Yahoo!ニュース

オスカーノミネーション発表で、「白すぎるオスカー」再発に強烈な危機感

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「ハリエット」のシンシア・エリヴォは演技部門候補者で唯一のマイノリティ(写真:REX/アフロ)

 まさかのことが起こってしまった。大丈夫だろうと思われていた今年、オスカーの演技部門受賞者は、またもや全員白人である可能性が濃厚になったのである。

 西海岸時間13日午前5時18分に発表されたノミネーションで、演技部門の候補者20人(主演男優、主演女優、助演男優、助演女優それぞれ5人ずつ)は、シンシア・エリヴォ(『ハリエット』)以外、全員白人。候補入りしそうだ、あるいはするべきだと広く期待されていたエディ・マーフィ(『ルディ・レイ・ムーア』)、ジェニファー・ロペス(『ハスラーズ』)、オークワフィナ(『フェアウェル』)、チャオ・シューチェン(『フェアウェル』)、ルピタ・ニョンゴ(『アス』)、ソン・ガンホ(『パラサイト 半地下の家族』)、アルフレ・ウッダード(『Clemency』)らは、朝早くからがっかりな思いをすることになってしまった。これを受けて、すでにソーシャルメディアには批判のコメントが多数寄せられている。

 そもそも、「#OscarsSoWhite」運動が巻き起こるきっかけとなったのは、2015年と2016年、2年連続で演技部門の候補者全員が白人だったことだ。激しいバッシングを浴びて、それまでにも多様化への対策を検討していたアカデミーはすぐさま動き、この3年は、有色人種、若い人、外国人の新会員を、意図的に増やした。そして、ついに昨年は、演技部門受賞者4人のうち白人はオリヴィア・コールマンたったひとりという、大きな飛躍を見せる。ほかの部門でもマイノリティや女性の受賞者が出て、業界は自画自賛したものだ。

 今回のノミネーション結果がさらにショッキングだったのは、2015年や2016年と違い、今年は、上記のように、早くから話題に上がっていたマイノリティ俳優がたくさんいたことである。過去には、マイノリティが出ている映画が作られず、選ぶにもそれらの人がそんなにいないという根本的な問題があった。しかし、今年は、上記の役者らが各批評家賞で受賞したり、ノミネートされたりしていたし、彼らに焦点を当てたオスカーキャンペーンも展開されている。「ふさわしい人がいなかった」という言い訳は、通用しづらいのだ。

 さらに、唯一の望みとなったエリヴォは、現状では主演女優部門のフロントランナーとは言い難い。ここまででこの部門を制覇してきているのは「ジュディ 虹の彼方に」のレネ・ゼルウェガーで、彼女はつい1日前にも放送映画批評家協会賞でまたもやトロフィーを手にしたところだ。

 ただし、ゼルウェガーは昨年のグレン・クローズになるのではという声も、ほんの少しだが、聞こえてはくる。7回も候補入りしていながら一度も受賞歴がないクローズは、昨年、「天才作家の妻-40年目の真実-」で、71歳にしてついに初受賞するものと信じられていた。実際、オスカーまでのありとあらゆる主演女優賞を総なめし、オスカー前日に行われるインディペンデント・スピリット賞も獲得して、やっと本命の日が来たと思ったら、コールマンにさらわれてしまったのだ。これがいかに意外な展開だったかは、コールマンの受賞スピーチにも明らかである。

 オスカー授賞式は2月9日と、あと4週間先。本投票は1月30日から2月4日の間に行われる。アカデミー会員が映画を見直し、誰が最もふさわしいのか考えるための時間はあり、つまり、まだまだわからないということだ。もちろん、ただ黒人だからという理由でエリヴォに入れるべきではない。そうではなく、期待すべくは、この映画をまだ見ていなかった人が、この期間中にじっくりと見てくれることだ。ハリエット・タブマンは、歴史の中でしばしば見逃されてきた、信じられない勇気をもつ女性。そんな彼女についての映画がこれまた見逃されてしまうとしたら、あまりにも残念である。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事