Yahoo!ニュース

ピーター・メイヒュー、74歳で死去。チューバッカを演じて38年

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」プレミアに出席した時のメイヒュー(写真:ロイター/アフロ)

「スター・ウォーズ」の伝説が、またひとり、この世を去った。ハン・ソロの相棒チューバッカのキャラクターを作り上げた、ピーター・メイヒューだ。享年74歳。家族に囲まれ、テキサスの自宅で亡くなったとのことである。アメリカ時間2日、遺族がツイートで発表した。メイヒューは、昨年7月に背骨の手術を受けているが、具体的にどのような手術だったのかはわかっていない。

 1944年、イギリス生まれ。2005年にアメリカ国籍を取得している。ロンドンの病院で用務員として働いていた彼が映画の世界に入ったきっかけは、並外れて大きな足を持つ男性として新聞に取り上げられたこと。その写真を見た「シンドバッド虎の目大冒険」(77)のプロデューサーが、大男ミノタウロス役をオファーしたのである。一方で、ジョージ・ルーカスも「スター・ウォーズ/新たなる希望」でチューバッカを演じる俳優を探していた。当初、ルーカスはデビッド・プラウズを考えていたのだが、プラウズがダース・ベイダーのほうで決まってしまったため、身長198 cmのプラウズより背の高い人はいないかと探したところ、218cmのメイヒューに白羽の矢が当たったのである。

 伝えられているところによると、演技の経験のない彼に、ルーカスは、「ただ立っていればいい」と言ったそうだ。チューバッカの鳴き声も音響デザイナーが制作している。それでも、チューバッカの姿勢や身のこなしなど、あのキャラクターの特徴的なものの多くは、メイヒューが作り出したものだ。現在チューバッカを演じるヨーナス・スオタモは、先月シカゴで開催された「スター・ウォーズ・セレブレーション」イベントの舞台でも、「彼特有の肉体的な演技がなかったら、チューバッカというキャラクターがここまで長く生き続けることはなかっただろう。この場を借りて、僕の恩師であるピーター・メイヒューに敬意を表したい」と述べ、ファンの大拍手を受けている。

メイヒューからチューバッカ役を引き継いだヨーナス・スオタモ(右)は、先月のファンイベントでもメイヒューへの感謝を述べていた(Getty Images)
メイヒューからチューバッカ役を引き継いだヨーナス・スオタモ(右)は、先月のファンイベントでもメイヒューへの感謝を述べていた(Getty Images)

 スオタモはまた、昨年の「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」公開前のインタビューでも、メイヒューから1週間かけて受けた指導について明かしてくれている。「ピーターはいろんなことを教えてくれたし、彼の思うチューバッカ像も語ってくれた。チューバッカにはチューバッカの歩き方があり、彼は絶対にやらない動きなどがあったりもするんだ。僕はそれらをできるかぎり学ばせてもらった」(スオタモ)。

 メイヒューがビッグスクリーンでチューバッカを演じたのは、2015年の「〜フォースの覚醒」が最後。ここでは引き継ぎを兼ねてメイヒューとスオタモが一緒にひとつの役を演じ、2年後の「〜最後のジェダイ」でスオタモが独り立ちするに至った。つまりメイヒューは、実に38年にもわたってひとつの役を演じ続けてきたのである。別の役もやったことはあるが、テレビドラマ「Glee/グリー」にゲスト出演した時もチューバッカ役だったし、メイヒューと言えばチューバッカ、チューバッカと言えばメイヒューだったのだ。その功績は、決して小さくない。自身も212cmと目立つ体型に生まれたスオタモは、先月のシカゴのイベントで、「子供の頃、ブルーのドリンクを手にしたルークがチューイーに初めて会うのを見た時、この世には誰にだって居場所があるんだと僕は思った。チューイーは、その象徴なのさ。体が大きくても、小さくても、あなたの居場所は、世界の中に絶対あるんだよ」とも語っている。

 そのメッセージを伝え続けていきたいと、スオタモは言う。それを最初に発信したのは、メイヒューだ。素敵な夢と希望を、ありがとう。ご冥福を心よりお祈りします。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事