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ハリウッドの偽善を叩くゴールデン・グローブのトークが大ウケ。「これぞ正義だ」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
コメディアンのリッキー・ジャーヴェイスがグローブのホストを務めるのは5度目(写真:REX/アフロ)

 ハリウッドの授賞式は、トランプ叩きの絶好の場所。だが、今年のゴールデン・グローブ授賞式では、自分たちが叩かれるハメになってしまった。それもこれも、毒舌で有名なリッキー・ジャーヴェイスがまたもやホストを務めたおかげ。業界の偽善をずばりと指摘する開幕のトークは一般人に大受けで、ソーシャルメディアには「これぞ正義だ」「彼は最高だね」といったメッセージが飛び交っている。

 開幕のアナウンスとともに、ビールを片手に舞台に登場したジャーヴェイスは、客席に向かって「(今夜は)たっぷり笑いましょう。ただしネタになるのはあなたたちですよ。あくまでジョークなんだということを忘れないで。僕らはどうせみんなもうすぐ死ぬんですから」と警告。その時こそみんな笑っていたが、その後、ジャーヴェイスが自分や仲間、または業界全体を次々に槍玉に上げはじめると、彼らの表情は少しずつ曇っていく。

 もっとも辛辣だったのは、テレビシリーズ部門(ドラマ)でノミネートされたApple TV+の「ザ・モーニングショー」にからむものだろう。「#metoo」を扱う今作について、ジャーヴェイスが「アップルは、威厳と、正しいことをする大切さを伝えるこの優れたドラマで、テレビ界に参入しました」と語り始めた時には拍手が出たが、「アップルは、中国で労働者を搾取している会社です」という言葉で、空気は一変。彼はさらに「目を覚ましてくれる(ドラマだ)と言いますが、その会社はどんな会社なのか。アップルにしろ、アマゾンにしろ、ディズニーにしろ」と言い、そこは都合よく無視して仕事に飛びつくセレブらのことを、「ISISがストリーミングサービスを始めると聞いたら、担当エージェントにすぐ電話するんでしょ?そうでしょ?」と皮肉った。

 その後はもっと強烈。「だから、今晩、受賞したら、これを利用して政治的なスピーチをしようと思わないでくださいね。あなたたちは一般人にお説教できる立場にはないんですよ。あなたたちは現実の世界について何も知りません。あなたたちのほとんどはろくろく学校にも行っていません。なので、名前を呼ばれたら、舞台に上がって、このたいしたことない賞をもらって、エージェントと神様にありがとうと言って、とっとと退場してください」と言い放ったのである。ここでも一応拍手は出たが、カメラがトム・ハンクスのほうを向くと、彼は相当に渋い顔をしていた。

 ほかに、近年次々に暴かれてきた、業界の大物のセクハラについてのジョークもある。「この部屋には、カメラの前に立つ人たちだけでなく、映画界とテレビ界を牛耳る人たちもいます。彼らがここまで登りつめた経緯はさまざまですが、ひとつだけ共通点があります。ローナン・ファローを恐れていること。彼はあなたのところにもやってきますよ」というものだ。ローナン・ファローは、ハーベイ・ワインスタインの暴露記事を「New Yorker」に書き、最近はその周辺についてのノンフィクション本「Catch and Kill」を出版した人物である。

 少しだが、個人攻撃のジョークもあった。昨年、マーティン・スコセッシが「マーベルの映画はシネマではない。テーマパークみたいだ」と言ったことについて、ジャーヴェイスは、「まったく同感です。だけど、彼はテーマパークに行くのですかね?乗り物に乗るには背が低すぎると思いますけど?」と発言したのである。それを聞いたスコセッシがクールに受け流す隣で、ロバート・デ・ニーロは苦笑していた。

 だが、その後は、「『アイリッシュマン』は、すばらしい作品でした」と、スコセッシの作品を絶賛してフォロー。「長かった。でも、すばらしい。しかし、エピック的作品はほかにもありましたね」と、次に彼は話を「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」に振る。「あの映画も、3時間近くあります。レオナルド・ディカプリオはプレミアに出席したのですが、映画が終わる頃には、(連れてきた)恋人が歳を取ってしまっていました」と、今度は矛先がディカプリオの若い女性好きに向けられてしまった。

 そのディカプリオは、主演男優部門(ミュージカルまたはコメディ)に候補入りしながら、「ロケットマン」のタロン・エガートンに負けて、舞台に立つ機会はないまま終わっている。だが、共演のブラッド・ピットが助演男優賞を受賞し、そのスピーチでなかなかのユーモアを見せた。故郷の家族に対する感謝の言葉の後、彼は、この授賞式に母親を連れてきたかったのだと述べている。それができなかったのは、彼の横に女性が来ると、必ず「新恋人だ」と騒がれてしまうからとのこと。母親が恋人扱いされるのは「気持ち悪いのでね」と言って笑いを取った彼は、最後を、「明日、誰かに優しくしてあげられるチャンスがあったら、そのチャンスを活かしてください。僕らにはそれが必要です」と締めくくった。これも、まあ、説教といえば説教。でも、この程度なら、ジャーヴェイスも許してくれるのではないだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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