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ハーベイ・ワインスタインに有罪判決。「#MeToo」運動が切り拓いた新たな社会

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
かつてオスカーを牛耳った男は、これからの年月を刑務所で過ごす(写真:ロイター/アフロ)

 ニューヨークで行われていた刑事裁判で、ハーベイ・ワインスタインに有罪判決が下された。性犯罪にからむ5つの罪で起訴されていたが、このうち、ザ・ワインスタイン・カンパニーの元社員ミリアム・ハーレイへの第1級性暴力、女優志望だったジェシカ・マンに対する第3級レイプで有罪とされている。刑期の言い渡しは、3月11日。ハーレイに対する罪の刑期は5年から25年、マンに対する罪の刑期は18ヶ月から4年。ワインスタインの弁護士は早くも上告の手続きに入ったようだが、これとは別に、L.A.でも4つの罪で起訴されている。

 判決後すぐ、ワインスタインは拘留された。弁護士は、彼の健康状態を理由に保釈金を払うことで釈放してほしいと願い出たが、却下されている。ほんの2年半前まで、ビバリーヒルズのペニンシュラやカンヌのデュ・キャップなど最高級ホテルを定宿としていた彼は、まるで違う環境でこれからの年月を過ごす。

 この判決のニュースに、「#MeToo」支持者は沸き立った。5つの罪全部に有罪判決が出るべきだったと嘆く声も聞かれるが、性犯罪、それもかなり時間の経ったケースで有罪を得ることは、そもそも、非常に難しいことだ。今回も、ハーレイの事件は2006年、マンの事件は2013年。検察に有利な物的証拠はまるでなく、逆に弁護側は、ハーレイとマンが、いずれも、レイプだったとする出来事の後、ワインスタインに送った好意的なメールなどの証拠を提示している。また、弁護側が用意した証人も、被害者女性たちに不利と受け止められる証言をした。これらの事実をふまえ、専門家らも、有罪に持ち込むことは難しいのではないかと見ていたのだ。さらにあえて付け加えるなら、12人の陪審員のうち、7人は男性だったのである。

 そんな中でのこの判決は、新しい時代の到来を意味し、権力者に重要な警告を送るものだと言えるだろう。それを可能にしたのは、声を上げた女性たちであり、彼女らの話を世界に伝えたローナン・ファローや「New York Times」のジョディ・カンターとメーガン・トゥーヒーらジャーナリストだ。もちろん、その前にも、現在日本でも上映中の映画「スキャンダル」で描かれているFoxニュースチャンネルの女性たちや、Uberなどシリコンバレー企業の女性たちがいた。ツイッターには、「ほとんどの性犯罪は起訴されないか、されても軽く扱われる。ワインスタインが有罪になったのは法のシステムのおかげではなく、#MeToo運動が、正義を求めるプレッシャーをかけたから」との投稿が出たが、まさにそのとおりだ。

 元Foxニュースチャンネルのキャスター、グレッチェン・カールソン(『スキャンダル』ではニコール・キッドマンが演じている)は、「3年前だったら、これは無理だったでしょう。これは文化の革命。アメリカの職場環境をこれからもずっと変えていかなければ。あなたたちも参加してください」とツイート。また、ワインスタインの暴露記事に協力したロザンナ・アークエットは、名乗り出た女性たちの勇気を讃えつつ、「レイプ被害者たちが通告しやすくなり、また信じてもらえるようになるべく、法律を変えましょう」と投稿した。

 彼女らの言うとおり、「#MeToo」支持者がやるべきことは、まだまだ残っている。だが、トンネルの向こうには、まぶしい光が見え始めた。あちら側にたどりつくことは、きっと可能だ。このニュースに、今、多くの人が、そう感じている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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