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売れっ子女優エミリー・ブラントが語る仕事と子育て:「すべてを持つのは可能」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
エミリー・ブラントとジョン・クラシンスキーはハリウッドのパワーカップル(写真:Shutterstock/アフロ)

 これもメリー・ポピンズの魔法?

 アクションに犯罪スリラー、ミュージカルからコメディまで、幅広い映画に出てはヒットさせてきたエミリー・ブラント(35)は、競争の激しいハリウッドでも一番の売れっ子のひとり。誰もがあこがれるキャリアを築いた彼女はまた、背の高いイケメン男性と結婚し、ふたりの娘に恵まれてもいる。夫ジョン・クラシンスキーと初共演した昨年の「クワイエット・プレイス」は大ヒットで、「私生活のカップルが映画でカップルを演じると失敗する」というハリウッドの常識すら、覆してみせた。

 何もかもを手にした女性とは、まさにこの人のこと。野望たっぷりという雰囲気をまるで感じさせないのもまたこの人の魅力なのだが、本人は、自分が野心家であることを否定しない。

「野心というのはポジティブな言葉なのよ。それはすなわちやる気、根性を意味するんだから。私たち女性の手で、野心という言葉を定義し直していくべきだと思うわ。私は、自分の娘たちにも野心家であってほしい。女性が何もかもを手にするのは可能。大変ではあるけれど、それは当たり前。楽なことなんかないんだから、やるべきなの。仕事もしたいし子供もほしいならば、出産に最高のタイミングなんてないと思ったほうがいい。私は子供が大好きで、自分の子供が絶対にほしかった。40歳まで待つなんて、したくなかった。最初の娘を生んだのは30歳の時よ。そう聞くと早くはないと思うかもしれないけれども、私の友人の中では断然早いほうだったわ」。

「メリー・ポピンズ リターンズ」は、1964年の「メリー・ポピンズ」の続編。ジュリー・アンドリュースも今作を応援してくれた(写真/2019 Disney Enterprises Inc.)
「メリー・ポピンズ リターンズ」は、1964年の「メリー・ポピンズ」の続編。ジュリー・アンドリュースも今作を応援してくれた(写真/2019 Disney Enterprises Inc.)

 ふたりめの娘を生んだのは、ミュージカル映画「メリー・ポピンズ リターンズ」の撮影が始まる前。妊娠中もこの映画のための歌のレッスンに励み、生後5ヶ月になった時にリハーサルを始めた。

「『メリー・ポピンズ〜』はビッグなプロジェクトだし、これまでにも増して大変な日々になるのはわかっていた。そして本当に、この撮影では、これまでにない形で常に子育てと仕事に悩殺されることになったわ。ジョンはその時、遠いところでロケをしていたし、私は毎日、朝5時半に家を出て帰宅は8時というスケジュール。だから、撮影現場には毎日ふたりとも連れて行った。しかも、下の子はまだ赤ちゃんで、夜はちゃんと寝てくれない。睡眠不足のまま、また朝仕事へ出るということがしょっちゅうだったわね」。

 それでも、「職業柄、休む時は数ヶ月単位で休めるのだから恵まれている」とも認める。さらに、大変なのは母親だけではないと付け加えることも忘れない。

「ジョンは、最高のパパよ。彼だって、一生懸命、父親業とキャリアを両立している。その質問をされるのは、いつだって女性なのよね。男性は絶対に聞かれない。だけど、パパたちだって大変なの。ジョンを見ているから、私は知っているわ」。

ふたりの子育てに忙しいブラントは、撮影現場でも子役に囲まれることに。「右を見ても左を見ても真ん中を見ても子供、という日々だったわ」(写真/2019 Disney Enterprises Inc.)
ふたりの子育てに忙しいブラントは、撮影現場でも子役に囲まれることに。「右を見ても左を見ても真ん中を見ても子供、という日々だったわ」(写真/2019 Disney Enterprises Inc.)

 イクメン夫のほかに、ブラントにはもうひとつ、頼りにするものがある。超越瞑想(TM)だ。デビッド・リンチやエレン・デジェネレスなど、ハリウッドセレブには、この瞑想を実践する人が多い。

「友人の勧めで始めたのよ。彼女の先生にわが家まで来てもらって、夫婦で一緒に教わったの。以来、毎日2回やるようにしている。2回が無理な日も、絶対1回はやるわ。1回あたり、20分から30分。それは、1日で唯一の、自分だけの時間。始めてから4年ほどになるけれど、私の人生はすっかり変わった。『メリー・ポピンズ〜』の撮影現場でも、セットや照明の組み替えで30分ほど待ち時間があると、瞑想をやったわ。あの撮影を乗り切れたのも、これのおかげよ」。

 この魔法ならば、誰にでも学べそうだ。

「メリー・ポピンズ リターンズ」は、2月1日(金)より全国ロードショー。

エミリー・ブラント:1983年イギリス生まれ。出演作に「プラダを着た悪魔」「ヴィクトリア女王 世紀の愛」「アジャストメント」「オール・ユー・ニード・イズ・キル」「イントゥ・ザ・ウッズ」「ボーダーライン」「ガール・オン・ザ・トレイン」など多数。宮崎駿の「風立ちぬ」英語吹き替え版には、夫婦揃って声の出演をしている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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