から最後まで、自分が求めるのは真実を明らかにすることだけだと述べていた。デップの弁護士も、彼の目的は、お金でも、ハードに罰を与えることでもないと言っている。たった今も、デップは「これから前へ向けて進もう」と言ったばかりだ。それなのに時間をかけてでもハードから金を取り立てようとしたら、イメージダウンにつながりかねない。

敗訴した後も自分が被害者だという態度を変えていないアンバー・ハード
敗訴した後も自分が被害者だという態度を変えていないアンバー・ハード写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 ということで、最も考えられるのは、示談により、新たな金額で合意をすることだ。払えないで困っているのはハードのほうなので、この話し合いをリードするのはデップとなる。憶測のひとつとして、金額を思いきり安くしてあげる代わりに、今後二度とDV被害者として発言しないようデップはハードに約束させるのではないかということが聞かれる。その条件を受け入れれば、ハードは控訴もできなくなり、この件は終わる。それはデップにとっても悪いことではない。

 ただ、問題は、ハードを信頼できるかどうか。離婚の時にも、デップはハードが要求する通り700万ドルを払ったが、ハードは、カップルだった頃のことは語らないという約束を破ってあの「Washington Post」の意見記事を書いたのだ。また、デップ支持者の間では、後になってハードが「金額を下げたのは彼に罪悪感があるから」と言い出すのではないかと懸念する声もある。そんなふうに他人から言われるまでもなく、ハードがどんな人かは、デップ自身が誰よりも知っているだろう。

 とは言え、今回の場合、約束を破れば、ハードは一生、支払いに追われ続けることになる。名誉毀損裁判を起こされたことについて、ハードは「私はもう先に進みたいんです。でもジョニーがそれをさせてくれないのです」と証言台でぼやいていた。それが本当の気持ちであるならば、今こそハードは真摯にこの判決に向き合うべきである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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