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大坂なおみが有名ジャーナリストの中傷に反撃。「人種差別」「妬み」と一般人も批判

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
大坂なおみからブロックされたメーガン・ケリー(写真:ロイター/アフロ)

 記者会見への出席を拒否、心の病を打ち明けて以来、多くの論議と支援を集めてきた大坂なおみが、意地悪を言ってきた保守派のセレブリティに対し、強く立ち上がった。

 きっかけは、西海岸時間19日、保守派のラジオ番組ホスト、クレイ・トラヴィスが投稿したツイート。トラヴィスは、自分がコントリビューターを務めるウェブサイト「outkick.com」の記事をシェアし、「試合の後にメディアと話すには内向的すぎるからと言って以来、大坂なおみはリアリティ番組、バービー人形を立ち上げて、『SI』(Sports Illustrated誌)の水着特集の表紙を飾っている」と皮肉をつぶやいたのだ。それを見たメーガン・ケリーは、トラヴィスの投稿をリツートし、「日本の『ヴォーグ』と『TIME』の表紙(とインタビュー)も忘れちゃだめよ」とメッセージを付け加えたのである。

 それを受けて大坂はすぐに反撃。「あなたはジャーナリストなのだから、雑誌を作るにはどれだけ時間がかかるかくらいのことは調べるものだと思っていました。それをやっていたら、これらの表紙は全部去年撮影されたものだとわかったはずです。そうでなく、あなたはすぐ飛びついて、ネガティブさをばらまきました。メーガン、もうちょっとましなことをやってください」とツイートし、すぐさまケリーをブロックしたのだ。

 そうされたケリーも負けておらず、今度は彼女が「かわいそうな大坂なおみにブロックされた(彼女が強いのはコートの中だけなのね)。彼女によれば、表紙撮影はメディアに対応するには気持ちが弱すぎると告白する前にやったということだけど、質問をコントロールできないのは嫌というのが本当のところなのよ。認めなさい!」とぶちまけた。

 すると、次はイギリスから、やはりお騒がせな著名ジャーナリストのピアース・モーガンが参加してきて、「私も彼女にブロックされたよ。ミス・大坂が耐えられるのは、褒めちぎってくれる雑誌編集者だけなのだろう」と追い討ちをかけている。モーガンは、3月にハリー王子とメーガン妃が受けたテレビのインタビューを見て怒り、「メーガンの言ったことはまるで信じない」と言って、イギリスの朝番組を降板するはめになった人。その時には、主にアメリカで「人種差別者だ」との声も出た一方、彼の言うことに人種は関係なく、彼が指摘することは正しいという意見も聞かれた。彼はその後もずっとメーガン妃とハリー王子の批判を続けているが、大坂が記者会見を拒否すると表明してからは、彼女のことも批判してきている。

映画「スキャンダル(原題:Bombshell)は、メーガン・ケリーらFOXニュースの女性キャスターがセクハラに対して立ち上がった実話を描くもの(写真/Lionsgate)
映画「スキャンダル(原題:Bombshell)は、メーガン・ケリーらFOXニュースの女性キャスターがセクハラに対して立ち上がった実話を描くもの(写真/Lionsgate)

 ケリーは、保守派のニュースチャンネル、FOXニュースの元キャスター。FOXニュース内でのセクハラを描く2019年の映画「スキャンダル」でシャーリーズ・セロンが演じた人物だ。セクハラに対して立ち上がった勇気は讃えるべきながら、ケリーは問題も多く、FOXの後に始めたNBCのテレビ番組でも人種に無神経な発言をし、番組を打ち切りにさせられたりした。黒人の養子ふたりを育てるセロンも、映画で彼女を演じることにはずいぶん迷いがあったと認めている。

 決して好かれている人物とは言えない彼女の投稿には、一般からも多くの批判が寄せられた。その中には「メーガン・ケリーは前から人種差別者」「2秒でいいから人種差別をやめてみよう」とばっさり斬るものもあれば、ケリーの投稿をもじって「彼女(ケリー)がいつもひどい人だったことを忘れちゃだめよ」「ミス・大坂は自分の手でこれらの評価を勝ち取ったのだということを忘れちゃだめよ。彼女はあなたと違ってすごいのよ」とからかうものもある。

 もっとまじめなものには、「ジャーナリズムについて何も知らない私でも、世界に生中継される会見と、個別に行われる取材は違うということくらいわかります(たぶん後でチェックさせてもらえるのでしょうし)」「黒人/アジア系の若く優秀なスポーツ選手が心の健康について語り、命を救おうとしているのがどうして嫌なの?ああ、そうか、あなたは人種差別発言でクビになっても何も学ばず、黒人女性が成功することに嫉妬しているんだ」などというコメントがある。ざっと見るかぎり、ケリーに同調するツイートは見当たらない。モーガンに関しても同様で、「自分のツイートを見てみろよ。彼女がそれらを見たくないのはわかるだろう?」「彼女は首相ではなくアスリート。別に耐える必要はない」と、大坂への弁護が圧倒的だ。

 大坂のケリーに対する反撃ツイートはもう見られなくなっているが、彼女が投稿した「Sports Illustrated」水着特集の表紙の写真には、数多くのコメントがついている。「こういう注目のされ方ならいいのか?」「テニスに戻れ」という皮肉なものもあるものの、それらについては何人かが「どうしてそういうネガティブなことを言うの?」とぴしゃりと批判。ほとんどの人は「美しい!おめでとう」「誇りに思います」など、大坂に支援と絶賛を贈っている。その中のひとりは、スタンディングオベーションの動画とともに、「大坂なおみ、人はあなたを愛しています」とメッセージを送った。多くの人々の今の気持ちは、そこに象徴されているようだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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