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スタローンにシュワルツェネッガー。この秋、ハリウッドは元祖マッスル男祭り

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
73歳にしてまだまだアクションヒーローを演じ続けるスタローン(写真:REX/アフロ)

 70代は、まだまだ若い。そう証明しようとするかのように、ハリウッドで、往年のアクションスターたちが、がんばっている。

 先週末、アメリカでは、「ランボー」シリーズ最新作「Rambo: Last Blood(原題)」が好調なスタートを切った。ランキングこそ3位だったものの、2位のブラッド・ピット主演作「アド・アストラ」との差は、わずか10万ドル(約1,000万円)程度。シリーズ内で比較しても、オープニング成績は11年前の「ランボー 最後の戦場」を上回り、2作目「ランボー/怒りの脱出」に次ぐ2位だ(ただし、インフレ調整はされていない数字)。

 また、製作費1億ドル前後と推測される「アド・アストラ」がコスト回収に苦戦しそうなのに対し、その半分で製作された「Rambo〜」は、海外に売れた配給権で、すでに大半をまかなえており、経済的にも健全な状態にある。それはつまり、37年前に始まった、このマッスル男シリーズを見たいと思う観客が、世界にはまだたくさんいるということ。そして、それらのファンは、求めているものをしっかり得られるはずだ。これはまさに、王道のアクション映画。微妙さ、複雑さ、といったものとは無縁で、悪い奴は徹底して悪い。近年はスーパーヒーロー映画ですら、白黒はっきりしたキャラクターではなく、正義の味方にも悪役にもモラルの曖昧さや奥の深さを持ち込もうとするものだが、昔懐かしのヒーローが、昔懐かしの形でひたすら暴れまわるのが、今作なのである。

 その中心にいるのは、73歳のシルヴェスタ・スタローンだ。今作では監督こそしていないものの、脚本を共同執筆したし、何より、激しいスタントの数々をこなしている。今月、L.A.で行われた記者会見で彼が語ったところによると、撮影中はケガもしたが、それはいつものことらしい。「何かにぶつかったり、火傷をしそうになったり、とにかく、僕は、あらゆることを全部経験してきたよ」と言うスタローンは、それらのシーンに備え、撮影前には「レースホースのように、毎日同じものを、同じ量食べて、最高の状態を維持する」そうである。

「Rambo: Last Blood」で、ランボーは、血の繋がらない女性ふたりと家族のような関係を築き、アリゾナに住んでいる。だが、そこに大きな変化が訪れ...(写真/Yana Blajeva)
「Rambo: Last Blood」で、ランボーは、血の繋がらない女性ふたりと家族のような関係を築き、アリゾナに住んでいる。だが、そこに大きな変化が訪れ...(写真/Yana Blajeva)

 そして、11月には、現在72歳のアーノルド・シュワルツェネッガーが出演する「ターミネーター:ニュー・フェイト」が控えている。1作目が公開されたのは、彼がボディビルダーからアクションスターへの本格転向をはかっていた1984年のこと。これはシリーズ6作目で、シュワルツェネッガーはそのうち4作目以外すべてに出演した。筆者もまだこの最新作を観ることができておらず、今回、シュワルツェネッガーのアクションシーンがどれほどあるのかは不明だが、4年前の「ターミネーター:新起動/ジェニシス」公開前のインタビューで、彼は「ワークアウトは毎日やる。毎朝6時に有酸素運動をし、夜はウエイトトレーニングだ。この映画のためには、普段より重いウエイトを使った。1984年と同じ体型にならなければいけなかったからね。普段から運動していれば、何歳になっても、こういったアクション映画も楽々とこなせるよ」と、肉体メンテナンスへの継続的な努力について語っている。

 今作はまた、「ターミネーター2 」で女性の筋肉のかっこよさを見せつけたリンダ・ハミルトンが戻ってくるのも話題だ。今月で63歳の彼女には、アクションの見せ場がたっぷり用意されている様子。本人も、今またこんな役を演じられることを、とても楽しんだようだ。男性だけでなく、女性にも、この年齢でこのようなチャンスが与えられるのは、ポジティブなことである。

 ところで、シュワルツェネッガーは、ターミネーターより先に「コナン・ザ・グレート」で注目されたのだが、あのヒーローを再び演じる話もある。話自体はだいぶ前から出ているだけに、本当に始動するのかどうかは疑問ながら、本人はやる気満々のようだ。彼がコナンを演じたのは、35歳の時。今すぐ撮影したとしても、映画が完成する時には、当時より40近くも歳をとっていることになる。

 だが、それを言うならハリソン・フォードも同じだ。彼が主演する次の「インディ・ジョーンズ」映画の北米公開日は、2021年7月9日。1作目からぴったり40周年である。ただし、それは予定どおりに進めばのこと。このプロジェクトは延期に延期が続いており、現在も新しい脚本家のもとに脚本の書き直しが行われている状態だ。今のまま進んでも、撮影に入る時、フォードは78歳。これ以上遅らせるのは、どうしても避けるべきである。

 もちろん、もしまた遅れたとしても、フォードは愛するキャラクターを最高の形で演じようとベストを尽くすことだろう。その情熱と仕事熱心さが古くなることは、決してない。人生100年時代、いくつになっても男優、女優が活躍できる余地は、ますます増えていいと思う。そうやっていつまでもお元気な姿を見せてくれるのもまた、ヒーローの役割と言えるのではないだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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