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ザ・ワインスタイン・カンパニーの未来は絶望的。妻のブランドも危機に

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
2004年のプレミアにレネ・ゼルウェガーはマルケッサのドレスで登場(写真:ロイター/アフロ)

 受け身とはいえ、彼らはやはり共犯者だった。ハーベイ・ワインスタインのセクハラ癖について、ザ・ワインスタイン・カンパニー(TWC)の重役たちは、少なくとも2015年には知っていたという事実が、新たに浮上したのだ。

 ワインスタインは、アメリカ時間8日、役員たちによって、自分が創設した会社を解雇されている。その2日後、共同創設者でワインスタインの弟であるボブを含む4人の代表は、「私たちは非常に大きなショックを受けています。役員たちが知っていたというのは、間違いです」と声明を発表した。

 しかし、12日になって、TMZ.comが、2015年10月、ワインスタインが雇用契約更新時に交わした契約内容を暴露。契約書には、「セクハラ」とはっきり書かれてはいないものの、「会社の規範に反し、誰かを不適切に扱うという行動を取った場合、(その人に対する)和解金は本人が支払わなければならない」とある。さらに、会社に迷惑をかけた罰金として、「初回は25万ドル、2度目は50万ドル、3度目は75万ドル、それ以降は毎回100万ドルを支払う」とも定められている。つまり、TWCは、彼がセクハラをやると想定し、「それでもやるなら、これだけお金がかかるのを覚悟しておけ」と言っていたわけだ。

 それ以前にも、ワインスタインが狙った女性の連絡先は、社内で「F.O.H.(Friends of Harvey)」というファイルの中に保存するというルールがあったと報道されている。また、社員の若い女性がワインスタインに呼び出された時、女性の同僚たちは「できるだけ服を着込んでいったほうがいいよ」などと、被害を防ぐためのアドバイスをしていたという話も出た。それなのにトップだけは知らなかったなんてありえるのかと思っていたら、こうやって証拠が出てきたのだ。

沈みかかった船のTWCは、倒産か、売られるのか

 契約書に、彼が問題行動を起こした場合に解雇されるとの記述はいっさいない。その意味では、8日の解雇は契約違反とも考えられ、ワインスタインの弁護士は、来週の役員会で戦うつもりとのことである。

 しかし、会社は、もはや沈みかかった船。ワインスタインが戻ってくれば逆効果だし、戻ってこなくても、もう救えないかもしれない。役員たちがワインスタイン張本人を追い出し、社名変更すると決めた後にも、ビジネスパートナーたちは次々にTWCとの縁を切っている。アップルは早々にエルビス・プレスリーのテレビシリーズをキャンセルし、アマゾンもTWCとの共同プロジェクトをどうするか検討を始めた。出版社アシェットも、ワインスタイン・ブックスのレーベルを廃止すると発表している。

 そうでなくても最近ヒットに恵まれていないTWCは経済的に苦しかったのに、この状態で投資家が喜んで出資してくれるとは考えづらい。会社の存続自体が危ぶまれる中、映画監督や脚本家も、自分の企画をここに持ち込もうとは思わず、ラインナップも枯渇してしまうだろう。また、被害者たちが民事訴訟を起こす可能性も、十分にある。問題を起こした人物をクビにしたからと言って、それをさせていた会社の責任がなくなるわけではない。裁判沙汰になれば、弁護士代や和解金に、莫大なお金がかかる。

 TWCがおそらくやっていけないことを見越し、早くも業界関係者は、TWCに具体的にどれだけの価値があるのかを見定めるべく、プロに査定させているらしい。TWCでテレビのミニシリーズを製作する予定のJay-Zは、会社の4分の1ほどを買収したいと考えているようだが、スタジオや配給会社には、彼らが抱える魅力的なプロジェクトだけを選んで買おうとする動きも出てきそうである。TWCの今後の主な作品には、マイケル・ムーアのドキュメンタリー「Fahrenheit 11/9」、デヴ・パテルがプロデューサーも兼任する「Hotel Mumbai」、ガース・デイビス(『LION/ライオン〜25年目のただいま〜』)監督、ルーニー・マーラ主演の「Mary Magdalene」などがある。

 一方では、倒産の可能性もささやかれる。だが、 ボブ・ワインスタインはすべて否定。現地時間13日、彼は「会社を売りに出すとか、閉鎖することを検討しているという説は間違いである」と声明を出している。

ワインスタインの妻のブランドにも影響が

 スキャンダルの影響は、ワインスタインの妻ジョージナ・チャップマンのファッションブランド、マルケッサにも及ぶ。ソーシャルメディアには「#boycottmarchesa」のハッシュタグが飛び交い、マルケッサとのコラボレーションで婚約指輪をデビューさせる予定だったヘルツバーグ・ダイアモンドは、 プロジェクトの中止を発表した。

 ワインスタインと離婚することを告げる声明で、チャップマンは、「被害者の女性たちを思うと胸が張り裂けそうです」と述べている。しかし、チャップマンはずっとワインスタインの行動について知っていたと、今週、L.A.のファッションパブリシストが明かしている。

 そのパブリシストによると、ワインスタインは、女優たちにレッドカーペットでマルケッサのドレスを着るよう、相当なプレッシャーをかけていたのだそうだ。ミラマックスの「ファクトリー・ガール」(06 )に主演したシエナ・ミラーに対しては「ゴールデン・グローブ授賞式でマルケッサを着なかったらキャリアを潰してやる」 と言い、フェリシティ・ホフマンに対しては、別のブランドを着たら彼女が主演する「トランスアメリカ」(05)に宣伝費を出さないと脅した。

 そもそも、マルケッサは、ワインスタインがチャップマンとつきあうようになった頃、突然にしてレッドカーペットに登場するようになっている。それまで無名だったこのブランドは、レネ・ゼルウェガー、ニコール・キッドマン、サンドラ・ブロックなどトップ女優が着たことで、たちまち注目の存在になった。ミラマックスの「コールド マウンテン」(03)でオスカーを受賞したばかりのゼルウェガーが、やはりミラマックスが配給する「ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうな私の12ヶ月」(04)のプレミアでマルケッサを着たことに自分が関係していることは、過去にワインスタインも認めている。

 ワインスタインが業界のはじかれ物になった今、 このブランドを着ようという女優は、まずいないだろう。ワインスタインがこのブランドに金銭面でも大きな投資をしていることを知ったら、一般女性の多くも、わざわざ彼を儲けさせようとは思わないはずだ。アメリカ時間明日14日、アカデミーは彼の処分についての緊急会議を開き、プロデューサー組合も、彼を除名するかどうかの投票を行う。いよいよハリウッドを背にしなければいけなくなる時、ワインスタインは、自分が残した会社と妻のブランドまで連れて行くのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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