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「こんな映画を待っていた。」レオナルド・ディカプリオが「ドント・ルック・アップ」に飛びついたワケ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
長年、環境問題のために尽力してきたレオナルド・ディカプリオ(写真:REX/アフロ)

 人類に大きな危機が訪れていることを科学者から知らされながら、何もしない大統領。だが、金儲けの可能性があると聞くと、がぜん興味を示す。

 レオナルド・ディカプリオの最新作「ドント・ルック・アップ」に出てくるこの情景は、まさにデジャヴ。コロナについて初めて報告を受けた時、当時の大統領トランプは何も動かず、後には「ミラクルのように消えるから」と言った。だが、マラリアの薬が効くかもしれないとわかったとたん、良い投資の機会だと乗り気になっている。

 国民と世界の人々の安全や健康よりも自分の利益を追求する、呆れた政府。社会も社会で、危機感を持つ人と持たない人の間で対立が起きては問題をこじらせる。

 しかし、アダム・マッケイ監督がこの脚本を書いたのは、コロナが世界を脅かすよりずっと前。結果的にコロナの状況と重なったが、彼の意図は、地球温暖化について語ることだったのだ。

「地球はとてもまずいことになっていると、多くの人は10年近く前から気づいていたはず。僕は、ここ4、5年に世の中で起こってきたことを映画でとらえたいと思ったんだ」と、L.A.で行われたトークイベントで、マッケイは語っている。

 そのテーマをどうやって映画にするのかについては、いくつかのアイデアを考えた。中にはスリラーにするアイデアもあったという。その結果、たどりついたのが、彗星が地球にぶつかろうとしているというメタファーを使うブラックコメディだ。

 このアイデアを持ち込まれたディカプリオは、すぐに乗り気になった。ディカプリオは、「タイタニック」で大ブレイクする前から地球温暖化に危機感を持ってきた環境活動家。過去には、製作、脚本、ナレーション、出演を務めたドキュメンタリー「The 11th Hour」(日本未公開)を手がけてもいる。このアイデアを聞いた時、ディカプリオは「神からの贈り物だ」とまで思ったそうだ。

「環境について語る映画を作りたいと、僕はずっと願ってきた。でも、何世紀かにわたって少しずつ起こってきた変化を、映画で緊張感たっぷりに語るにはどうすればいいのだろう?おもしろいストーリーを作るのは、ほぼ不可能だ。そんなところへアダムが天才的なアイデアを思いついたのさ。彗星を使うんだよ。彗星が地球にぶつかってくるんだ。人類、社会、政治家は、それにどう対応するのか。地球温暖化の問題に人間がどう反応してきたかを2時間で語るのに、これは天才的な方法だと僕は思った」(ディカプリオ)。

 ディカプリオが演じる主人公ランダル・ミンディ博士は、ミシガン州立大学の天文学教授。ある日、彼の生徒のひとり、ケイト(ジェニファー・ローレンス)は、未知の彗星を発見する。その彗星は地球に向かっており、半年後には衝突する計算だ。ふたりはホワイトハウスを訪れ、その衝撃の発見を大統領(メリル・ストリープ)に報告。しかし、無関心な大統領は、「様子を見ることにしましょう」と言うだけだ。ことの重大さを理解してもらえないことに大きな苛立ちを感じたふたりは、次にメディアに登場するが、ここでも「暗いニュースはウケない」と考える司会者ら(ケイト・ブランシェット、タイラー・ペリー)から、軽い話題のようにあしらわれてしまう。

 ランダルというキャラクターもまた、ディカプリオにとっては今作の大きな魅力だった。

「ランダルには純粋さがある。そこがとても好き。彼とケイトはメディア慣れしていないし、かっこよくも、セクシーでもない。そんなふたりが強烈にストレスを感じる状況に入っていくんだよ。これまでに僕は科学者からたくさん話を聞いてきている。だからこそ、これは緊迫した問題なんだということをどうすれば人にわかってもらえるのかと、フラストレーションを感じてきたんだ。メディアによるこの事柄の扱い方についてもね」(ディカプリオ)。

 このふたりの説得に、世の中の人々は耳を貸すのか。意外な結末が待ち受けている上、エンドクレジットの途中、さらにクレジットの後にもまだシーンがあり、最後まで笑わせてくれるのは、さすがにマッケイ。ディカプリオとマッケイが望むのは、人々が、笑った後に自分たちが実際に直面している問題について考えてくれることだ。

「この映画がきっかけで人々がこの件について話し合い、そこから民間の企業が動いてくれたらと願うね。今は、すごく大きな行動をすぐに起こさなければいけない時。何かしないと本当にとんでもないことになる」(ディカプリオ)。

「この映画を見て『環境問題は最優先事項だ』と気づいてくれる人が、少しでもいいからいてくれれば。それがこの映画のゴール。僕らは今、かつてない状況に置かれている。僕らは二酸化炭素、温室効果ガスに囲まれている。誰に投票するかにおいても、この問題を重視して決めないとダメだ。もちろん僕だって、ベン・アフレックとジェニファー・ロペスがまたくっついたニュースは気になるさ(笑)。でも、この最も重要な問題とゴシップを同時に追いかけることは、十分可能なんだよ」(マッケイ)。

「ドント・ルック・アップ」は24日からNetflixで配信開始。

場面写真:Niko Tavernise/Netflix

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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