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2019年、本当に儲かった映画

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「ジョーカー」はアメコミ映画史上記録を達成(Warner Brothers)

 これからまだ「スター・ウォーズ」が控えるとはいえ、2019年の映画は、ここまででほぼ出揃った。毎年のことながら、最高に心に残る映画もあれば、期待したのにがっかりだったものもあるが、単純に数字では誰が優等生だったのか。ここでは、それを振り返ってみることにしよう。

 今年の世界興収ナンバーワンは、ダントツで「アベンジャーズ/エンドゲーム」だ。まさにその目的で夏に劇場で再上映したこともあり、今作は「アバター」を抜いて史上最高の27億9,780万ドルを売り上げている。2位は「ライオン・キング」の16億5,640万ドル、3位は「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」の11億3,192万ドル。その後は、「キャプテン・マーベル」「トイ・ストーリー4」「ジョーカー」「アラジン」「アナと雪の女王2」「ワイルド・スピード/スーパーコンボ」、中国のアニメ映画「Ne Zha」と続く。

 特筆すべきひとつは、「Ne Zha」の世界興収の99.5%が中国から来ているということ。たった1カ国の売り上げでトップ10に入れるとは、やはり恐るべし市場だ。もうひとつは、この映画以外でランク入りした中で、製作予算が1億ドル以下の作品が「ジョーカー」のみということ。17歳以下は大人の同伴が必要なR指定の映画も、やはり「Ne Zha」を除けばこれだけである。観客層が限られるこの映画にスタジオが与えた予算は、アメコミ映画の相場をずっと下回る5,500万ドル。しかし、結果的に10億5,700万ドルを売り上げ、今作は史上最も利益率の高いアメコミ映画となった。公開から70日が経つ今も劇場公開されており、微妙ながらもまだ数字を伸ばしていくと思われる。

 利益率が高かった映画には、ほかに「ミスター・ガラス」と、イギリスのテレビドラマの続きである「ダウントン・アビー」(1月10日日本公開予定)がある。

「ミスター・ガラス」には、ブルース・ウィリス、サミュエル・L・ジャクソン、ジェームズ・マカヴォイが出演した(2019 Disney)
「ミスター・ガラス」には、ブルース・ウィリス、サミュエル・L・ジャクソン、ジェームズ・マカヴォイが出演した(2019 Disney)

 M・ナイト・シャマランが自腹で2,000万ドルを出した「ミスター・ガラス」の世界興収は、2億4,600万ドル。やはり自腹で900万ドルを出し、2億7,800万ドルを売り上げた「スプリット」には劣るものの、立派なことに変わりはない。「ダウントン・アビー」の製作予算も「ミスター・ガラス」同様、2,000万ドル。映画としては控えめなレベルだが、テレビよりはずっと潤沢だ。世界興収は1億8,600万ドルで、配給のフォーカス・フィーチャーズ創業以来最高記録。このドラマはアメリカでも放映局PBSで過去最高の視聴率を出したほど人気があり、待ちに待ったファンが駆けつけた結果の成績である。

「ジョン・ウィック:パラベラム」の3億2,600万ドルも、非常に優秀と言えるだろう。製作費は7,500万ドル。このシリーズのおもしろいところは、毎回製作費も、世界興収も、ほぼ倍増していることだ。

「ジョン・ウィック」シリーズは回を重ねるごとに製作予算だけでなく売り上げも倍増している(Lionsgate)
「ジョン・ウィック」シリーズは回を重ねるごとに製作予算だけでなく売り上げも倍増している(Lionsgate)

1作目は製作費2,000万ドルに対し世界興収8,600万ドル、2作目は製作費が4,000万ドルで世界興収は1億7,100万ドルだった。健全な形でどんどんビッグになっているということである。

 ボン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」(今月27日日本公開予定)も、すごい。上映館数はわずか333館ながら、先週末の北米ランキングでは11位。ほかは全部4桁の公開館数だ。現在までの世界興収は1億2,000万ドル。製作予算は不明だが、CGを多用するわけでもない人間ドラマでこの数字とあれば、間違いなく相当に儲かっている。

 また、規模は小さいが、「フェアウェル」(来年4月日本公開予定)も大成功だった。

オークワフィナが主演する「フェアウェル」は、監督兼脚本家のルル・ワンの自伝的映画(A24)
オークワフィナが主演する「フェアウェル」は、監督兼脚本家のルル・ワンの自伝的映画(A24)

 夏にニューヨークとL.A.の4館のみで公開され、1館あたりの売り上げで今年最高記録を打ち出したこの映画は、その後どんどん拡大し続け、「Forbes」の記事にも取り上げられている。製作予算は300万ドル、現在までの世界興収は1,900万ドル。今年のサンダンス映画祭で買い付けられたほかの作品と比較しても、抜群だ。

 さらにすごいことに、幼い頃に家族とともにニューヨークに移住した主人公(オークワフィナ)が祖母の余命が短いと知って中国に戻るという今作は、一応アメリカ映画でありながら、ほとんどが中国語なのである。キャストも全員がアジア人だ。この映画はアワードシーズンでもいろいろ引っかかっているし、韓国映画で英語字幕の「パラサイト〜」にいたっては、オスカーで外国語部門だけでなく作品部門も取るべきという声が強い。昨年の「クレイジー・リッチ!」で始まったアジアンパワーは、ますます伸びているということ。結局はお金が大事なハリウッドが、この傾向を完全無視するとは思えない。そう考えれば、今年一番何かを得たのは、アジア人観客だったと言ってもいいのではないだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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