Yahoo!ニュース

マイケル・ファスベンダー:「人工知能よりも人間のほうが怖い」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:Splash/アフロ)

 マイケル・ファスベンダーは、間違いなく、今、最もおもしろい俳優のひとりだ。

 最初に注目されたのは、役のためにガリガリに痩せ、全裸のシーンにも堂々と挑んだスティーブ・マックイーン監督の長編デビュー作「HUNGER/ハンガー」。マックイーンの次の映画「SHAME-シェイム- 」ではセックス中毒の男を演じ、「それでも夜は明ける」では奴隷のオーナーを演じて、オスカー助演男優部門にノミネートされた。昨年のオスカーには、ダニー・ボイルの「スティーブ・ジョブス」で、主演男優部門にノミネートされている。

 レニー・アブラハムソン(『ルーム』)の一風変わったコメディ「FRANK-フランク-」では、顔の見えない役を望んで引き受けた。今年5月に日本公開された「光をくれた人」では、自分の幸せを犠牲にしてでも正しいことをやるべきなのかと心を悩ませる男を、繊細に演じている(この映画で彼の妻を演じたアリシア・ヴィカンダーとは、私生活でもカップルになった)。

 その一方で、「X-MEN」シリーズや「アサシン クリード」など、メジャースタジオの娯楽作品への出演にも忙しい。 15日(金)に日本公開となる「エイリアン:コヴェナント」も、そのひとつだ。「プロメテウス」の続編かつ、「エイリアン」1作目のプリクエルとなる今作で、ファスベンダーの役は、「プロメテウス」のデビッドよりも進化したアンドロイド、ウォルター。今作はひとり二役のシーンもあり、演技の見せどころがたっぷりだ。アンドロイドを演じること、リドリー・スコットの仕事のしかた、人工知能の脅威などについて、話を聞いた。

画像

「プロメテウス」「悪の法則」に続き、リドリー・スコットとは3度目のお仕事になります。スティーブ・マックイーンとも3度組んでいますが、これで並びましたね。

 スティーブやリドリーのような人がまた僕を雇いたいと思ってくれることを、僕は本当に嬉しく思う。波長の合う人と一緒に映画を作り、彼らが望んだ結果を得られたと思ってもらえるなんて、素敵なことだ。同じ人との仕事は、やり方がわかっているだけにやりやすい。人生は短いし、僕は常に忙しく仕事をしているから、楽しくやれる人とやらせてもらえるのは、ありがたいことさ。

画像

 今作の撮影も楽しかったよ。「エイリアン:コヴェナント」は、「プロメテウス」より、もっとホラーの要素が強い。「エイリアン」1作目を思わせるもので、すごいスリラーなんだ。

リドリー・スコット監督は、テイクが少なく、早く撮影を進めるというので有名ですが、あなたの経験でもそうですか?

 ああ、リドリーの現場は、インディーズ映画の現場みたいだよ。すごく大規模な映画で、複雑な要素がたくさんあるのに、彼は楽々とこなしてしまう。 一度にカメラを4、5台回し、すぐに次のシーンに移る。彼の指示は、明確で細かい。その一方、突然新しいことを言い出したりすることで、俳優やクルーを常に緊張させておこうともするんだ。映画の現場、とくに大作の現場は、待ち時間が長くて、ついつい集中力が弱ってしまう。そういう時、彼が急に、「このシーンにこの小道具を入れてみよう。すぐ持ってきてくれ」とか言うと、クルーも俳優も「えっ」とびっくりするんだよ。それがいつあるかわからないから、みんな常に集中している。そこには独特の、ポジティブなエネルギーがある。

画像

デビッドもウォルターも人間ではありませんが、 そういったキャラクターに、どう挑んだのでしょうか?

「プロメテウス」のデビッドには、「こいつには人間のような感情があるのだろうか」と思わせるところがあった。彼にも誇りや虚栄のようなコンセプトがあるのかと。そういう微妙なことをやってみるのは、楽しかったよ。デビッドは試作品だから、実験的なことがいろいろなされているはずだ。僕は、ユーモアのセンスをもってデビッドにアプローチした。

画像

 ウォルターは、デビッドの10年後に作られている。10年前、携帯電話がどんなだったか、考えてみてよ。デビッドの人間っぽさを、人はちょっと不快に思ったかもしれない。それで、その部分をもっと抑えた設計に変えたのかもしれない。

 肉体的な動きについて言えば、それはどんな役の時も同じだ。農家の人を演じる時と、1日中コンピュータの前に座っている人を演じる時では、姿勢や体の動きが全然違う。ロボットはもちろん独特だが、基本的な意味では変わらないさ。

人工知能の進化についてはいろいろ論議がなされていますが、あなたの意見は?

 それは起こるんだよ。良いか悪いかはさておき、絶対に起こるんだ。

そのことに脅威を感じますか?

 いや、それはないな。今は、人間のほうがむしろ怖い(笑)。人間は自分たちに大きな危害を加えている。将来的に人口知能が脅威になることはありえるが、今は人間たちが作り出している脅威を心配すべきだよ。

「エイリアン:コヴェナント」は15日(金)全国公開。配給/20世紀フォックス映画

写真:2017 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事