Yahoo!ニュース

「ハン・ソロ〜」がアメリカで公開。新しいハンの評価はいかに?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
オールデン・エアエンライク(右)とドナルド・グローヴァー(写真:Shutterstock/アフロ)

 日本公開よりひと月早く、先週末、「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」がアメリカで公開となった。シネマスコア社の調査によると、観客の評価はA-。批評家の評も、rottentomatoes.comで71%と悪くない。撮影も終盤に差しかかった段階で監督が交代するという、ハリウッドでも稀な出来事があったことを考えれば、上々だ。

 作品自体に関しての意見は、「ロン・ハワード監督はすばらしい仕事をした。ローレンス・カスダンと息子ジョナサンによる脚本も、非常にスマート」(deadline.com)というものもあれば、「いろんなことが次々に起こりすぎて忙しい」(L.A. Times)などいろいろだが、若き日のハンを演じるオールデン・エアエンライクへの評価は、おおむねポジティブだ。「L.A. Times」は「(エアエンライクこそ)この映画を見続ける理由」と絶賛、映画の公開前に彼について出た良くない噂は「まったく正しくない」と一蹴した。「Chicago Sun-Times」も「(エアエンライクの)演技はとても良い。ハリソン・フォードの物真似になることなく、特徴をしっかりつかんでいる」、「USA Today」は「エアエンライクは、このキャラクターを、前とは違う形で、しかし正しく表現した」と書いている。

映画では、ハンがどのようにチューバッカに出会い、友情を強めていったのかが描かれる(写真/2018 Lucasfilm Ltd.)
映画では、ハンがどのようにチューバッカに出会い、友情を強めていったのかが描かれる(写真/2018 Lucasfilm Ltd.)

 それらも含め、多くは、「エアエンライクの顔自体はフォードに似ていないものの」とか、「フォードに比べて明らかに背が低いが」などというただし書きから入っている。実際そのとおりで、だからこそ、同じキャラクターだと信じられるニュアンスをエアエンライクが発揮してみせたのは、なおさらすごいと言っていい。

 この役を得るために、エアエンライクは、5ヶ月にもわたってオーディションを受け、最後のほうではミレニアム・ファルコンに乗った様子までテストされたと語っている。間違った俳優を選んでしまったという失敗を絶対におかさないよう、念には念を押した結果というわけだ。製作の初期段階で、エアエンライクは、過去の「スター・ウォーズ」を見直し、フォードの身のこなしなどについて研究をしたとも述べている。

 フォード本人もエアエンライクの演技を気に入ったようだ。それを伝えるために、フォードは、今月上旬にL.A.で行われたプレスイベントの日、エアエンライクがアメリカのテレビのインタビューを受けている時にこっそりと部屋に入ってきて、彼を驚かせている。その直後の記者会見で、エアエンライクは、「彼はそれを言うためにわざわざ来てくれたんだ。それは僕にとってすごく大きな意味を持つ」と、感慨深く語った。たしかに、元祖ハン・ソロのお墨付きをいただけたとあれば、ほかの誰からどう言われても、もうそれほど気にならないだろう。

 実際、ハリウッド映画史上、最も愛されるキャラクターのひとりであるハン・ソロを、別の俳優が演じるということへの抵抗を完全に払拭するのは難しいことだ。それを述べる批評もあるのも事実だし、「The Hollywood Reporter」も、「ほかの俳優がハン・ソロを真に演じることは可能なのか?」という考察記事を書いている。

エアエンライクは、身のこなし、表情など、フォードによるハン・ソロのニュアンスをしっかりつかんでみせた(写真/2018 Lucasfilm Ltd.)
エアエンライクは、身のこなし、表情など、フォードによるハン・ソロのニュアンスをしっかりつかんでみせた(写真/2018 Lucasfilm Ltd.)

 その意味で、若き日のランドを演じるドナルド・グローヴァーは、やや有利だったと言えるかもしれない。もちろんランドも重要なキャラクターではあるが、オリジナルの主人公3人に比べれば、登場時間も短かったし、観客の思い入れ度もそこまでではないだろう。そして、実際、グローヴァーは、カリスマに満ちていて、まさにこの役に最高の俳優だったのだ。彼もまた、ビリー・ディー・ウィリアムズに顔が必ずしも似ているわけではないが、「L.A. Times」が「この人がいつか歳を取ってビリー・ディー・ウィリアムズになっていくのだと、完全に信じられる」と書いているとおり、彼のスピリットを十分に引き継いでいる。観客を惹きつける独特の存在感を放つ彼に対して、「Entertainment Weekly」は「彼こそこの映画で一番の魅力」、「Variety」も「最高に光っている」と賞賛を送った。

若き日のランドを演じるドナルド・グローヴァー(写真/2018 Lucasfilm Ltd.)
若き日のランドを演じるドナルド・グローヴァー(写真/2018 Lucasfilm Ltd.)

 グローヴァーもエアエンライク同様、長いオーディションをくぐり抜けて役を獲得しており、さすがに選びに選び抜かれただけあると言える。この映画が作られるという話を聞いた時、グローヴァーが「ランドが出るなら、自分がやりたい」とエージェントに言ったところ、「まあ、君の気持ちはわかったよ。でも君が選ばれる可能性は低いだろうねえ」と本気に取ってもらえなかったそうだ。グローヴァー自身も、そう聞いて「そりゃあ、そうだろうな」と思ったらしいが、オーディションで、毎回、少しずつ候補者が減っていく中、最後に残ったのは、彼だったのである。「オーディションのせいで、僕は誕生日をロンドンでひとりぼっちで過ごすことになった」と振り返る彼は、最終段階でミレニアム・ファルコンに乗れた時には、「これに乗れたんだから、もう落ちても悔いはないと思った」とも語る。

 唯一残念なのは、彼の出番が思ったより少ないことだ。そう感じた人は多いようで、あちこちで同様のコメントが見られる。しかし、エアエンライクがちらりと漏らしたところによると、彼はこの役を受けるに当たり、3本契約を結んだとのこと。ハリウッドの大作において3本契約はよくあることで、それは決して本当に3本作られることを意味しないものの、もしかしたら次がある可能性は、なくはないということだ。そうなったら、またランドも出るはずである。また、この後はオビ=ワンやボバ・フェットのスピンオフ映画ができるとの噂もあることだし、いつかランドを主人公にした映画が企画されたりすることはないだろうか。いや、もっと見たかったと思わせるくらいが、むしろ良いのかもしれない。いずれにせよ、来月、日本公開された折には、みなさんも、彼の魅力をぜひ堪能していただきたい。

「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」は6月29日(金)、日本全国公開。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事