Yahoo!ニュース

ジャスティンも、Wライアンも。俺たち実はカナダ人

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
カナダ人のジャスティン・ビーバーは、結婚したらアメリカ国籍を取るつもりでいる(写真:Shutterstock/アフロ)

 ジャスティン・ビーバーとヘイリー・ボールドウィンが、結婚への準備を着実に進めている。すでにマリッジライセンスも発行され、現在、お互いの弁護士は、婚前契約(prenup)の内容を詰めているということだ。これらがすべて整い、めでたく夫婦になったら、ビーバーはアメリカの国籍を取るつもりだとの報道もある。

 L.A.郊外の閑静な住宅街で騒いではご近所さんから苦情を受けたり、ニューヨークの街中でボールドウィンといちゃいちゃしている姿がパパラッチされたりしてきたビーバーは、実はカナダ人。YouTubeに上げた動画がきっかけで才能を発掘された時、彼はシングルマザーの母とオンタリオ州ストラットフォードに住んでいた。

 だが、その前にも、カナダからハリウッドには、多くの才能が流れてきている。たとえば、ジム・キャリーもビーバーと同じオンタリオの出身だ。コメディアンとしての成功を目指してアメリカに移住したのは19歳の時。2004年には、アメリカの市民権を取得し、カナダとアメリカの二重国籍になった。

「Saturday Night Live」のレギュラー出演で人気を集め、後に「オースティン・パワーズ」を大ヒットさせたマイク・マイヤーズも、オンタリオ出身の誇り高きカナダ人。2016年には「Canada」という著書まで出版し、カナダの切手に顔が使われたこともある。やはりコメディで知られるセス・ローゲンは、バンクーバー生まれ。珍しくシリアスな映画「テイク・ディス・ワルツ」に出た時には、「(監督の)サラ・ポーリーも同じカナダ人だから、役のない僕をかわいそうに思って仕事をくれたんだよ」と、いかにも彼らしい冗談を言っていた。

 スーパーヒーローの世界でもカナダ人は大活躍。「デッドプール」のライアン・レイノルズ、「アントマン」のエヴァンジェリン・リリーは、どちらもブリティッシュ・コロンビア州出身。ライアンと言えばライアン・ゴズリングもカナダ人だ。彼がアメリカに移住したのは、ディズニー・チャンネルの子供向け番組「The Mickey Mouse Club」のオーディションに受かった時である。

 ほかには、ゴズリングの元恋人レイチェル・マクアダムスや、「スター・ウォーズ」エピソード1から3でアナキン・スカイウォーカーを演じたヘイデン・クリステンセン、「魔法使いの弟子」のジェイ・バルシェル、「スコット・ピルグリムと邪悪な元カレ軍団」のマイケル・セラなどがいる。10年続いたコメディ番組「フレンズ」でチャンドラーを演じたマシュー・ペリーは、ジャスティン・トルドー首相の小学校時代の同級生だ。子供だったペリーがトルドーを殴って負かせたことを、昨年、ペリーがテレビのインタビューで明かした後、トルドーは、「チャンドラーを殴ってみたいものだよね。再試合といこうか」とツイートをし、ユーモアのセンスを見せた。

 やや意外なところでは、ジェームズ・キャメロンもそうだ。ハリウッドで最大のヒットメーカーである彼が家族とともにカリフォルニアに移住したのは17歳の時。その前はナイアガラの高校に通っていた。

トランプのおかげでカナダのイメージは急上昇

 長い間、目立つお兄ちゃんの陰でおとなしくしている弟のような存在だったカナダは、トランプがアメリカの大統領になってからというもの、たちまち、良識あふれる人たちの国として、魅力をアップさせている。キリスト教原理主義の政権に支配された近未来のアメリカを舞台にした「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」は、トランプ政権の下、非常にタイムリーだとして評価されているのだが、このドラマで人々が逃げ出す先も、カナダだ。カナダ人たちがアメリカからの難民を手厚く保護してあげるシーンは、とりわけトランプ政権への強烈な皮肉と言える。

 トランプが大統領に就任してまもない昨年初め、モントリオール生まれのシャルロット・ルボン(『マダム・マロリーと魔法のスパイス』『THE PROMISE/君への誓い』)を筆者がインタビューした時、この話題を出すと、彼女は「そうね。カナダ人であることをここまで誇りに思ったことは、今までなかったかも」と、得意げに微笑んだ。「トルドーはヒーローよ。私はもともとカナダが大好きだけれど、今の政治状態では、もっとそう感じるようになった。フレンチカナディアンの文化も好き。でも、私のキャリアは、そこにはない。だから、長い時間をあそこで過ごすことはできないの」とも、この時、ルボンは語っている。

 だが、そこも少しずつ変わりつつあるようだ。ドゥニ・ヴェルヌーヴ(『メッセージ』『ブレードランナー2049』)、ジャン=マルク・ヴァレ(『ダラス・バイヤーズクラブ』『ビッグ・リトル・ライズ〜セレブママたちの憂うつ〜』)、グザヴィエ・ドラン(『Mommy/マミー』『たかが世界の終わり』)ら、今ハリウッドで大注目される監督たちは、いずれもフレンチカナディアンなのである。ダニー・ボイルが次の「007」を急遽降板した後に、一番の候補に上がったのも、ヴェルヌーヴとヴァレだった。ほかの作品がすでに決まっていたため、ふたりとも断り、キャリー・ジョージ・フクナガがその座を獲得したのだが、つまり、それだけの大作を任せたいと思われる存在なのだ。

 ここ何年も、オーストラリアのスターのインタビューや記者会見では、「オーストラリアは人口が少ないのに、どうしてこんなにたくさんの名役者を生み出してきているのでしょうか」という質問がしばしば聞かれてきた。だが、カナダ人に対して、その質問が出たことはない。発音もアメリカに近いカナダ人は、すっかり混じりすぎていて、意識されないままできたせいだろう。これからは、きっと違ってくる。次は、いよいよカナダの番。アメリカが“できの悪い従兄弟”になる日も、そう遠くはないかもしれないのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事