Yahoo!ニュース

「売春婦のような生活」強いられるブリトニー・スピアーズに米で同情の声

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:Splash/アフロ)

 現代のカリフォルニアで、自分のような生活をしているのは売春婦だけ。過去13年、裁判所が定めた成人後見人制度のせいで自由を完全に奪われてきたブリトニー・スピアーズが、ついに自分の言葉でその残酷さを語った。

 彼女に起きていることが不当だとして、近年、アメリカでは、ファンの間で「#FreeBritney」運動が起きている。昨年は、彼女に同情的なドキュメンタリー「Framing Britney Spears」も放映され、運動はさらに盛り上がりを見せた。それでもブリトニーは基本的に沈黙を貫いてきたのだが、先週、電話で裁判所に出廷した機会に、判事にすべてをぶちまけ、成人後見人制度から解除して欲しいと訴えたのだ。

「休みなしで7日間ずっと仕事。本人が同意しないのに仕事を強要し、クレジットカード、現金、携帯、パスポートなど持ち物をすべて没収。そしてほかの人たちを同居させるのです。週7日、24時間、私を監視するために、看護師など、ほかの人たちはみんな私の家に住んでいました。平日は毎日シェフが来て、私のために料理を作ってくれました。彼らはみんな私が着替えるのを毎回見ていました。私が裸の姿を。朝も、昼も、夜も」と、ブリトニーは自分が置かれた状況を、どこかに閉じ込められ、無理やり売春させられて稼ぎをピンハネされる女性たちの状況に重ねている。

 ブリトニーに後見人が必要と判断されたのは、彼女が依存症に悩み、離婚をし、ふたりの子供の親権を元夫ケビン・フェダーラインに取られて、人生のどん底にいた時のこと。しかし、その後、彼女は更生し、ラスベガスでショーを成功させたり、テレビのコンテスト番組に審査員として出演したりするなどして、キャリアを復活させた。その間、彼女のお金と行動は、彼女の後見人に指定された父ジェイミー・スピアーズによって完全に管理されてきている。「Forbes」が報じるところによると、ジェイミーには、ブリトニーの資産から毎月自分の給料として1万6,000ドル(およそ177万円)、オフィス賃貸料として2,000ドルが払われているという。さらに彼はブリトニーの稼ぎの一部も受け取り、彼が「ブリトニーのために」と雇う弁護士や心理カウンセラー、医師、看護師などへの支払いも、ブリトニーのお金から出している。

 それらの人々をブリトニー自身が選択することは許されない。まったく知らなかった人たちが突然彼女の前に現れ、これをしろ、あれをしろと強要しては、彼女からお金を奪っていくのだ。ブリトニーはまた、IUD(子宮内避妊具)を強制的に入れられている。彼女は再婚もしたいし、もっと子供も欲しいと思っているのだが、これを外すことは許してもらえない。「ブリトニーのため」をうたってはいるものの、自分を堂々と批判するブリトニーの恋人サム・アスガリを気に入らないジェイミーは、ブリトニーとサムの間に子供ができた場合、その子や、子供の父親であるサムにもお金をもらう権利が出てくるのが嫌なのではないかという見方もある。

「自分の家族を訴訟したい」と、ブリトニー。「それに、彼らが私に何をしたのかを世界に伝えたいです。秘密にするのは彼らの得になるだけ。こんなに長く、こんな状況に置かれたことで私はどうなったのかを話させて欲しい。私は怒っています。毎日泣いています。私にこんな仕打ちをした人たちのことを話せないなんて、ひどいです」と、彼女は訴えかける。

アンバー・タンブリン:「私もみんなのATMだった」

 そんな彼女の叫びは、人々の心に強く響いた。「New York Times」や「Los Angeles Times」をはじめとする主要メディアは、長く指摘されてきた後見人制度の問題や、避妊を強要することの合法性など、あらゆる側面からこの出来事を報じている。

 セレブリティも声を上げた。ブリトニーの過去の恋人ジャスティン・ティンバーレイクは、「僕らには良いことも悪いこともあった。ずいぶん昔のことでもある。でも、それに関係なく、彼女に起こっていることは間違い。自分の体について女性が自分で決断をするのを制限してはならない」とツイート。パリス・ヒルトンも、DJとして出演したラスベガスのショーで、「ブリトニー、私たちはあなたを愛しているわ。ブリトニーを解放して」と呼びかけた。

 一方アンバー・タンブリンは、「New York Times」に、自らの体験にもとづく同情的な意見記事を寄稿している。ブリトニー同様、決して裕福ではない家に育ち、子供の頃からエンタメ界で活躍して家族を支えてきた彼女は、この記事の中で「私もみんなのATMのように感じました」と告白した。ブリトニーと違い、アンバーは両親と仲が良かったし、働け働けとプレッシャーを与えられることはなかったが、それでも、親が自分の稼ぎを管理することから生まれる不健全さは体感してきたという。芸能マネージャーを務める父と、ビジネスマネージャーとしてお金の管理をする母にはアンバーが毎月給料を払ったし、家族旅行や外食なども、彼女の稼ぎから出た。そのうち遠い親族や友達からもお金をせびられるようになり、誰を信頼していいのかわかりづらくなってきたと彼女は書く。

ファンの間で盛り上がる「#FreeBritney」運動
ファンの間で盛り上がる「#FreeBritney」運動写真:ロイター/アフロ

 女性セレブリティである彼女はまた、ブリトニーが子宮内避妊具を強制的に入れられたことも、特有の視点から見る。

「彼らはブリトニーのお金だけでなく、体もコントロールしたいのです。エンタメ業界にいる若い女性にとって、そのふたつは繋がっているから。それは私自身も経験しました。成長していく中で、家族やハリウッド関係者などみんなが私の体重について堂々と話してきました。私は微笑んでそれを我慢するだけ。黙っていれば、そして痩せていれば、また仕事をもらえるからです」と、アンバーは、ハリウッドに長く存在する女性蔑視を告発する。

悪いのは両親でなくお金

 そんなアンバーは、結婚を機に、ようやく両親と自分の仕事の関係を断ち切った。それは「3人全員にとって辛い体験だった」が、そうしたことに後悔はない。両親は「自分たちの何がいけなかったのか」と思っているようだが、自分に悪いことをしたのは両親ではなく、お金だったのだと、彼女はいう。マコーレー・カルキンも、10代の若さにして、両親を自分の保護者から除名し、プロに自分のお金を管理させることにした。10代の子供が両親を訴訟するとはなんとも大胆な行動だが、そうすることでようやく彼は解放されたのだ。

 ブリトニーは、もう39歳。依存症も克服したし、仕事でも成功している。ファンもたくさんいる。この立派な大人に、別の大人があれこれ命令する必要はない。相談したいことがあれば、彼女自身が信頼できると感じる人に、自分が正しいと感じるお金を払ってするだろう。

「何を言っても信じてもらえないと思ってきた」と、ブリトニーは判事に対する訴えの中で述べている。だが、今、人は彼女の声を聞いた。聞いた以上、もう知らなかった時には戻れない。この次に何が起こるのか、世界が注視している。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事