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ミスター・ビッグ俳優に性暴行疑惑浮上。「セックス・アンド・ザ・シティ」ファンはどう受け止めたか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(Craig Blankenhorn/HBO Max)

*この記事には「AND JUST LIKE THAT/セックス・アンド・ザ・シティ 新章」第1話のネタバレが含まれています。ご了承の上、お読みください。

 ミスター・ビッグの突然の死に涙を流したばかりのファンが、複雑な思いを抱いている。ミスター・ビッグを演じるクリス・ノースに、性暴力の容疑が浮上したのだ。

 このことを暴露したのは、「The Hollywood Reporter」。被害者のひとりは、ゾーイ(仮名)、もうひとりはリリー(仮名)という女性。ふたりはお互いを知らず、リリーは今年8月、ゾーイは10月に「The Hollywood Reporter」に連絡を取ってきた。ゾーイが被害に遭ったのは2004年、リリーは2015年。ゾーイによると、先週アメリカで配信開始された「セックス・アンド・ザ・シティ」続編「AND JUST LIKE THAT/セックス・アンド・ザ・シティ 新章」で再びノースが話題にのぼったことから、これまで抑えてきた傷がまた痛み出し、告白しようと決めたのだという。

 その出来事があった時、ゾーイは22歳。L.A.で、セレブリティを扱う会社に新人として入ったばかりだった彼女は、オフィスに訪れたノースから、ウエストハリウッドにある彼のアパートのプールで遊ぼうと誘われた。その時、東海岸に住むゾーイの親友がたまたまL.A.にいたことから、彼女は親友も誘ってプールを訪れる。プールサイドで彼女とノースは楽しい会話をしたが、途中、ノースは「電話を取らないといけない」と、ある本を残して部屋に戻った。彼はその本を映像化することを考えているそうで、「本の感想を聞かせてほしい。読んだ後、本を持って部屋に来てくれる?」と彼女に言い、言われたとおり、彼女は本を持って彼の部屋を訪れた。そこで彼女はレイプされてしまったのだ。

 一方、リリーは、事件当時、ニューヨークのナイトクラブのVIPルームで働く25歳だった。彼女は店に来たノースにディナーに誘われ、指定の店を訪れる。そこで酒を飲んだ後、ノースは「わが家はすぐそこ。ウィスキーのコレクションがあるからおいで」と言い、彼女は従った。本人いわく、男性経験が浅かった彼女は警戒意識が薄く、そこで彼に望まない性行為をされてしまったのだという。

ドラマの展開に悲しんでいたファンだが

 この記事は、「セックス・アンド・ザ・シティ」のファンに、新たな打撃を与えた。ファンは、「AND JUST LIKE THAT〜」第1話の終わりでビッグが心臓発作を起こし、キャリーの目の前で死んだことに大きなショックを受けたばかり。その直後には、ソーシャルメディアに「悲しすぎる」「もう立ち直れない」などのコメントが飛び交った。彼がペロトンという高級エクササイズバイクを使った後に発作を起こしたことから、ペロトンの株価も11%低下。これを受けて、ペロトンは、ライアン・レイノルズのマーケティング会社を使い、驚きのスピードでノースが出演するコマーシャルを製作し、話題を集めたばかりだった。そのコマーシャルに対して、ファンは「ビッグが生きている姿をまた見られて嬉しい」などとコメントしている。

 そこへ来て、この展開だ。すごい早技で大絶賛を受けたレイノルズは、早くもこのコマーシャルビデオを自身のソーシャルメディアから削除。同様にペロトンもこれを削除した。あんなに一生懸命作って、大評判を得たコマーシャルが日の目を見たのはたった数日だったのである。

 だが、多くのファンはペロトンやレイノルズのようには態度を決められないでいるようだ。多く見かけられるのは、これを知っていたから「AND JUST LIKE THAT〜」はビッグを殺したのではないか、というコメント。しかし、これは違う。筆者が前にも書いたように、ビッグが心臓発作で死ぬというストーリーは、2017年の撮影開始直前にキャンセルになった映画3本目の時からあったものなのである。

 ノースが結局こんな人だったということを受け、ツイッターには、「ミスター・ビッグが死んだことがそんなに悲しくなくなった」というようなコメントがいくつか見られる。また、第1話の最後で、ビッグが死にそうなのにキャリーが救急車を呼ばなかったことについての指摘がかなりあったのだが、これについても「だからキャリーは救急車を呼ばなかったのね」「キャリーが救急車を呼ばなかったことに怒っている人は、もはやいない」という皮肉な投稿があった。

 もっと厳しいコメントも、多数。「ミスター・ビッグと呼ぶのはやめよう。彼はミスター・ピッグ(豚)だ」「あそこでミスター・ビッグを殺してくれたのは幸いだった」「さようならミスター・ビッグ」「彼が死んで良かったとみんな思っているよね」というようなものだ。ほかには「こんなトピックで#ChrisNothのハッシュタグが飛び交うのは嫌だろうね」「サラ・ジェシカ・パーカーがこれにどう対処するのかすごく気になる。これは深刻よ。彼は最悪」などというものもある。

「証明されるまでは無実」「なぜ彼女らは今になって出てきたのか」という、この手のニュースでいつも聞かれるコメントもあるが、ごく少数派。「The Hollywood Reporter」の記事は、事件当時に被害者のすぐそばにいた友人や病院関係者にも取材していることもあり、信憑性はかなり高い。

 注目されるのは、「AND JUST LIKE THAT〜」関係者がどんな声明を発表するかだ。第1話で死に、第2話で葬式もあったビッグは、おそらくこの後の回にはせいぜいフラッシュバックくらいしか登場しないと思われるが、制作側としては何も言わないわけにはいかないだろう。デビュー時から大きな驚きを与えた「AND JUST LIKE THAT〜」は、今、とても困った形で新たな衝撃に直面している。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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