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ジョニー・デップは今どうしているのか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ロンドンの裁判所に出廷したジョニー・デップ(写真:REX/アフロ)

 ジョニー・デップ主演の「グッバイ、リチャード!」が、今週末、日本で公開になった。末期ガンを宣告され、治療を受けないと決めた大学教授(デップ)が、残り少ないとわかった人生をはちゃめちゃに生きるという物語で、デップは最初から最後まで出ずっぱり。しかも、ちょっと奇妙で、ファニーで、カリスマのある彼の魅力がたっぷりなのである。作品としての評価は分かれるところだが、彼のスター性が再確認されたという部分に関しては、誰も異議はないだろう。

 一方、アメリカでは、今月、「グッバイ、リチャード!」の後に撮影された「Waiting for the Barbarians」が配信デビューした。昨年のヴェネツィア映画祭で初上映されたもので、共演はマーク・ライランスとロバート・パティンソン。配信での公開となったのは残念だろうが、コロナ禍で、アメリカではまだほとんどの映画館が閉まっている現状とあり、とりわけインディーズにおいては、多くがその道を選択している。また、ぎりぎりコロナの影響を受けずに済んだ2月のベルリン映画祭では、最新作「Minamata」がお披露目された。日本が舞台で、共演者は真田広之、浅野忠信、國村隼ら。アメリカでの公開は未定だが、とても気になる作品である。

「パイレーツ・オブ・カリビアン」のキャプテン・ジャックは卒業させられても、デップは、こんなふうにインディーズの大人向け作品であいかわらず仕事を続けている。だが、こういった生産性のあること以外にも、まだたっぷり時間を取られてしまっているのが実情だ。2017年1月に離婚が成立したアンバー・ハードとの争いが、永遠に終わらないのである。

 先月も、デップとハードは、ロンドンの裁判所でまたもや顔をあわせることになった。この裁判は、デップが、イギリスのタブロイド紙「The Sun」の出版社と編集者に対して起こしたもの。「The Sun」が、2018年4月の記事でデップを「DV夫」と呼んだことについて、名誉毀損を訴えるものだ。デップが求めるのは、お金ではなく、自分はDV男ではないと証明すること。彼の弁護士は、裁判の初日に、デップは「汚された評判を元どおりにするためにこの行動を起こしたのだ」と語っている。弁護士はまた、この記事が「数々の証拠をハードに有利なように解釈し、多数の読者に、これらの犯罪行為が実際に行われたのだと思わせるよう意図されたもの」だと主張する。

 しかし、それはつまり、その記事に書かれた出来事を逐一持ち出して、自分の言い分を主張するということ。どちらかがケガした出来事に対して、それは正当防衛だったのか、相手は自分を殺そうとしたのか、自分のバージョンを説得しないといけないのである。その中では、できれば公にしたくないことを話さなければならない状況も出てきた。たとえば、2013年3月にデップがハードを殴ったとされる件について、デップは「自分は彼女を殴っていない」と断言したが、その後、相手側の弁護士に「その時、コカインをやっていましたか?」と聞かれると、「それはわからない。可能性はある」と答えている。また、ハードとの言い争い中にデップが壁を殴ったとされる件に関しても、「自分は、自分が愛する人より物を殴るほうを選ぶ」と、壁を殴ったこと自体は認める証言をした。

 ハード側は、デップに向けて書いたが未送信のままのメールや、ハネムーン中に書き留めた日記なども証拠として読み上げている。それらの中では彼が本当に暴力的な男として語られており、彼のイメージダウンをさらに加速しかねない。しかし、デップはそれらの記述について、「これまでの経験から言って、彼女はその頃から自分に有利な証拠を作ろうとしていたのだろう」と述べる。また、最終的に出廷は必要とされなかったが、彼の元恋人ウィノナ・ライダーは、この裁判のために、「ジョニーが暴力を振るうとは、私にはとても想像できません。彼が私に暴力を振るったことは一度たりともありません。誰に対してもです」という手紙を書いている。

ロンドンの裁判の後にはまた別の裁判が

 16日間を要したこの裁判は先月28日に終了したが、判決が出るのは早くても来月だと見られる。また、これが終わっても、来年にはまたヴァージニア州で、別の裁判が控えている。こちらは、ハードが「Washington Post」に、DV被害者の立場から書いたコラムをめぐってのものだ。このコラムでハードはデップを名指しこそしていないものの、誰のことを言っているのかは明らか。こちらの裁判で、デップはハードに5,000万ドルを求めている。ここでもまた、その時実際はどうだったのかという、醜い話が蒸し返されるのだろう。

 こういった状況を繰り返すことは、むしろ彼にメリットよりデメリットを与えるのではないかと見る人は、少なくない。もう忘れて、前を見たほうがいいのではないかという意見もある。しかし、正義を追求したいという気持ちは理解できるし、その権利は誰にでもある。ただ、裁判所がどちらを正義とするのかは、わからない。それは賭けでもあるし、お金もかかる。

 幸か不幸か、今は新型コロナで、映画の撮影がまだほとんど再開できていない状況だ。これのせいで、デップの仕事が犠牲になっているということは、少なくとも、ない。この間にこそ、この件をすっかり解決して、コロナが消えた頃には心機一転できれば理想だろう。その「解決」がどちら側に転ぶのかは、見守るしかない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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