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シャーリーズ・セロンにレネ・ゼルウェガー。役のために太ったハリウッド女優たちは報われたのか?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「タリー〜」のために増やした体重を、1年半かけて戻したシャーリーズ・セロン(写真:Shutterstock/アフロ)

 美しい人たちが集うハリウッドで、真っ白な歯と鍛えられたボディはお約束。パーソナルトレーナーやビーガン(完全菜食主義)のシェフ、運動から来る筋肉痛を解消するためのマッサージセラピストまで、果てしなくかかるお金は、このクラブに所属する上での会費のようなものだ。

 日々、それだけ努力と投資をしている彼らにとって、太った自分を想像するのは、どんなホラー映画よりも恐ろしいこと。男優よりもっと見た目が重視される女優の場合は、なおさらである。

 だが、シャーリーズ・セロンは、現在日本公開中の「タリーと私の秘密の時間」のために、20キロ弱も体重を増やしてみせた。彼女は15年前にも「モンスター」で13キロ太っているので、キャリア2度目だ。「モンスター」でオスカーを取ってしまった以上、もう何も証明する必要はないのに、あえてまたやったのである。彼女がプロデューサーも兼任する今作は、rottentomatoes.comで86%と、高評価を得た。

「タリーと私の秘密の時間」のために、シャーリーズ・セロンは20キロ近く太った(写真/2018 TULLY PRODUCTIONS. LLC)
「タリーと私の秘密の時間」のために、シャーリーズ・セロンは20キロ近く太った(写真/2018 TULLY PRODUCTIONS. LLC)

 レネ・ゼルウェガーも、「ブリジット・ジョーンズの日記」のために太り、キャリア初のオスカー候補入りを果たしている。セロンの「モンスター」が実話のシリアスな作品だったのと違い、「ブリジット〜」はオスカーで軽視されがちなロマンチックコメディだ。それだけに意外だったし、彼女にとっても、報われたという感が大きかったかもしれない。

 しかし、女性たちから絶大な共感を得ていた大ベストセラー本の主人公を演じるにあたり、ゼルウェガーに「太らない」という選択肢はなかったのである。ロンドンのキャリアウーマンで、ダイエットを繰り返しては失敗するブリジットを、テキサス出身のスリムなゼルウェガーが演じると発表された時には、大バッシングが起こった。そんな中、ゼルウェガーは、13キロか14キロほど太り、イギリス英語もマスターして、原作のファンにも認められる映画版ブリジットを作り上げてみせたのだ。撮影後はすぐ元の体に戻したが、3年後の「ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうな私の12ヶ月」のためには再び太り、前より高いギャラを獲得。一方で、12年を経て作られた2016年の「ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期」では、ゆったりとした服でごまかしている。「ブリジットはここまでの間に体重管理を学んできたはず」と、監督は、ゼルウェガーに対して、今回は太らなくてもいいと言ったとのことだ。

 ミシェル・ウィリアムズも、「ブルーバレンタイン」のために体重を増やした。夫役のライアン・ゴズリングが監督との話し合いで太ることに決めたと聞き、「私もやる」と自ら申し出たのだという。しかも、彼女はゴズリングよりも太り、その体でヌードシーンまでやってみせた。今作で、彼女はキャリア2度目のオスカー候補入りを果たしている。

 ジュリア・ロバーツも、「食べて、祈って、恋をして」のローマでのシーンのために4キロほど体重を増やした(ロバーツが映画で演じる主人公で、原作本の著者エリザベス・ギルバートは、実際にはその3倍太ったそうだ)。オスカーには引っかからなかったが、今作はロバーツのキャリアで「アメリカン・スウィートハート」以来、北米で最高のオープニング成績を飾ることになっている。

 一方で、あまり報われなかったのはジェニファー・アニストンだ。テレビ番組「フレンズ」で大人気を得て以来、美しい髪と小麦色のヘルシーボディを売りにしてきたアニストンは、45歳にして勝負どきと思ったのか、シリアスでダークな映画「Cake(日本未公開)」のために、初めて体重を増やした。ブラッド・ピットと結婚中、「フレンズ」でエミー賞を取った時、彼女は「まだオスカーもベイビーもほしいわ」と野望を語っていただけに、これでついにその目的のひとつには近づくかと注目されたが、残念なことに、オスカー候補入りには至っていない。興行的にも失敗で、すっかり懲りたのか、アニストンは今またきれいなルックスで軽いコメディに出ている。

男優が太った例はもっと多い

 もちろん、男たちの例は、もっと多い。そもそも、この件における先駆者は、「レイジング・ブル」のロバート・デ・ニーロだ。この映画のために彼は27キロも太り、それは当時、記録的だったのだが、7年後にはヴィンセント・ドノフリオが「フルメタル・ジャケット」で32キロ太ってみせた。ほかにも、ジョージ・クルーニーが「シリアナ」、マット・デイモンが「インフォーマント!」、マシュー・マコノヒーが「ゴールド/金塊の行方」のために増量している。デ・ニーロはあの役でキャリア2度目のオスカーを得たが、ほかの俳優の場合は、同じようにわかりやすい報われ方はしていない。

昨年12月のインタビューに、クリスチャン・ベール(右)は、今年公開予定の「Backseat」のために太った状態で現れた。横のふたりは別の主演作「Hostiles」のコンサルタント(筆者撮影)
昨年12月のインタビューに、クリスチャン・ベール(右)は、今年公開予定の「Backseat」のために太った状態で現れた。横のふたりは別の主演作「Hostiles」のコンサルタント(筆者撮影)

 しかし、最も驚くのは、やはりクリスチャン・ベールだろう。「マシニスト」で激痩せした後に「バットマン ビギンズ」でスーパーヒーローの肉体を作り上げた彼は、「ザ・ファイター」で再び痩せ、「アメリカン・ハッスル」では20キロも太ったのである(『ザ・ファイター』でベールはオスカーを受賞、『アメリカン・ハッスル』でもノミネートされた)。1年半ほど前の筆者とのインタビューでは、さすがに「体に悪いから、もうあまりやりたくない」と言っていたのに、それから7、8ヶ月後に会った時、彼は次回作「Backseat」でディック・チェイニーを演じるために、また太っていた。そんなベールにとって、太った自分を見るのは「ちっとも恥ずかしくない」そうだ。「演技を仕事にしていると、屈辱的な思いは、しょっちゅうする。かっこ悪いという状態を楽しむことを覚えたら、心配事がひとつ減って、いいものだよ」と言う彼は、撮影が終わった後も、次の役のために必要でなければ、焦って痩せるプレッシャーは感じないそうだ。そこはやはり、男性の強みかもしれない。

糖分はやはりダイエットの大敵ということ

 撮影初日、太った体で現場入りしたい俳優たちの“強い味方”となるのは、いつもアイスクリームだ。太るために何を食べたかを聞くと、必ず出てくるのがこれなのである。ウィリアムズは「パイントサイズ(473 ml)のアイスクリームを、丸々、ベッドの中で食べたりした」と語っているし、ゼルウェガーもベン&ジェリーズをさんざん堪能した。ゴズリングに至っては、「ハーゲンダッツを電子レンジに入れて溶かし、喉が乾いたら水代わりに飲んだ」そうである。

 つまりミルクシェイクみたいにしたということだが、シェイクならばセロンもたっぷり飲んだ。セロンはまた、コーラを1日12本飲んだりもしたらしい。これらの俳優たちが全員、その間、ワークアウトを完全にやめたのは、言うまでもない。

「太るのは誰にだってできるよ。ドーナツをたくさん食べればね」と、ベール。それは納得だし、太った体を元に戻すのが大変というのも、誰にでもわかることだ。セロンは、「タリー〜」で増やした体重を戻すのに1年半もかかったと嘆いていた。「モンスター」の時はそこまで苦労しなかったそうで、歳を取ると痩せづらくなるというのも、事実のようである。

 そこまでする彼らには感服させられるが、これをやる人が必ずしも偉く、やらない人はそうじゃないというわけではない。たとえば、トム・ハンクスは、「フィラデルフィア」「キャスト・アウェイ」が糖尿病につながったとして、もう極端な体重の増減はやらないと言っている。俳優だって人間だし、人の親。健康管理は大事だ。これは、俳優が役のためにどこまでやるのかということの象徴にすぎない。真実の追求のために、俳優がやることはたくさんある。そういった話はどれも非常に興味深く、聞くたびに魅了されてしまう。ひとつの役の裏には、さまざまな努力があるのだ。それが演技に奥深さを与えるのである。表には見えないそういうことを毎回やるのかどうかが、まさに、「セレブ」と「役者」の分かれ目なのだと思う。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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