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デニース・クローネンバーグが死去。デビッド・クローネンバーグの衣装デザイナー

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
クローネンバーグの「コスモポリス」の1シーン(YouTube)

 デビッド・クローネンバーグの姉で衣装デザイナーのデニース・クローネンバーグが亡くなった。享年81歳。死因は、高齢が引き起こした合併症。亡くなったのは先月22日、カナダのオンタリオ州の病院だった。しばらく体調がすぐれず、1週間ほど前から入院していたが、心配させないよう、身内にも状態をはっきり伝えていなかったという。「姉はいつも、大丈夫、心配しないでと言っていた。それが彼女の病気とのつきあい方だった」と、デビッドは「Toronto Star」に語っている。

 1938年、トロント生まれ。ピアニストの母と小説家でジャーナリストの父のもと、芸術に囲まれて育つ。幼い頃はデビッドと一緒に「赤ずきん」などのお芝居をしては、近所の人を楽しませていた。最初の職業はバレリーナ。20代前半にはカナダのバラエティ番組などにダンサーとして出演する。マレーネ・ディートリッヒのツアーでデトロイトやモントリオールなどを回ったこともあった。

 ファッションに目を向けたのは、ミュージシャンのレイ・ウッドリーと再婚してから。最初の夫との間に生まれた長男と合わせ、3人の子供を育てるためにダンサーを引退、子供服のデザインを始めたのだ。正式に勉強したことはないものの、両方の祖父と祖母のひとりは仕立て屋で、服を作るのはDNAの中にあったようである。彼女のブランドの名前は「ヨーク・カントリー・ドレスワークス」。地元トロントだけでなく、モントリオールやニューヨークなどの店にも入り、新聞の記事にも取り上げられた。

 衣装デザイナーとしてのデビュー作は、デビッドの監督デビュー作「ザ・フライ」(1986)。その後、「戦慄の絆」「裸のランチ」「エム・バタフライ」「クラッシュ」「ヒストリー・オブ・バイオレンス」「コスモポリス」「マップ・トゥ・ザ・スターズ」など、デビッドの作品すべてで衣装を担当した。「彼女は役者とのコラボレーションを大切にした。だから、役者はいつも、特別扱いをされているように感じた。彼女は、スポットライトを浴びるのがどんなことかを自分でわかっていたんだ」と、デビッドは「Toronto Star」に語っている。

 デビッド以外の監督の作品には、「デッド・サイレンス」「シューテム・アップ」「インクレディブル・ハルク」「バイオハザードIV アフターライフ」などがある。カナダの映画賞、ジニーにも5度ノミネートされたが、受賞したことはない。しかし、彼女の長男で作曲家、芸術批評家のエリック・ウッドリーは、「英語で仕事をするカナダ人衣装デザイナーで、おそらく最も才能のある人だった」と、母を褒め称える。デビッドも、「彼女は正しく評価されなかった。本人もそう感じていたと思う」と、イギリスの「The Globe and Mail」に語った。「僕らカナダ人は、あまり自己プロモーションをしない。彼女も、断然、そのタイプだった。だが、僕らは誇りをもって仕事をするから、それを認めてもらいたいという気持ちはある。彼女はどこかでがっかりしていたと思うよ」(デビッド)。

 彼女の次男アーロン・ウッドリーは映画監督で脚本家。長女のメレディス・ウッドリーは、バレリーナを経て映画のアートディレクターになっている。夫レイは2002年に亡くなった。夫妻には5人の孫がいる。葬儀については、まだ決まっていないとのことだ。

 ご冥福をお祈りします。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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