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ハリウッドスターが出演したスーパーボウル傑作CM

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ブライアン・クランストンによる「シャイニング」のパロディ(YouTube)

 スーパーボウルは、アメリカの国民的お祭り。この翌日の月曜日は有給休暇を申請する人が1年で一番多い日であるというデータも、このプロフットボールの決勝戦がアメリカ人にとっていかに大事であるかを裏付ける。

 しかし、フットボールに全然興味がない人にも、見どころはたっぷりだ。大物ミュージシャンが出るハーフタイムショー(今年はジェニファー・ロペスとシャキーラ)はそのひとつだし、この日のために特別に制作されたCMの数々もそう。アメリカの映画俳優は、シャネルやディオールのようなあこがれブランドの“顔”に選ばれたりするのは別として、基本的に普通のコマーシャルには出ない。しかし、クリエイティブで、予算もたっぷり使うスーパーボウルのCMは例外なのである。今年も何人かのハリウッドスターがユニークなCMに登場しては、笑わせてくれた。

 中でも個人的に一番笑ったのは、「アクアマン」のジェイソン・モモアが出演するロケット・モーゲッジ(住宅ローンの会社)の広告だった。CMは、自分自身を演じる彼が、パパラッチが待ち構える自宅に帰るところから始まる。家に入ると、モモアは「家とは、どんな場所か。僕にとっては、完全にくつろげるところ。自分のままでいられるところだ」と語りながら靴を脱ぎ、続いて偽物の筋肉をはずしはじめる。しまいには、あのロングヘアもかつらで、実はハゲだったとわかるのだ。最後は、軽いウエイトですら持ち上げられない情けない姿が映される。

 ブライアン・クランストンの「シャイニング」パロディもおもしろかった。ペプシが展開するソフトドリンク“マウンテン・デュー・ゼロ”の広告で、クランストンは、映画のジャック・ニコルソン同様、斧でバスルームのドアを叩き割り、顔をのぞかせる。その裂け目から、中に逃げ込んでいる妻に向かい「マウンテン・デュー・ゼロだぞ」と言い、妻は「喉が渇いていたの」とそれを受け取るのだ。その後には、あの水色の服を着た姉妹や、洪水のシーンもあるが、赤い血の代わりに緑の水が押し寄せるところが、マウンテン・デューである。

 この日はたまたまグラウンドホッグ・デイだったことから、1993年の「恋はデジャ・ブ」(原題:Groundhog Day)のパロディもあった。こちらはジープのコマーシャルで、ビル・マーレイが出演。マーレイは、エージェントもマネージャーもパブリシストも雇っておらず、携帯電話も持っていないことから、制作者たちは彼に連絡を取るだけでも苦労し、このCMは1週間ほど前になってようやく完成したそうである。そこまでがんばった甲斐はあり、いくつかの調査で、これは今回最も人気があったCMに選ばれている。

 ほかに、マーティン・スコセッシ、クリス・エヴァンス、ジョン・クラシンスキーらも登場した。そんな中で、個人的に最も心が温まったのは、スカウトという名の一匹の飼い犬が出演するCMだ。この7歳のゴールデンリトリーバーがかわいいのはもちろんだが、裏話がまた感動なのである。

 この広告を出したのは、スカウトの飼い主でウェザー・テック社のCEOであるデビッド・マックニール。昨年夏、スカウトはガンで余命1ヶ月と診断されたのだが、ウィスコンシン大の獣医さんたちの懸命な治療のおかげで、今では完治に近い状態にまで回復したそうだ。感謝の気持ちでいっぱいのマックニールは、ほかのアメリカ人にも寄付を呼びかけるべく、600万ドル(約6億6,000万円)を出して、30秒のスポットを打つことに決めたのだという。

 典型的な男性視聴者を狙うこの番組で、スポンサーたちは、炭酸飲料やビール、ジャンクフードなど、本当は買わないほうがいいものをせっせと売ろうとする。この番組を見た1億人の視聴者が、それらを買ったつもりでその値段を寄付したら、相当な額になるだろう。その効果が少しでもあれば、来年もまた、元気なスカウト君の姿を見られるかもしれない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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