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ある男性陪審員の告白:「アンバー・ハードにじっと目を見つめられるのが嫌だった」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「アンバー・ハードはとんでもなくクレイジーな女」。

 現地時間1日に判決が出たジョニー・デップとアンバー・ハードの名誉毀損裁判で陪審員を務めた男性が、ソーシャルメディアで心境を明かした。

 その男性は、判決が出た後、複数の動画をTikTokに投稿。動画とはいえ、自分が誰であるかを隠しているため、画面には車(ジープ)の中が映っているか、何も映っていないかだ。本人によれば、彼はアジア系とのこと。これから30日間は何も投稿しないが、戻ってきた時、もしかしたら顔を出すかもしれないと述べている。

 最初の動画でこの男性が告白するところによると、彼はポップカルチャーにあまり興味がなく、ジョニー・デップのファンでも、アンバー・ハードのファンでもなかった。だが、ハードが嘘をついていると気づくには時間がかからなかったという。

「アンバー・ハードの証言は、最初から何か不自然でした。彼女はじっと僕の目を見つめるのですが、それが嫌で、僕は彼女が答えている時に彼女を見られなくなりました。僕は彼女のいうことを一生懸命聞きましたが、彼女の言っていることは全部でたらめだと感じました」と、その男性。

 陪審員は、影響を受けないよう、裁判の間、ソーシャルメディアを使ったり、一般のメディアでこの件について読んだりすることを禁じられていた。彼もそれに従っていたため、世間がどんなことを言っているのかまるで知らなかったのだが、判決が出てからTikTokを開くと、ほかの多くの人たちも彼女の言動を不自然だと思っていたことがわかってびっくりしたそうだ。そう、この陪審員がソーシャルメディアから遠ざかっている間、世の人々は、ハードが泣き顔で芝居がかった証言をする様子について、さんざん語っていたのだ。

写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 そんな彼は、デップが勝訴したことについて「ジョニー・デップには良いニュースでした。すべての情報を聞きながら、僕もずっとそうだと感じていました」と祝福。その後に、「アンバー・ハードはなんとクレイジーな女なのでしょうか」とつけ足した。

 別の動画では、敗訴後にハードの弁護士イレーン・ブレデホフトがテレビ出演し、「陪審員はソーシャルメディアの影響を受けていたのだ」など負け惜しみを言ったことについてどう思うかという質問に答えている。

「僕は、思いやりと理解をもって受け止めようとしました。アンバー・ハードは自分が悪かったと絶対に認めません。彼女は裁判でもその姿勢を貫きました。今、彼女のチームは同じことをやっているのです。自分たちが悪かったと認めたくなくて、他人をけなしているのです。もし判決を受け入れたら、罪を認めたと思われると思って。アンバー・ハードのためになんとか威厳を保とうと思ってやっているのでしょう」。

陪審員の多くはデップに5,000万ドルを与えることを望んだ

 この裁判はもともと2018年12月にハードがDV被害者を名乗り「Washington Post」に寄稿した意見記事をめぐって、デップが起こしたもの。だが、その後、デップの弁護士アダム・ウォルドマン(この名誉毀損裁判を担当した弁護士ではない)が、ハードのDV被害は自作自演だなどとメディアにコメントしたことから、ハードがデップを逆訴訟。デップはハードに対し5,000万ドル、ハードはデップに対し1億ドルを求めていた。

 ハードに対する判決は、「Washington Post」の意見記事で問題視される記述を具体的にいくつか挙げ、「名誉を毀損するか」「嘘を言っているか」「悪意があるか」「ここに出てくるDV加害者はデップのことか」などの項目にイエスかノーかで答える形で出された。結果はすべてにおいてイエスで、ハードの完全な負け。損害賠償として1,000万ドル、懲罰的損害賠償として500万ドルの支払いが、ハードに対して言い渡された(だが、後者は、判事により、ヴァージニア州の上限である35万ドルに引き下げられている)。

 この陪審員の男性がコメント欄に書き込んだところによると、陪審員の多くは、デップが求める5,000万ドルを与えるべきだと思ったのだそうだ。「でも、人生で時には妥協も必要ですから」と、彼は書いている。

 デップがハードの名誉を毀損したかどうかについての判決も、ウォルドマンの3つのコメントについて、陪審員は同じように審議をした。その結果、3つのうちのひとつにイエスが出て、デップは200万ドルの支払いを言い渡された。

 問題のコメントで、ウォルドマンは、ハードと友人はデップによるDVをでっち上げて警察を呼んだが、警察は何も異常を見つけられず帰ってしまったため、シナリオを練り直し、ワインを撒き散らすなどして部屋を荒らした後、もう一度警察を呼んだ、と述べている。この男性を含む陪審員らは、ハードらが本当にそうしたのかどうか証明できないことから、これを名誉毀損と判断したという。差し引きしてハードがデップに1500万ドルではなく1300万ドルを払うようにしなかったことについては、「どちらにもそれぞれ責任を取らせるため」と説明。それについて、コメント欄には「じゃあ(デップが払うのは)1ドルでよかったのでは」という意見も出た。

 裁判の間はもちろん、判決が出てからも最低1年が経つまで、陪審員の身元は秘密として守られる。ただ、法廷にいる人には彼らの姿が見えることから、今回の陪審員が男性5人、女性2人であることはわかっていた。この男性は、その5人のうちのひとりということだ。

 他人によって彼らの身元が明かされることはないが、判決が出た後であれば、陪審員が自ら名乗り出るのは自由。裁判について話してもいいし、本を書くことも許される。この陪審員も、動画の中で「これは自分の権利だから」と、ソーシャルメディアでこのような告白をした理由を述べている。彼らは6週間もデップとハードのバトルを目の前で見てきた人たち。その舞台裏に好奇心を持つ人は少なくないはずだ。世紀の裁判について話そうという陪審員が、この後ほかにも出てくるのか、興味が持たれる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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