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2020年のハリウッド:今年亡くなったセレブたち

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
今年10月、90歳で亡くなったショーン・コネリー(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナが世界を襲った2020年は、誰にとっても非常に辛い年になった。現地時間29日までに、アメリカでは33万5,000人が、コロナのせいで命を失っている。エンタメ界でも、戯曲家テレンス・マクナリー、ミュージシャンでソングライターのアダム・シュレンジャー、ジャズ界の伝説エリス・マルサリス・Jr.などが、コロナが原因で亡くなった。

 しかし、今年最初のショックな出来事は、コロナがアメリカを襲う前の1月に起きている。コービー・ブライアント(享年41歳)が乗るヘリコプターが墜落し、ブライアントと彼の娘を含む乗客全員が亡くなったのだ。ブライアントはレイカーズのスター選手だが、ハリウッドとの関係も強かった。ハリウッドスターにはレイカーズの大ファンが多く、中でもジャック・ニコルソンは彼と親しかったし、ウィル・フェラルは主演とプロデューサーを兼任するコメディ映画「Daddy’s Home」(日本未公開)でブライアントにカメオ出演をしてもらっているのである。また、ブライアントは、自身の体験にもとづく短編アニメ映画「Dear Basketball」で脚本家、エグゼクティブ・プロデューサー、ナレーターを兼任し、オスカーを受賞している。

L.A.の街中にある、ブライアントと娘さんに追悼を捧げる壁画(筆写撮影)
L.A.の街中にある、ブライアントと娘さんに追悼を捧げる壁画(筆写撮影)

 早すぎる、突然の死は、ほかにもあった。「glee/グリー」の女優ナヤ・リヴェラの事故死も、そうだ。7月、リヴェラは、自宅近くの人工湖でボートを借り、4歳の息子と一緒に乗った。しかし、夕方になっても帰ってこず、息子だけがボートに乗って漂流しているのが発見される。そこから捜索活動が始まり、数日後、彼女は遺体で発見された。息子は、母は水に飛び込み、そのまま戻ってこなかったと話している。警察によると、自殺や事件の疑いはないとのことだ。リヴェラは水泳が得意だったが、波が強くて逆らえなかったのではないかと見られる。享年33歳。「glee/グリー」の出演者が若くして死んだケースは過去にもあり、彼女の遺体が発見された日は、薬物とアルコールの過剰摂取で2013年に亡くなったコーリー・モンテースの命日だった。

 また、6月には、「ポーラー・エクスプレス」に投資し、ウォーレン・ベイティ監督作「Rules Don’t Apply」などをプロデュースしたスティーブ・ビングが、自宅のある高級マンションの27階から飛び降り、亡くなっている。55歳だった。ビングは資産家の生まれで、18歳で祖父から6億ドルの遺産を相続し、大学を中退して映画界に入った。女優エリザベス・ハーレイとの間に息子がひとり、大物実業家カーク・カーコリアンの元妻でテニス選手のリサ・ボンダーとの間に娘がひとりいるが、いずれも最初は自分が子供の父親であることを認めていない。ハーレイの息子の場合はハーレイからDNA検査を要求され、ボンダーの娘の場合は、離婚で養育費を支払うことになったカーコリアンが、子供の実の父はビングではないかと疑って、ゴミ箱から拾ったデンタルフロスでDNA検査を行ってわかった。自分が実の父親だとわかってからも、ビングは子供たちの人生にほとんど関わらなかったが、ビングの父が、このふたりの子供を一族の遺産相続から外そうとした時には、ビングは子供たちのために闘い、子供たちの権利を勝ち取っている。

「マ・レイニーのブラックボトム」のチャドウィック・ボーズマン(David Lee/NETFLIX)
「マ・レイニーのブラックボトム」のチャドウィック・ボーズマン(David Lee/NETFLIX)

 世間が知らない中、長い闘病をされていて、今年ついにお亡くなりになった方もいる。「ブラックパンサー」のチャドウィック・ボーズマンは、そのひとりだ。ボーズマンは2016年、ステージ3の大腸がんの診断を受け、治療を続けながら俳優活動を行っていた。しかし、ジャッキー・ロビンソン・ディの8月28日、L.A.の自宅で亡くなってしまう。ボーズマンは、黒人初のメジャーリーグ選手ジャッキー・ロビンソンの伝記映画「42〜世界を変えた男〜」で、初めて映画の主演を務め、ブレイクを果たした。ジャッキー・ロビンソン・ディは毎年4月15日なのだが、今年はコロナでメジャーリーグの開始が大幅に遅れたため、特別に8月28日となっている。そこにもまた、なんとも運命的なものを感じざるを得ない。ボーズマンの最後の作品は、今月Netflixが配信開始した「マ・レイニーのブラックボトム」。今作での彼の演技は高く評価されており、次のオスカーで候補入りする可能性は十分ある(日本では、この後、アメリカで2019年に公開された『21ブリッジ』の公開が控える)。

 7月には、ジョン・トラボルタの妻で女優のケリー・プレストンが、乳がんのため亡くなった。診断は、2年前に受けていたとのことである。享年57歳。トラボルタは、過去に、プレストンとの間に授かった息子を16歳の若さで失うという悲劇も経験している。また、6月には、「セント・エルモス・ファイアー」「ロストボーイ」「評決のとき」「バットマン&ロビン」「オペラ座の怪人」などの監督で脚本家のジョエル・シューマカーが、やはりがんでこの世を去っている。彼のパブリシストによると、闘病生活は1年ほどだったとのことだ。享年80歳。また、「ミッドナイト・エクスプレス」「フェーム」「ザ・コミットメンツ」「エビータ」の監督、アラン・パーカーも、7月、長い病気を経て、亡くなった。76歳だった。

カーク・ダグラスは、今年2月、103歳で亡くなった
カーク・ダグラスは、今年2月、103歳で亡くなった写真:ロイター/アフロ

 ほかには、1996年の脳卒中以来、ずっと健康が優れなかったカーク・ダグラスが、2月、ビバリーヒルズの自宅で家族に囲まれ、103歳で亡くなっている。10月末には、ショーン・コネリーも、バハマの自宅で家族に見守られながら亡くなった。90歳。後に妻が語ったところによると、晩年は認知症に苦しんでいたとのことである。一方、イタリアでは、6月、「荒野の用心棒」「死刑台のメロディ」「アンタッチャブル」「ニュー・シネマ・パラダイス」「ヘイトフル・エイト」など数々の映画音楽を手掛けた巨匠エンニオ・モリコーネが、91歳でこの世を去っている。彼の弁護士によると、倒れて脚を折り、入院していた病院で亡くなったとのことである。

 さらに、3月には、スウェーデンを代表する名優マックス・フォン・シドーが90歳で亡くなっている。死因は明らかにされていない。フォン・シドーは、スウェーデン人でアカデミー賞にノミネートされたことがある唯一の俳優。イングマール・ベイルマン作品のほか、「エクソシスト」「ハリケーン」「ハンナとその姉妹」「マイノリティ・リポート」「シャッターアイランド」「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」など、幅広い映画に出演した。「ヒマラヤ杉に降る雪」では工藤夕貴と共演している。

 今年亡くなったハリウッド関係者には、ほかに、イルファン・カーン、デビッド・ププラウズ、ジェリー・スティラー、イアン・ホルム、カール・ライナー、ウィルフォード・ブリムリー、リン・シェルトン、デニース・クローネンバーグなどがいる。

 ご冥福をお祈りします。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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