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アンバー・ハードが「アクアマン」の役をもらえたのは、やはりジョニー・デップのおかげだった

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「彼女がどうやって『アクアマン』の役をもらえたと思っているんだ?」

 4月11日に始まった名誉毀損裁判の前半で、アンバー・ハード側の弁護士からハードのキャリアの邪魔をしていたと言われたジョニー・デップは、そうひとことつぶやいていた。デップの弁護士も、ハードへの反対尋問で同じことを示唆していたが、アメリカ時間25日のデップの証言で、ハードが「アクアマン」の役をもらえたのにはやはりデップが関係していたことがわかった。

 再び証言台に呼ばれたデップが語ったところによると、ハードの「アクアマン」のオーディションの話は、2015年9月下旬、デップとハードがリオデジャネイロにいる時、急にやって来た。リオにはデップの音楽活動のために来ていたのだが、オーディションに間に合うために、ふたりはライブが終わるとすぐロサンゼルスに戻ることになっている。

 だが、その後、ある不安材料が出てきた。「アクアマン」はオーストラリアで撮影されるというのだ。その年の春、ハードは、「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」の撮影をしていたデップを追いかけてオーストラリアを訪れた際、決められた手続きを踏まずに2匹の愛犬を連れて行き、7月に起訴されていた。

 それでデップはハードのために、「アクアマン」を製作配給するワーナー・ブラザースのトップ3人に電話をかけたのだという。「チャーリーとチョコレート工場」「ダーク・シャドウ」など、複数のワーナーの映画に主演してきたデップは、スタジオにとって大切な存在だ。この裁判で、ワーナーのDC作品のトップであるウォルター・ハマダが、ハードと主演のジェイソン・モモアとの間にケミストリー(スクリーン上の相性)がなく、編集や音楽で相当に工夫しなければならなかったと証言したことを考えても、役に最もふさわしかったからというより、ビッグスターであるデップへの気遣いでハードが抜擢されたのだと思われる。

結果がどうなろうとも、真実を語りに来た

 デップに先立ち、この日の裁判は、デップの元恋人ケイト・モスの証言で始まった。モスが呼び出されたのは、ハードが証言で彼女の名前を持ち出してきたからだ。ハードは、この裁判で何度も出てきているペントハウスの階段で起きた出来事を描写するにあたり、「ケイト・モスのことが頭に浮かんで」、デップが妹を突き落とすのではないかと恐れ、デップを殴ったと述べている。つまりハードは、過去にデップがモスを階段から突き落としたことがあると暗に言ったのだ。

 だが、イギリスからビデオで証言したモスの話は、それとはほど遠かった。モスによると、その出来事が起きたのはふたりでジャマイカにいた時。デップは先に階段を降りていて、その後自分も降りようとしていたが、雨が降っていて、モスは足を滑らせてしまい、腰を痛めた。モスの叫び声を聞くと、デップは飛んできてくれて、部屋に運び込んでくれたのだという。モスは「階段で彼から押されたり、蹴られたり、落とされそうになったことは一度もありません」と、きっぱり語った。ハードの弁護士は、モスに対して反対尋問をしていない。

デップのためにイギリスから証言したケイト・モス
デップのためにイギリスから証言したケイト・モス写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 この出来事を、ハードは自分に都合の良いように勝手に変えたのだと、デップは批判する。ハードは「噂で聞いた」と言っているが、デップがモスを突き落とそうとしたという噂などないのだ。締めくくりの質問として、自分の弁護士から「ミス・ハードの証言を聞いていて、どう思いましたか」と聞かれると、「狂っていると思いました。彼女のいう極悪な性暴力を聞かされるのは、狂った体験でした。真実のために自分をさらけだすのは、誰にとっても楽しいことではありません。でも、ここまで残酷で悪意のある嘘を言われたのです。全部、嘘です」とデップは答えた。さらに彼は「完璧な人間などいません。でも、僕は性暴力や肉体的な暴力を振るったことはありません」とも付け加えている。そして最後に彼は、「この6年間、自分についてとんでもないことを言われるのに耐えてきました。真実を伝えられることを待ちながら。そして僕はここにきたのです。結果がどうなろうとも、僕は真実を語りに来たのです。嫌々ながら、自分の中に抱え込んできたことを、僕はここで語りました」と述べた。

 その言葉を、陪審員たちはどう受け止めただろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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