Yahoo!ニュース

「GLOW」「ザ・モーニングショー」のリン・シェルトン監督が死去。ハリウッドの多様化に貢献

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
リン・シェルトン監督(右)と恋人のマーク・マロン(写真:REX/アフロ)

 アメリカの女流インディーズ監督リン・シェルトンが亡くなった。54歳。恋人でコメディアン、俳優のマーク・マロン(『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』『スペンサー・コンフィデンシャル』)の声明によると、新型コロナではないとのことだ。

「本人も知らなかった、彼女がもっていた病気が原因です。お医者さんたちは尽力してくれました。本当にがんばってくれました。僕は彼女を愛していました。あなたたちもそうだと知っています。悲しくてたまりません。心が完全に壊れています。どうやって前を見ればいいのかわかりません。(中略)彼女は美しく、優しく、愛に満ちた、カリスマ的アーティストでした。彼女は僕に幸せを与えてくれました。僕も彼女に幸せを与えました。僕はいつも彼女を笑わせていました。僕たちは新しい人生を始めようとしていたところでした(以下略)」と、マロンは今の心境を伝えている。

 シェルトンとマロンの出会いは、マロンが初回からレギュラー出演してきたNetflixの「GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」。80年代を舞台に、女性プロレス番組の舞台裏を描くこのシリーズを、シェルトンは何度か監督している。ルックスも人種も多様な女優たちが出演、セクハラ問題を含め、女性たちが置かれていた現状にも触れる「GLOW〜」は、女性たちの正直な声を伝えてきたシェルトンにふさわしいシリーズだった。

 ほかに、もっとさりげなく社会における女性の立ち位置を伝えていた「MAD MEN/マッドメン」や、正面から堂々と「#MeToo」を押し出すApple TV+の「ザ・モーニングショー」を監督。台湾からの移民家族が主人公のコメディ番組「Fresh Off the Boat」でも何度か監督を務めており、ハリウッドのダイバーシティ(多様化)に大きな貢献をしてくれた人だった。

 1965年、オハイオ州生まれ。シアトルのワシントン大学で演技を、ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツで写真を学ぶ。長編映画監督デビューは、自身の経験にインスピレーションを得た2006年の「We Go Way Back」。2009年の「Humpday」はサンダンス映画祭やカンヌ映画祭で上映され、2011年の「Your Sister’s Sister」にはエミリー・ブラント、2013年の「Touchy Feely」にはエレン・ペイジ、2014年の「Laggies」にはキーラ・ナイトレイとクロエ・グレース・モレッツが出演した。最新の映画は、マロンが主演する「Sword of Trust」。アメリカでは昨年7月に公開されている。アメリカで先月放映されたHuluのドラマ「Little Fries Everywhere」が、最後の作品となった。

 元夫で俳優のケビン・シールとの間に息子がひとり。だが、2012年にはバイセクシュアルであるとカミングアウトしている。亡くなる直前には、コロナで一緒に家に閉じこもっているマロンと、次の脚本を共同執筆していた。

 すばらしい才能がまたひとつ失われ、ハリウッドは悲しみにくれている。たくさんの素敵な作品を、ありがとう。ご冥福を心からお祈りします。

 

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事