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ブラピ、ジョニデ、ワインスタイン:この人の1年

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
2年にわたる騒動を経て、ブラッド・ピットは今月ついに共同親権を獲得した(写真:Shutterstock/アフロ)

 2018年も、あと10日を残すばかりとなった。今年もまた、いろいろあったハリウッド。中でも気になる人たちの1年を、振り返ってみよう。

ブラッド・ピット:念願の共同親権獲得

 アンジェリーナ・ジョリーが突然ピットに離婚を申請して大ニュースとなったのは、2016年の秋。丸2年経つ今も離婚は成立していないが、一番大事だった親権問題が、今月になって、ようやく解決した。裁判所は、ピットの望みどおり、共同親権を与えたのである。

 最初の申請で、ジョリーは、6人の子供の単独親権を求めた。共同親権が普通のアメリカでは珍しいことで、それを実現させるために、彼女は、ピットの酒癖などを含め、彼がいかに父親としてふさわしくないか、裁判所を説得しようとしている。しかし、冷や水を浴びせられたピットは、完全に酒断ちをし、行動を改めて、裁判所から、少しずつ子供たちとの面会時間を増やしてもらっていった。ジョリーにはそれがおもしろくなく、新たな弁護士まで雇って抵抗したが、かなわなかったのだ。

 それでもまだ彼にとっての障害は大きい。ジョリーに吹き込まれたこともあり、子供たちと彼の関係は、かなりぎくしゃくしてしまっているらしいのである。とくに、ピットと付き合い始める前にジョリーが養子縁組していた長男マードックス君とは、相当にこじれているようだ。これからまた一緒に時間を過ごすことで、再び父子の絆を取り戻していくことは、彼にとって一番の願いだろう。

 キャリアのほうは、あいかわらず順調。とりわけプロデューサーとしての才覚にはますます磨きがかかっている。今月北米公開の「バイス」「ビール・ストリートの恋人たち」も彼が製作したもので、オスカーでの大健闘が期待されている傑作だ。俳優としては、あの「デッドプール2」の一瞬のカメオ出演が、なんともいい感じだった。来年は、タランティーノ最新作「Once Upon a Time in Hollywood」で、レオナルド・ディカプリオ、マーゴット・ロビーらと共演する。

スカーレット・ヨハンソン:またもやポリコレで叩かれる

 日本アニメを実写映画化する「ゴースト・イン・ザ・シェル」に主演し、“ホワイトウォッシング”だとバッシングされたヨハンソンは、今年もまた、ポリティカル・コレクトネスで論議を呼ぶことになった。

 彼女の次回主演作として発表された「Rub & Tug」は、トランスジェンダー男性が主人公の実話。だが、本物のトランスジェンダー女性が主演の「ナチュラルウーマン」がオスカー外国語映画賞を受賞した直後だったこともあってか、ヨハンソンのキャスティングは、たちまち非難を集める。これを受けて、ヨハンソンは降板を発表。その理由については、「トランスジェンダーの人々に対する社会の理解は、日々、深まり続けています。このキャスティングが発表されてから、私は、そのコミュニティの方々に、多くのことを学ばせていただきました。そして、私がこの役を演じるのは配慮に欠けることであると認識させられました。トランスジェンダーのコミュニティの人々に、心から敬意と愛を捧げたいと思います」と、声明で説明した。

 しかし、ヨハンソンが出なくなると、このプロジェクトの存続自体が危うくなってしまう。出資者は、ヨハンソンという大スターだから投資しようと思ったのであり、そうでないなら話が違うのだ。せっかくハリウッドがトランスジェンダーを扱う映画を作ろうとしたのに、キャスティングに文句をつけて潰してしまったとは皮肉ではないかと、これまた新たな論議が起こっている。

 私生活では、「Saturday Night Live」のコメディアン、コリン・ジョストと、あいかわらず順調な様子。ジョストがホストを務めたエミー賞授賞式でも、ふたりは仲良くカップルとしてレッドカーペットを歩いている。2番目の夫との間に生まれた娘は、今年4歳になった。

ハーベイ・ワインスタイン:刑事裁判が開始

 ハリウッドきっての大物プロデューサーの、長年にわたるセクハラやレイプが暴露されたのは、昨年10月のこと。現在、彼は刑事裁判でも起訴され、パスポートを取り上げられて、ニューヨーク州とコネティカット州の外には出られない状態でいる。

 そんな中ながら、彼にとっては希望をもてる要素も出てきた。ニューヨーク警察の捜査が公平ではなかった疑いが出て、検察は、刑事裁判の対象として挙げられている6つの事件に関する1件を、棄却したのである。

 この事件の被害者は、「New Yorker」の記事で告白をしたルチア・エヴァンス。当時、女優志望の若い女性だった彼女は、ニューヨークのレストランでたまたまワインスタインと出会った。その場には彼女の友人もいたのだが、その時に彼女がエヴァンス自身から聞いた話と、「New Yorker」に出ていた話が、食い違っていたのだ。その友人はそれを警察に話したのだが、警察は彼女の証言を検察に伝えなかったのである。

 勢いに乗って、ワインスタインの弁護士は、ほかの件も棄却に持ち込もうとするも、その訴えは、今週、裁判所に撥ねつけられた。しかし、ワインスタイン側は、これからも被害者の主張の矛盾や警察の捜査の不公平さを前面に出して闘う姿勢のようである。次にワインスタインの出頭が予定されているのは、来年3月7日。

マライア・キャリー:スキャンダル女王でも歌姫は歌姫

 この人のお騒がせぶりは、今年も変わらずだった。まずは、年明け早々に、南米のコンサートプロモーターから訴訟を起こされている。キャリーは昨年、南米でのコンサートをキャンセルしたのだが、その時、彼女は、それがプロモーターのせいであるかのようにツイートしていた。しかし、プロモーターは、ブラジルでのチケットの売れ行きが悪かったことからキャリーが一方的にキャンセルしたのだと主張。プロモーターは、損害賠償と名誉毀損で300万ドルを要求している。

 そして4月には、元マネージャーのステラ・ストルパーから、不当解雇やセクハラなどをめぐって訴えを起こすと警告を受けた。ストルパーによると、キャリーは家の中でたびたび裸でいたり、性的な行動をしてみせたりしたのだという。また、未払い賃金も多額にあるとのこと。キャリー側は、ストルパーの言い分を完全に否定している。

 その一方で、シンガーとしては、根強い人気ぶりを再証明した。今月、発売から24年経つ彼女のアルバム「Merry Christmas」は、ビルボードのR&Bアルバムのトップに返り咲いているのである。その前の週に1位だったのは、彼女の最新アルバム「Caution」だった。このジャンルでアーティストが自分から首位の座を奪ったのは、初めてのこと。来年2月からは、この新アルバムをプロモートするツアーも始まる。

ジョニー・デップ:本格的なキャリアの転機か

 2016年、アンバー・ハードから突然離婚を申請されて以来、私生活やビジネス面のスキャンダルが次々に浮上。今年も、元ボディガードふたりと、映画の撮影現場のクルーから、別々の件で訴訟を受けた。一方で、2016年に始まった元ビジネスマネージャーとの醜い訴訟は、ようやく解決している。示談の内容は明らかにされていないが、双方とも満足のいく形で落ち着いたようだ。

 だが、一番の衝撃ニュースは、「パイレーツ・オブ・カリビアン」から降ろされたことだろう。正式な発表はまだないものの、脚本家スチュアート・ビーティがイギリスのメディアに語ったところによると、ディズニーは新しい俳優でシリーズのリブートをはかろうとしているそうなのである。デップはジャック・スパロウの役が大好きで、1作目の時から、この役はずっと演じ続けていきたいと語っていた。それだけに、彼にしてみれば本当に残念に違いない。しかし、ジェームズ・ボンドにしろ、スパイダーマンにしろ、長く続くシリーズで主演俳優が変わるのは、ハリウッドでごく普通のこと。いつか必ず来ることが、今来てしまったにすぎない。

 その代わりというわけではないが、デップは今年、「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」で、悪役グレンデルバルドを名演した。1作目ではカメオ的出演だったので、この2作目が彼の本格的な出演作となる。シリーズはあと3本出来る予定で、これからもまだまだ出番はありそうだ。

 さらにデップは今年、水俣病の取材を続けた写真家ウィリアム・ユージーン・スミスについての映画「Minamata」と、高い評価を受けた小説の映画化「Waiting For the Barbarian」への出演を決めており、“演技派”デップの復活も期待できそうである。と考えれば、スパロウと別れを告げた今年は、彼のキャリアの転機の年になったのかもしれない。ここ数年、彼は、ヒットやオスカーノミネーションから遠ざかっていた。2019年は、いよいよ“新生”ジョニー・デップを見られる年になるだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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