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新型コロナでテレンス・マクナリー死去。米セレブで初の死亡例

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
コロナで死亡したテレンス・マクナリー。右は夫トム・カーダヒー(写真:REX/アフロ)

 新型コロナが、米エンタメ界に新たな衝撃を与えた。アメリカ時間24日、多くの名作を送り続けてきた天才劇作家テレンス・マクナリーが、新型コロナで亡くなったのである。享年81歳。息を引き取ったのは、フロリダ州サラソータの病院だった。

 1938年、フロリダ州セント・ピーターズバーグ生まれ。海辺のレストランを経営していた両親はミュージカル好きで、マクナリーは8歳の時にブロードウェイで「アニーよ銃をとれ」を見て感動している。戯曲を書き始めたのは、高校生の頃。コロンビア大学在学中には、ジョン・スタインベックから才能を認められた。

 彼の作品が初めてブロードウェイで上演されたのは、1964年。1993年、ミュージカル「蜘蛛女のキス」でトニー賞を初受賞。その後にも、「Love! Valour! Compassion!」「Master Class」「Ragtime」で受賞し、昨年は功労賞を授与されている。

 映画でも才能を発揮した。アル・パチーノとミシェル・ファイファーが共演した「恋のためらい/フランキーとジョニー」は彼の舞台「Frankie and Johnny in Clair de Lune」を映画化したもので、脚色も自ら務めている。同様に、「The Ritz」「Andre’s Mother」「Love! Valour! Compassion!」も、自分の手で映画の脚本に書き換えた。また、「フル・モンティ」や、スピルバーグの「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」など、ヒット映画のブロードウェイ舞台化版でも脚色を手がけている。

 2003年、舞台プロデューサーのトム・カーダヒーと同性婚。駆け出しの戯曲家だった60年代には、「ヴァージニア・ウルフなんか怖くない」などを書いたエドワード・オールビーと4年間交際した。

 この突然の悲報を受けて、ソーシャルメディアには、舞台や映画の関係者からお悔やみのメッセージが寄せられている。舞台版「フル・モンティ」に出演したパトリック・ウィルソンは、「僕が初めて演技で賞をもらったのは、高校生の時。初めてトニー賞にノミネートされたのは『フル・モンティ』。どちらもテレンス・マクナリーの作品です。彼は、僕のキャリアに多大なる影響を与えてくれました」とツイート。現代のブロードウェイを率いるリン=マニュエル・ミランダは、「僕らの世界の巨人でした」、アンソニー・ラップは「彼はアメリカ舞台界の声。とくに、アメリカにおけるLGBTQの体験を、大きな声で語ってくれた人です」と感謝と追悼のメッセージを寄せた。カーダヒーと大学時代のルームメートだったニューヨーク市長ビル・デ・ブラジオは、コロナの現状報告をする記者会見の冒頭で、「私たちは優れたニューヨーカーをひとり亡くしました」と語っている。さらに、「このことが示すとおり、これ(新型コロナ)は、ただの数字ではないのです。どこか別のところで、誰かに起こっていることではありません。これは、私たちみんなが直接に感じる危機なのです」とも述べた。

 トム・ハンクス夫妻をはじめ、米エンタメ界にも、すでに何人かのコロナ感染者が出ている。この数日だけでも、新たにプラシド・ドミンゴやハーベイ・ワインスタインの感染がわかった。しかし、死亡者が出たのはこれが初めて。デ・ブラジオ市長の言うとおり、この恐怖は、ますます直接的で、すぐそばのものになってきているのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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