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作曲家が語る「ライオン・キング」。94年のオリジナルは「超低予算だった」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「ライオン・キング」の作曲を手がけたハンス・ジマー(写真:ロイター/アフロ)

 リメイク版「ライオン・キング」が、今週末、日本でも公開になった。見ればおわかりのとおり、今作は1994年のアニメーションにかなり忠実で、セリフ、構図なども同じシーンがたくさんある。愛される名作をわざわざこねくり回すことはせず、最新のテクノロジーを使い、ビジュアルの洗練度とリアル感を増すことで、人々をあの世界にトリップさせてあげようというのが、作り手の狙いのようだ。

 音楽に関しても、それは同様。オスカー作曲賞に輝く名曲はおなじみのものでありながら、製作過程では大きなアップデートがなされていると、作曲家のハンス・ジマーは言う。

「オリジナルは、予算をあまりもらえなかったんだよ。いや、はっきり言うなら、超低予算だった。それで、あのアフリカ風の曲では、僕自身がパーカッションとシンセサイザーを演奏することになっている。今回は違う。このリメイク版では、オーケストラを結成し、ライブでレコーディングすることができたんだ」。

 そのアイデアは、コーチェラ音楽祭で行われた「ライオン・キング」ライブを見に行ったことがきっかけで生まれている。

「そこには、ライブ演奏ならではのエネルギーがあった。それで僕はジョン・ファヴロー監督に、『これを僕らの映画でもやろう』と言ったのさ。最高レベルのミュージシャンたちをL.A.に集め、特別オーケストラを結成して、観客の前で演奏してもらおうよ、と。観客として招待したのは20人ほど。顔ぶれは、映画監督、撮影監督、エディターなど、普段、映画音楽が作られる様子を直接見る機会がない人たちだ。その人たちの期待に応えようと思いつつ、ミュージシャンたちは、あれらの曲を生演奏したんだよ」。

リメイクの話を最初に聞いた時は「嘘だろう?と、冷めた反応をしたよ」とジマー。だが、ファヴロー監督に見せてもらったオープニングのビジュアルに強く感動、気持ちが変わった(写真/2019 Disney)
リメイクの話を最初に聞いた時は「嘘だろう?と、冷めた反応をしたよ」とジマー。だが、ファヴロー監督に見せてもらったオープニングのビジュアルに強く感動、気持ちが変わった(写真/2019 Disney)

 普段とは違う点は、もうひとつある。

「普通、映画音楽をレコーディングする段階で、ミュージシャンたちはそれがどんな映画なのかを知らない。演奏の前に映画を見せてもらえることなんて、ないからだ。そうするべきだと個人的には思うけれども、そんなお金も時間も使えないよね。でも、『ライオン・キング』は、どんな映画なのかをみんなもう知っていた。この音楽がどんなところでかかり、そこで何が起こるのか、全員がわかりつつ演奏したのさ。それは、特別なことだ」。

 オリジナルは、ジマーが関わった初めてのアニメーション作品。最初にオファーがあった時は「アニメーションに興味はない」と断ろうと思ったが、わが子のためにやってみようと、考えを変えた。

「当時、娘は6歳。『これはパパがやったんだぞ』と言えるのはいいかなと思って、ストーリーも知らずに受けることにしたんだよ。そして、それはなんと父が死ぬ話だった。僕自身も、父の死を経験している。おかげで、あの作曲過程は、僕にとって心理療法を受けるような感じになった。あれらの音楽は、僕の心の底から湧き上がった、僕にとっての真実を語るもの。キャリアにおいてでなく、個人的な意味で、『ライオン・キング』は、とても意味のある作品だ」。

 意外にも、子供時代は、決して出来のいいタイプではなかった。「ピアノのレッスンは2週間しか続かなかったし、9つの学校を退学になったよ」と笑う彼が、30年以上も映画音楽を作り続けてこられたのは、本当に楽しいと感じながらやってきたからだ。

「日本語ではどうなのかわからないが、演奏と遊びは同じ言葉(play)だ。つまり、遊び心をもってやるものだということ。音楽家でなかったとしても、それは大事だと思う。人生は、遊び心をもって生きるべきだよ」。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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