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ハーベイ・ワインスタイン刑事裁判にまもなく判決

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ニューヨークの裁判所に出廷するハーベイ・ワインスタイン(写真:ロイター/アフロ)

 2017年秋に始まった「#MeToo」運動が、ひとつの大きな瞬間を迎えようとしている。先月からニューヨークで行われていたハーベイ・ワインスタインの刑事裁判で、現地時間先週木曜日と金曜日に弁護側の最終弁論と検察側の最終論告が行われ、祝日明けの18日(火)には、陪審員の評議が始まる予定なのだ。

 ワインスタインから被害を受けたと名乗り出ている女性は合計80人以上いるが、この裁判は、ミリアム(ミミ)・ハーレイ(42)が受けた2006年の被害と、ジェシカ・マン(34)が受けた2013年の事件の、2件についてのもの。しかし、彼が常習犯だったことを示すため、この裁判では、ほかにも4人の被害女性が証言をしている。

 ハーレイは、元ザ・ワインスタイン・カンパニーのプロダクション・アシスタント。その職を得る前の2004年、彼女は「アビエイター」のプレミアでワインスタインに出会っている。それからまもなく彼はパリの出張に一緒に行こうと誘ったり、カンヌのホテルでマッサージをしてくれと言ってきたりした。彼女はそれらを断ったが、彼の機嫌を損ねることを恐れ、2006年7月に彼のニューヨークの自宅に呼ばれると、出かけていく。そこで彼は彼女にオーラルセックスを強要してきた。彼女は何度も「ノー」と言ったが、かなわなかったそうだ。その2週間後、トライベッカのホテルでもレイプをされたが、その時はあきらめて抵抗しなかった。

 ウエイトレスをしながら女優を目指していたマンは、2012年、ハリウッドヒルズのパーティでワインスタインと知り合いになる。その後何度か彼と会い、ある夜、ビバリーヒルズのモンタージュ・ホテルのバーで、女友達も含めてワインスタインと会っていたところ、彼は、製作準備中だった作品の脚本を見せるから自分の部屋に行こうと言った。その言葉に従って着いていった彼女は、その夜、彼にレイプをされてしまう。彼女は必死で抵抗したというが、抵抗すればするほど彼は激怒し、最後には覆いかぶさられたと語っている。

 2度目は、マンが男友達とニューヨークに旅行した時に起きた。ワインスタインは彼女の宿泊先がミッドタウンのダブルツリー・ホテルだと察知して、同じホテルにチェックインしてきたというのである。ここでも彼は彼女に部屋に来るよう強要し、「私はその段階であきらめてしまった」と、彼女は証言している。

弁護側は彼女らがその後も連絡を取り続けたことを強調

 証言台で彼女らはいずれも涙を流し、とくにマンは動転してパニック状態になった。だが、弁護側は、そんな彼女らのことを、ワインスタインとお近づきになってキャリアアップに利用しようとしていたのだと強調する。

 証拠として持ち出されたのは、メールやテキストメッセージだ。その中のひとつで、ハーレイはワインスタインに対し、「カンヌでは楽しかった」「愛を込めて」などと書いている。弁護側はまた、ハーレイが送った、仕事をくださいという内容のメールにも触れた。それに対し、ハーレイは、「私は仕事が必要でしたから」と答えている。

 マンに関して、弁護側は、レイプされたという時期の後に、彼女がワインスタインに高級プライベートクラブ、ソーホー・ハウスに入りたいのでスポンサーをしてくれないかと連絡したことを指摘した。これに対し、マンは、「上司にお願いされたので。私の知るそのクラブの会員はワインスタインしかいなかったんです」と答えている。また、弁護側は証人として、モンタージュ・ホテルで一緒にいた女友達タリタ・マイアを呼んだ。彼女は、その夜、一緒に部屋まで上がったが、ベッドルームに入ったマンとワインスタインは10分ほどで事をすませ、その間自分はリビングルームでテレビを見ていたと証言している。また、その後も何度かマンは、ワインスタインについて、「最高のオーガズムをくれる」「ソウルメイトだ」など好意的な発言をしたと、マイアは語った。マイアとマンは、マイアいわく、マンに「ひどいことをされた」せいで、2016年に絶縁しており、現在は友達ではない。ほかに、ニューヨークの旅行に同行した男友達も、マンに不利になりえる証言をした(彼は、ワインスタインの友達でもなんでもないと語っている)。

彼女らは有名になりたくて出てきたわけではない

 一方で、検察は、性犯罪の複雑さを陪審員に理解してもらうべく、法廷精神科医に、レイプ被害者がレイプ犯とその後も接触しようとするのはよくあることだと証言してもらっている。最終論告でも、「ここで証言した女性たちの目的は、お金でも、有名になることでもありません。彼女らはただ、本当のことを聞いてほしかったのです。そのために、彼女は、心の平穏とプライバシーを犠牲にしたのです」と語った。また、たとえ相手に対してラブレターを書いていたとしても、嫌だと言った時に行為を強要されるのはレイプであると主張している。彼女らがプレミアやパーティなどでワインスタインに出会っていたり、その後もそれらのイベントに出席したりしたことについても、「この業界で、ネットワーキングは仕事なのです」と言い、彼女らのほかに証言した4人の女性のひとりに対して、弁護側が、「落ち目になったキャリアのテコ入れを狙っているのだろう」と示唆したことには、「レイプされたとここで証言することがキャリアアップになると本気で思っているんですか?」と反撃した。

 どちらを信じるのかを決めるのは、12人の陪審員だ。その構成は、女性が5人、男性が7人。ワインスタインは、5つの罪で起訴されており、最大、無期懲役もありえる。さらに、たとえここで免れても、L.A.でも検察が動いているし、民事裁判も残っている。彼の地獄の日々は、どんな意味においても、ここで終わりではないのだ。偶然にもオスカーからわずか1週間後に見えてこようとする、かつてオスカーを牛耳った男の末路の始まりが注目される。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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