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ロバート・ダウニー・Jrにエマ・ワトソン。ヨガを愛するハリウッドセレブたち

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
一緒にヨガクラスに通うリース・ウィザスプーン(左)とナオミ・ワッツ(写真:Splash/アフロ)

 今週21日は、国際ヨガデー。人生を豊かにしてくれるヨガの伝統に敬意と感謝を表明する日だ。

 ヨガ雑誌の表紙では、たいてい、若くて美しい女性モデルがおしゃれなウェアを着てかっこいいポーズをとっていたりするので、ヨガは女性のためのものだとか、痩せるための運動と誤解している人も多いようだが、ヨガは生き方の指針。あれらのポーズは“アサナ”と呼ばれるもので、私たちが人生で実践していくべきことのひとつにすぎない。

 健康な精神は健康な肉体に宿ると言われるとおり、アサナで体を鍛えるのは大切。だが、ダンスや体操と違い、どこまで完璧にポーズができるかは決して目的ではない。ポーズをしながらも、そこに気を散らせることなく、落ち着いた呼吸を常に保ち続けることこそ、大事なのである。そして、それを、日常のいろんな場面でも、忘れないようにするのだ。授賞式で名前を呼ばれ、舞台に上がったメリル・ストリープが、「ああ、落ち着かなきゃ!ヨガ!」と言って呼吸を整えようとし、会場を笑わせたことがあるが、そういうことなのである。

 この時に、彼女もヨガをやるんだなと思ったのだが、びっくりというより、やっぱりという感じだった。ハリウッドセレブがヨガをするのは、犬を飼っていることと同じくらい、当たり前のこと。とは言っても、程度はさまざまで、ひとつのスタイルを20年以上やってきた人もいれば、数あるワークアウトの一貫として取り入れている人、あるいは、昔は熱心だったがもうあまりやっていない人もいる。有名な先生に家まで来てもらって個人レッスンを受けている人も、ヨガスタジオで一般人と一緒に平気でやっている人もいる。

 筆者自身もヨガを実践してきているため、インタビューの折に、ヨガについての話題に触れたこともある。それらのコメントも含めて、この機会に、彼らとヨガの関係を少し紹介してみよう。

ヨガをメジャーにしたマドンナ、クリスティ・ターリントン

 ヨガが生まれたのは、今からおよそ4,500年前。アメリカに入って来たのは19世紀末で、初めてヨガスタジオなるものが登場したのは、1947年、ウエストハリウッドだった。オープンしたのはドイツ人女優。この時からセレブつながりがあったのである。

 その後、L.A.では少しずつヨガ人口が増えていくのだが、ヨガがメジャーになったのは90年代初めごろだ。おそらく、マドンナとクリスティ・ターリントンが大きな理由だっただろう。実をいうと、筆者自身の場合も、92年か93年にアメリカの女性誌で読んだマドンナのインタビューがきっかけだった。その記事の中で、彼女は、現在、ワークアウトはヨガしかしないと語っていたのである。当時、ヨガに対してストレッチ程度のイメージしかもっていなかった筆者にとって、それはかなりの驚きだった。

 彼女がはまったのは、アシュタンガヨガ。コンサートツアーで世界を回る時にもL.A.からお気に入りの先生を連れて行くほど熱心で、2000年には映画「二番目に大切なこと」でヨガインストラクターを演じてもいる。だが、それから何年か経って筆者が彼女をインタビューした頃には、最大の情熱の対象はカバラ(宗教)に移っており、ヨガは、「アサナはまだやったりするけれど」ということだった。運動の一貫としてはまだやることもあるが、フィロソフィーとして従うのはカバラということだろう。

 マドンナと大の仲良しで、マドンナの言うことならばなんでも従っていたグウィネス・パルトロウも、相当にヨガにはまり、ニューヨークのスタジオで何度か目撃されている。その頃は、映画の撮影がある日も、朝4時や5時からヨガの練習をしていたと、あるインタビューで語っていた。だが、その後はトレイシー・アンダーソンのフィットネスメソッドを大絶賛するなどしているし、ヨガ以外にもワークアウトを広げたようである。

 同じ頃、スーパーモデルのターリントンは、大手のスポーツアパレルメーカーと組んでヨガウェアのブランドをデビューさせた。当時にしてはかなり値段が高かったこともあってか、このブランドはあまり長く続かなかったようだが、ヨガにおしゃれなイメージを決定的に植え付けたのは彼女だったと言っていいかもしれない。

 また、現在60歳のアネット・ベニングは、演技の勉強をしていた若い頃、プログラムのひとつとしてヨガに出合ったと言うから、経験は相当に長い。彼女が愛するのはアイアンガーヨガで、インドまで修行に行ったことこそないものの、故B.K.S. アイアンガーがアメリカに来た時に、彼と会ってもいる。筆者が昨年インタビューした時には、「今は、ほとんど自宅練習」と語っていた。「子供が小さかった時には、ヨガスタジオでクラスを取って、ひとりの静かな時間を楽しんだりもしたけれど、(4人いる子供のうち)3人はもう大きくなって家を出てしまった。ここまでにたっぷりとクラスを受けてきて、自分でできるくらいになってもいるしね」とのことだ。

女優として成功しなかったら、ヨガインストラクターになっていた

 ヨガが本格的ブームになる前から実践していたひとりに、「SEX AND THE CITY」のシャーロットことクリスティン・デイヴィスがいる。デイヴィスは、サンタモニカでチャック・ミラーのアシュタンガヨガクラスに通っていて、テレビドラマ「メルローズ・プレイス」のブルック役を獲得する前は、自分もヨガの先生になろうかと思っていた。「ウエイトレスもやっていたのだけれど、あの仕事は嫌いで、いつも泣いていた。でも、ヨガの先生なら、できるんじゃないかと思ったのよね。それで、女優仲間と、昼間はヨガ、夜は空手を教えるスタジオをやることにしたの。その3ヶ月後に、『メルローズ・プレイス』の役をもらったのよ」と、2008年の筆者とのインタビューでデイヴィスは語っている。ブルックが出て来るのは1994年の第3シーズンなので、その頃の話だ。もう今は、そんなに熱心にヨガはやっていないとのことである。

 ナオミ・ワッツも、「マルホランド・ドライブ」で大ブレイクを果たす前は、ヨガのインストラクターになることを考えていた。オーストラリアからL.A.に引っ越してきたはいいが、なかなか役をもらえず、「ヨガばかりやっていた」のだそうである。諦めようかと思ったこともあったが、昔からのお友達であるニコール・キッドマンに、「ひとつの映画で運命が変わるんだから」と励まされ、がんばり続けた。

 一方で、エマ・ワトソンは、女優業があいかわらず絶好調な中で、あえてヨガの先生の資格を取っている。彼女が実践するのは、瞑想に近いヨガニドラで、「4、5年やって、自分の人生において大きな助けになったと感じ、教えるためのトレーニングを受けようと思った」のだそうだ。

 ジェニファー・アニストンは、自分で教えはしないが、大のお気に入りの先生マンディ・イングバーがヨガのDVDを出す上で、大きな貢献をしている。普段からイングバーのことをべた褒めしてきたアニストンは、DVDのイントロに登場するほか、プロモーションにも活躍した。イングバーの生徒には、ほかに、ジェニファー・ローレンス、チェルシー・ハンドラー、ケイト・ベッキンセール、ヘレン・ハントなどがいる。

男性たちも同じくらい熱心

 先にも少し述べたが、ヨガは女性がやるものというイメージは、ごく近年生まれたものだ。その昔、ヨガは男性だけのものだったのである。

 ハリウッドにも、ヨガをやっている男性は多い。そもそも、ターリントンがヨガに出合ったきっかけも、当時の恋人に連れられて、L.A.のクンダリーニヨガのクラスに行ったことだったそうだ。その男性は、彼女より先にヨガに目覚めていたのである。ウディ・ハレルソン、スティング、ウィレム・デフォーらはみんな、ヨガ歴20年以上の大ベテラン。トビー・マグワイアも、「スパイダーマン」(2002)の主役に大抜擢される前に、すでにヨガの魅力を語っていた。しかし、彼が今もまだ熱心にやっているのかどうかは不明だ。

 デフォーは、長年の間にたびたびニューヨークとL.A.のアシュタンガスタジオで目撃されている。コリン・ファレルとチャニング・テイタムも、ヨガスタジオで練習をするのが好きだ。プライベートクラスを受けるくらいのお金はあるはずなのに、あえてそうしない理由を聞くと、ファレルは「プライベートは退屈じゃないか。今の世の中は、コミュニティの感覚が薄れているが、ヨガのクラスでは、それが感じられる。L.A.のスタジオで、40人くらいの人たちと一緒に太陽礼拝をやるのさ。誰とも話さなくていいし、彼らもしゃべりかけてはこない。でも、みんなで同じことをやるんだ。それは素敵」と答えた。特定のスタイルにはこだわらないそうだが、動きが速くて激しい、汗をかくタイプのヨガが好きだそうである。テイタムのお気に入りも、ホットヨガだ。

 アイアンマン役で最も稼ぐスターになったロバート・ダウニー・Jr.も、ワークアウトにヨガを取り入れている。だが、彼はマリブの自宅に先生を呼び、プライベートレッスンを受けているので、スタジオでマットを広げる姿にお目にかかることはなさそうだ。ラッセル・シモンズは、ヨガ好きが高じて、L.A.に自分のヨガスタジオをオープンまでした。サンセット・ブルバードの超一等地にある豪華スタジオだが、昨年秋、シモンズに過去のセクハラやレイプ疑惑が浮上し、シモンズはこのスタジオとの関係を一切断ち切っている。スタジオは現在も経営を続けている。

 ところで、この国際ヨガデーにからんで、日本でも、各地でさまざまなイベントが予定されているようだ。ヨガをやったことはないが興味があるという人は、ぜひこの月に、一度試してみることをおすすめしたい。また、すでにヨガを実践し、その恩恵を味わっている方は、非営利団体ヨガギヴスバック(http://yogagivesback.org/ja)を通じて、ヨガを生み出してくれたインドに、小さな恩返しをしてみてはいかがだろうか。いずれの小さな行動も、人生における何かの発見につながるかもしれない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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