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家族とのお仕事、ハリウッドの場合

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ピーター・ヘッジス監督(左)とルーカス・ヘッジス(右)は親子(写真:Shutterstock/アフロ)

 今週末日本公開となった「ベン・イズ・バック」は、監督兼脚本家ピーター・ヘッジスにとって、とてもパーソナルな作品だ。問題のある家庭で育ち、依存症に悩む人に常に囲まれてきた彼が、自らの経験に想を得て書いたのが、薬物依存に苦しむティーンエイジャーとその母についてのこの物語だったのである。

 主人公ベンを演じるのは、実の息子ルーカス・ヘッジス。2016 年の「マンチェスター・バイ・ザ・シー」でオスカー助演男優部門にノミネートされ、その後も「スリー・ビルボード」(2017)「レディ・バード」(2017)「ある少年の告白」(2018)など秀作に出演しては着実なキャリアを積んできたルーカスと、「アバウト・ア・ボーイ」(2002)でオスカー脚色賞部門に候補入りした父が組むのは、当然のように思えるかもしれない。だが、先に母役に決まっていたジュリア・ロバーツが提案するまで、ピーターはルーカスに出演をオファーすることをしなかった。役者の道を選んだ時、ルーカスは「父のコネは使わない」と決め、それを守ってきたせいである。ピーターもピーターで、すばらしい監督や共演者と組み、実力派として成長を続けている息子に、多忙な中、自分の映画なんかに出てもらうのはどうかと遠慮を感じていたようだ。それでもこんな形で息子を監督することになったことについて、彼は「ほかと変わらないと言いたいところだが、やっぱりどこか違ったね。最初の2、3日は、とくに緊張した」と本音を語ってくれている。

「ベン・イズ・バック」で、ルーカス・ヘッジスは、処方薬の依存症になってしまったティーンエイジャーを演じる。ジュリア・ロバーツの役は、そんな息子を信じ続ける母(Roadside Attractions)
「ベン・イズ・バック」で、ルーカス・ヘッジスは、処方薬の依存症になってしまったティーンエイジャーを演じる。ジュリア・ロバーツの役は、そんな息子を信じ続ける母(Roadside Attractions)

 ハリウッドはそもそも、業界一家だらけだ。親子、あるいはきょうだいのコラボレーションは、これまでに数多く行われてきた。子供の時に親の映画に出てデビューを果たす例は、とりわけよくある例。フットボール選手から俳優に転向し、今年日本公開された「ブラック・クランズマン」で本格的に演技力を証明したジョン・デビッド・ワシントンも、初めて映画に出たのは、父デンゼルが主演した「マルコムX」(1992 )だった。ウィル・スミスとジェイデン・スミス親子は「幸せのちから」(2006)「アフター・アース」(2013)で2度、親子役を演じたし、ジェイデン主演の「ベスト・キッド」(2010)は、ウィルと妻ジェイダがプロデュースしている。下の子ウィロウも、父の主演作「アイ・アム・レジェンド」(2007)で映画デビューを果たした。

 監督兼脚本家として大活躍するソフィア・コッポラも同様。「ロスト・イン・トランスレーション」(2003)でオスカー脚本賞に輝く前、彼女は「アウトサイダー」(1983)「ゴッドファーザーPART III」(1990)など、父フランシス・フォード・コッポラや、兄ロマンが監督した「CQ」(2001)に出演していたのだ。ボーとジェフのブリッジス兄弟も、幼児の時に父ロイド・ブリッジスのテレビ番組に出演してデビューを果たしている。

キャリー・フィッシャーの娘は死んだ母と再共演

 一方で、メリル・ストリープの娘メイミー・ガマーは、ちゃんと女優としてキャリアを確立してから母と共演した。その作品は、2015年の「幸せをつかむ歌」。役柄は、家庭をないがしろにしてきたミュージシャンの母と、「自分は母のようには絶対ならない」と誓って育った娘だ。メリル自身はいつも子供たちを最大優先する母で、そのためにせっかくの良いオファーを蹴ったこともたびたびあったと、メイミーは言う。それだけに、「映画の中で、母に対して怒鳴ったりするのはちょっと辛かった。そういうシーンの後は、『これは演技。私はそう思っているんじゃないのよ』と言い訳したくなったわ」と明かした。

 トム・ハンクスの息子コリンは、父の監督デビュー作「すべてをあなたに」(1996)で19歳にしてデビューしたが、後に「Great Buck Howard(日本未公開)」(2008)を父に売り込み、父にプロデューサーと共演を務めてもらっている。また、ベン・スティラーは、父ジェリーに監督兼主演作「ズーランダー」(2001)とその続編(2016)に出てもらった。ちょっと異質なのは、キャリー・フィッシャーとビリー・ロードだ。「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015)と「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017)で共演していたこの母娘は、キャリーが亡くなった後に撮影された年末公開の「Star Wars: The Rise of Skywalker(原題)」でも、過去の映像を使うことで共演を実現させている。「別の女優を雇うことも、CGで使うことも問題外だった」というJ・J・エイブラムス監督は、「〜フォースの覚醒」で使われなかった映像を探し、それをもとに今作の彼女のシーンを作っていった。「彼女の娘ビリーも現場にいて、時には一緒にいるシーンもある。奇妙だが、さらに奇妙なことには、それが奇妙だと感じられなかったんだよ」とも、彼は語っている。

 ほかには、ボーとジェフのブリッジス兄弟が、ハリウッドの歴史に残る「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」(1989)で兄弟のキャラクターを演じたし、2016年には、一緒のシーンこそほとんどないものの、ケイト・ハドソンと育ての親カート・ラッセルが「バーニング・オーシャン」で初共演を果たしている。

まだ実現していない夢の家族コラボ

 そのかたわら、ハリウッドには、まだ一緒に仕事をしたことがない親子あるいはきょうだいも、多数残る。たとえば、ロン・ハワードとブライス・ダラス・ハワードがそうだ。この父娘も、ヘッジス親子同様、“コネは使わない”と早くから決めていた。長女ブライスは、子供の頃、父の映画にエキストラで出ることは許されたものの、そこまでだと言われてきている。ニューヨーク大学で演技を学び(その学費も、両親は全額出してくれてはいない)、自分でこつこつと舞台経験を積むうちに、M・ナイト・シャマランの目に止まって、「ヴィレッジ」(2004)への出演につながったのだ。その頃から、ロンも、ブライスも、インタビューでしょっちゅう「父娘で組みたいと思いますか?」と聞かれては、「ぜひいつかやりたい」と答えてきた。しかし、未だにそれは実現していない。父同様、ブライスも最近では役者から監督業へと手を広げ始めているし、将来的にはこれまで想像してきたのと違う形でコラボレーションがかなうのかもしれない。

最新作「Teen Spirit(原題)」(近日、日本公開予定)に主演するエル・ファニング。彼女と姉のダコタは、いつか映画で共演をしたいと夢見ているそうだ(42 West)
最新作「Teen Spirit(原題)」(近日、日本公開予定)に主演するエル・ファニング。彼女と姉のダコタは、いつか映画で共演をしたいと夢見ているそうだ(42 West)

 ダコタ・ファニングとエル・ファニングも、共演が待たれる姉妹だ。ダコタは、3年ほど前の筆者とのインタビューでも、「いつか姉妹で共演したいとは思っているわ。でも、チャンスは一度しかないかもしれないから、これが正しいと信じられるものでないといけない。つまり、すごく特別なものでないとダメなのよ」と語っていたが、ふたりともあいかわらず多忙のままである。ヘムズワース3兄弟も、長男ルークが次男クリス主演の「マイティ・ソー バトル・ロイヤル」にカメオ出演したくらいで、正式な共演はまだ一度もない。クリスは「兄ルーク、弟リアムとぜひ一緒に映画に出たい」と言ってはいるし、いつかはありえるかもしれない。

 そして、スカルガルド一家。父ステラン(『アベンジャーズ』『ドラゴン・タトゥーの女』『マンマ・ミーア!』)には8人も子供がいて、そのうち4人が役者だ。大ベテランのステラン以外に日本でもおなじみなのは、「ターザン:REBORN」(2016)、「ビッグ・リトル・ライズ」(2017)の長男アレキサンダーと、「IT/イット“それ”が見えたら、終わり。」(2017)で怖いピエロを演じた四男ビルだろう。だが、次男グスタフも「ウエストワールド」「ヴァイキング〜海の覇者たち」などテレビドラマに出演するなど活躍している。

 家族は非常に仲良しな様子。アレキサンダーは「ターザン〜」の撮影を終えた直後にロンドンで仕事をしている父を訪ね、父の手料理を堪能したと語っているし、ステランも息子たちの活躍について聞かれると、いつも決まって誇らしげな表情を見せる。2年前のインタビューでも、ステランは、「こうなったらスカルスガルドのブランドで下着でも出すか」と冗談を言っていた。たしかに、みんな忙しすぎて映画での共演が無理なら、それこそ服などでコラボをしたほうがいいのかもしれない。ただし、この家族は全員が身長190cm以上。アジアなど世界での展開を考えれば、やはり下着にとどめておくのが賢明だろう。ピエロやドラゴンの絵が入ったスウェーデン製の男性ビキニがデビューする日は、果たして来るのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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