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パリス・ヒルトンが40歳に。自らの虐待体験に向き合い、子供たちのために闘う今

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

 お騒がせセレブとして知られてきたパリス・ヒルトンが、アメリカ時間17日、40歳の誕生日を迎えた。この記念すべき日に、パリスは、現在の恋人カーター・リームからプロポーズを受けている。ソーシャルメディアで、パリスは、「イエスと言ったわ。永遠を誓うと。この人ほど永遠に一緒にいたいと思える人は、ほかにいない」と、幸せを報告している。

 これは、とても喜ばしいニュースだ。恋多き女であるパリスには、これまでにもたくさんの恋人がいたし、婚約も、これが4回目である。だが、昨年秋アメリカでYouTubeが配信を開始したドキュメンタリー映画「This Is Paris」で、彼女は、恋をしても相手に完全に心を開くことができないと打ち明けていたのだ。映画の中にはまた、当時付き合い始めたばかりだったアレックス・ノヴァコヴィックが自宅にやってくる前、家の中に隠しカメラを設置する様子も出てきている。彼女は、他人を信頼できないのである。それには、18歳の時、当時の恋人リック・ソロモンに、プライベートで撮影したふたりのセックス映像をリークさせられたということも影響している。彼以外の元恋人から、肉体的、あるいは精神的な暴力を受けたこともあった。強い愛と虐待の違いを見極められないせいで、パリスは、辛い体験を繰り返してきたのである。

 その原因を作ったのは、高校生の時に入れられた、ユタ州の寄宿学校である。そこで指導者から虐待を受けたことが、精神に重大な影響を与えたのだ。

 ニューヨークに住んでいたパリスがそんなところへ送られたのは、14歳から16歳にかけて、彼女がとにかく遊び回ったから。モデルをやったり、セクシーすぎる服装をしたり、偽物の身分証明書を使ってナイトクラブで遊んだりなど、母にダメと言われることを、パリスは全部やった。それで両親はついに、問題行動を起こす生徒のための学校プロヴォ・キャニオン・スクールに娘を入れることにしたのである。だが、その学校のひどい実態は、両親も知らなかった。体罰や言葉の暴力は日常。生徒たちは毎日、よくわからない薬を飲まされるのだが、飲んだふりをして捨てていたことがバレたせいで、パリスは独房に閉じ込められた。シャワーを浴びている姿を、男性の指導員に監視されたこともある。両親に伝えたくても、もちろん指導員がそれを許さない。たとえ伝えることができたとしても、指導員から「この子は嘘をついている」と親に連絡が行くことがわかっていたから、生徒たちは黙って耐えるしかなかった。

 その辛い日々を、彼女は、「ここを出たら成功してやる。両親にコントロールされず、完全な自由を得るためには、それしかない」と思いつつ過ごしたという。世間に知られるところの“おバカでハッピーなブロンド”のキャラクターは、そんなところから生まれたのだ。彼女を大スターにしたリアリティ番組「The Simple Life」に出てくるパリスはモップやスポンジの使い方を知らないが、実はあの寄宿学校で掃除もたっぷりやらされている。「私はずっとこういうキャラを演じてきたけれど、私自身は違う。でも、ずっとカメラを向けられてきたから、カメラを見ると、反射的にそれをやってしまう。誰も本当の私を知らないの」と、彼女は語っている。

 だが、彼女が作り上げたそのブランドは、大成功した。パリスが手がける事業は、スキンケア、メイクアップ、靴、ホテルなど多岐にわたり、香水だけでも30億ドルを売り上げている。DJとしても、インフルエンサーとしても大活躍だ。しかし、そんな中でも、彼女はずっと不眠症に悩んできている。やっと寝つけたと思うと必ず悪夢を見るので、眠ること自体が怖いのだ。そうしてようやく彼女は、根本の原因である虐待の過去に正面から向き合おうと決め、当時の同級生たちと「#BreakCodeSilence」のハッシュタグを作り、虐待を止めさせるための運動を始めたのである。

 先週も、パリスは、ユタ州で、寄宿学校や更生施設の運営のあり方を州がもっと厳しく監視するという新しい州法を成立させるため、議会の公聴会に出席し、発言をした。時に涙を流しながら誠意を持って語る彼女の様子に心を動かされ、この新しい法律は全会一致で通過している。しかし、パリスにとって、これは最初の一歩にすぎない。「これのおかげで多くの子供たちが救われるでしょう。でも、まだやるべきことはたくさんある。本当の変化が起きるまで、私はやめない」と、パリスは、これから連邦政府にも同じように訴えかけていく姿勢を示している。

 自らプロデュースしたこのドキュメンタリーの中で明らかにするまで、パリスは、虐待された過去について、まったく語ってこなかった。そこに向き合いたくなかったし、暗い話をすることで、キラキラして楽しいブランドのイメージに傷がついてしまうのではないかとも危惧したのだ。しかし、彼女は、本当の自分の象徴ではないそのブランドにとらわれているのでなく、本当の自分として発言することを決めたのである。

 ドキュメンタリーの最初のほうで、パリスは、人生で10億ドルを稼ぐことが目的だと語っていた。だが、40歳になった今の彼女は、もっと大きく、もっと意義のある使命を持っている。ドキュメンタリーの中では「結婚できるようになるには、大人にならないといけないのかも」とも言っていたが、今の彼女は、精神面でも、十分立派な大人だ。そんなタイミングで出会い、愛し合うようになった今回の婚約者とは、きっと一緒に幸せを手に入れられるのではないだろうか。“本当の”パリス・ヒルトンの今後を応援したい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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