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アンバー・ハードのゴーストライターらがジョニデに金を要求。「関係ないのに迷惑受けた」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 自分たちに関係のない裁判のために、多くの金と時間を費やされた。その分を返してほしいーー。ニューヨークのアメリカ人権自由協会(ACLU)が、裁判所を通じ、ジョニー・デップにそう要求した。

 ACLUが求める金額は、8万6,253ドル26セント。今日の為替レートで、1,109万円に相当する。彼らによると、デップが裁判所を通じて要求してきたせいで、この名誉毀損裁判のために、7,500以上の書類を見直し、2,000以上の書類を提出することになった。また、COOのテレンス・ドーティを含む3人の関係者が証人として呼ばれ、合計16時間にわたって証言させられることにもなっている。その間、負担が重すぎると妥協をお願いしても、デップは耳を貸してくれなかった。せめてかかった弁護士代くらいは返してもらう権利はあるというのが、彼らの主張だ。

 ニューヨークでは、第三者が裁判に巻き込まれて書類の提出などをした場合、かかった費用の払い戻しを常識の範囲内で請求することができるそうである。ACLUはそれに従って行動しているのだろうが、彼らがデップのせいで迷惑を受けたというのは筋違いだ。そもそもこの裁判が起きるきっかけを作った張本人は、ACLUなのである。

 2016年の離婚でデップから700万ドルをもらえることになった時、アンバー・ハードは、全額を半分ずつふたつのチャリティに寄付すると宣言した。そのひとつとして名を挙げられたのが、昔からずっと平等と自由のために闘ってきた非営利団体ACLUだ。その後すぐ、デップは、分割の1回目にあたる10万ドルの小切手を、ハードのために直接ACLUに送った。その後、ハードがデップに「直接寄付をするな、まず自分に払え」と言ってきたため、デップからの送金はなかったが、ハードから多少の寄付と、ハードと交際していたイーロン・マスクからハードのために50万ドルの寄付があった。

 ACLUは、そんなふうに自分たちに寄付をしてくれるハードをおだてようと思ったのだろう。2018年秋、ACLUは、ハードにアンバサダーになってもらうことにし、DV被害者として意見記事を書いてもらおうと思いついたのである。ただし、実際に記事を書くのはハードではなく、ACLUのスタッフ。ハードはそれを読み、離婚の時にデップと交わした過去のことを話さないという誓約に反しないかを弁護士にチェックしてもらった。

 そしてその記事を、ハードとACLUは、ハードのキャリアで初めての超大作である「アクアマン」のプレミアのタイミングで出そうと決めたのである。映画に注目が集まるのと時を同じくして、女性たちのために闘う、意識が高く勇気のある女優というイメージを人々に植え付けようとしたのだ。

 その記事を読んで、デップはついに堪忍袋の緒が切れた。デップを名指しはしていないものの、「2年前、私はDV被害者を代表する公の人となりました。そして声を上げた女性として、世間から猛烈な怒りを買うことになりました」とあるのだ。2016年5月、デップから離婚を切り出されたハードは、デップがバンドのツアーでロサンゼルスを離れたのを見計らい、あざのある顔で一時的接近禁止命令を申請しにいき、デップからDVを受けていたとメディアに語った。そのニュースを見た人なら、この記事にある匿名の人物を間違いなくデップと結びつけるはずだ。それでデップはこの名誉毀損裁判を起こすことにしたのである。

 ACLUは、もちろん最初からデップを意味してこの記事を書いている。事実、ACLUは、「ジョニー・デップに暴力を振るわれたアンバー・ハードが書いた記事ですよ」と「Washington Post」に売り込んでいるのだ。

 ACLUは、この裁判において、表面的には第三者だが実際には当事者。被告に名前を挙げられなかっただけでもラッキーなのだ。なのに、堂々と被害者づらをしているのである。ソーシャルメディアには、デップの支持者から「呆れた」「信じられない」「ACLUには、もう寄付しない」となどといった声が上がっている。

陪審員の話し合いが始まる

 一方、ヴァージニア州フェアファックスでは、メモリアル・デーの連休が明けた火曜日、陪審員らによる審議が本格的に始まった(先週金曜日の最終弁論の後、陪審員らは比較的すぐに帰宅をしている)。陪審員らから質問が出た時に答えられるよう、弁護士は待機しているが、デップはもうこの地を離れている。この週末には、イギリスでジェフ・ベックのライブに突然出演し、観客を驚かせた。判決が読みわたされる時にも、ヴァージニア州に帰ってくるつもりはないようだ。

 陪審員の素性は隠されているが、裁判をライブ中継していたCourtTVが伝えるところによると、男性5人、女性2人で、年齢は20代から60代まで。陪審員を選ぶ過程では、デップとハードのスキャンダルについて知っている人は少数派だったとも報道されている。

裁判所前には、毎日大勢のデップ支持者が集まっていた
裁判所前には、毎日大勢のデップ支持者が集まっていた写真:ロイター/アフロ

 6週間に及ぶ裁判では実に多くの証拠や証言が出たため、判事は、何を基準に、どのように判決を出すべきなのかを、最終弁論に先立って陪審員たちに伝えていたが、その説明だけでも20分を超えていた。話し合いは決して容易ではないだろう。また、陪審員らは、メディアやソーシャルメディアでこのことについて読むことを禁止されている。外から影響を受けず、裁判で聞いたこと、見たことだけで判断しなければならないのだ。

 しかし、裁判所の前に集まった大勢のデップの支持者を毎日目にすることは避けられず、世間がどっちに傾いているのかは多少なりとも感じているはず。それに、彼らも人間だ。判事に「同情、偏見を持ってはいけない」と指示されても、完全に切り離すのは難しいかもしれない。果たして彼らの話し合いはどちらに行くのだろうか。部屋の外にいる我々は、ただ待つしかない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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