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キアヌ・リーヴス“なりすまし”詐欺が横行。被害者はアジアにも

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

 ソーシャルメディアで出会い、仲良くなった男性の正体は、なんとキアヌ・リーヴス。彼は愛のメッセージをくれ、プレゼントも贈ってくれる。そんな関係がしばらく続いたある日、「映画の資金が必要だ」と、お金を無心してきた。そんな“偽”キアヌ・リーヴスによる詐欺が、ここ数年、横行している。

 アーカンソー州リトルロックに住む70代の女性は、被害者のひとり。「L.A.TIMES」が報道するところによると、その女性は昨年、ソーシャルメディアで男性と知り合い、Googleハングアウトでやりとりをするようになった。話が進む中で、その男性は自分がキアヌ・リーヴスだと明かす。彼は女性にジュエリーを贈ってもくれ、女性はそれを毎日身につけるようになる。ハリウッドスターとの思わぬ恋に夢中になり、女性は彼の近くに住むため、家を売ることまで考え始めた。そんなことが数ヶ月続くうちに、偽キアヌは、1万ドルが必要だと言ってきたのである。気づいた家族が必死で止めたおかげで女性は偽キアヌと関係を断ったが、女性が彼にお金を払ったのかどうかは家族にもわからないそうだ。

 カナダのオンタリオ州ハミルトンの女性は、2,700ドルを騙し取られている。この女性はツイッターでキアヌ・リーヴスを名乗る男性と知り合った。この偽キアヌは「映画の撮影でトルコにいるが、トルコの政府が制限をかけていて自分の口座にあるお金を下ろせない」と、女性にお金を無心してきたという。女性はその言葉を信じて送金しようとしたが、最初に行った銀行の職員は怪しいと疑い、送金を拒んだ。諦めず次の銀行に足を運び、ここでも銀行員から止められたものの、振り切って送金をしてしまった。

 このオンライン記事のコメント欄にも、似たような事例が報告されている。ワシントン州に住む女性は、80代の母が1ヶ月ほどネットでキアヌ・リーヴスを名乗る男性とやりとりし、750ドルを送金しようとしたと書いている。幸い、身分証明書の期限が切れていたため、銀行で送金手続きができなかったとのことだ。やはりワシントン州に住む別の女性は、WhatsAppでキアヌ・リーヴスを名乗る男性と会話をした。最初は甘い言葉をかけてきたが、「婚約者がいる」と言うと、「自分のチャリティに寄付してほしい」と、別の形でお金をせびってきたという。会ったこともないのに「君のことが恋しいよ」と言われ、「馬鹿じゃないのと思った」と、この女性は書いている。

被害者なのに起訴された最悪の事態

 被害者は台湾にもいる。

 この女性は昨年、マッチングサイトで「K34044」というハンドルネームの男性と知り合った。写真を交換しようということになり、届いた写真を見ると、なんとキアヌ・リーヴスの顔。偽キアヌは彼女に結婚を約束し、「ロサンゼルスで天国のような生活をさせてあげるよ。君を女王様のように扱ってあげる」と言った。そして彼は、「次の映画のための資金が必要だ」と言い、女性に口座を開いてほしい、そこから指定する人に送金してほしいと指示をしてきたのだ。何の映画なのかと聞くと、「全部終わったら教えるから」と言われた。

 女性がすべてを知ったのは、警察が訪れてからだ。別の詐欺事件を捜査していた警察は、その事件にこの女性の口座が関係しているのを発見したのである。女性は詐欺の犯人として起訴されたが、口座は偽キアヌに騙されて作ったもので、そこから彼女自身が引き出したお金は生活費に困った時に偽キアヌにお願いして振り込んでもらったものだと証言。最初は懐疑的だった裁判所も最後には女性の主張を認め、女性は無罪となった。

 ところで、偽キアヌはGoogle翻訳を使い、中国語でこの女性とやりとりをしていたとのことである。テクノロジーが進むにつれて、詐欺師が国境を越えるのもやりやすくなったということだ。

相手が本物なのに泥沼になったケースも

 一般人がビッグスターと特別な関係になるなど、普通に考えればありえないこと。だが、ソーシャルメディアを頻繁に使うセレブの中にはコメントに返信してくれる人もいたりするだけに、人は「もしかして」と思うのかもしれない。実際、現在DV容疑で有給の休職処分を受けているロサンゼルス・ドジャースのトレバー・バウアー投手も、被害を訴えている女性とインスタグラムで出会っている。多くのフォロワーを抱える人気選手だけに、まさか返信をもらえることはないだろうと思いつつ、タグ付けして投稿したところダイレクトメッセージが届き、サンディエゴに住むその女性はパサデナの彼の自宅まで呼ばれて、2回関係を持つことになったのだ。

 その結果、ひどい暴力を受けたというのが女性側の訴え。バウアー側は「彼女自身が望んでいたからやったのだ」と主張している。女性が要請した一時的接近禁止命令の延長に関して、判事はバウアーを支持する判決を出したが、この後刑事裁判になる可能性もあり、女性が民事裁判を起こすことも考えられる。

 少なくとも、このケースでは、相手は偽物ではなく本物だった。それでも、ロマンチックで奇跡的だったはずの出会いは、裁判所や警察を巻き込む、醜く、おそらく長引く、お金のかかる争いへと発展してしまった。大好きなスターを相手に空想をめぐらすのは、無害。でも、それが現実になる可能性はとてつもなく低い。それを常に頭に入れ、もしちょっと変な日本語でキアヌ・リーヴスや別のスターを名乗る人からアプローチされたら、注意して対応するようにしたいものだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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