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ジェリー・ブラッカイマー:最初の「パイレーツ〜」、映画業界に入り込みたい人へのアドバイス

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
数々のヒット作を世に送り出してきたジェリー・ブラッカイマー(73)(写真:ロイター/アフロ)

ジェリー・ブラッカイマーは、近年のハリウッド映画を形作った人物だ。 彼の映画を大味だとか商業的だとか言う人も、その事実は認めざるを得ないはずである。

1943年、デトロイト生まれ。アリゾナ大学で心理学を学んだ後、デトロイトとニューヨークで広告会社に勤務し、 CMの製作にたずさわる。70年代にハリウッドに移り、80年代からはドン・シンプソンとコンビを組んで、「フラッシュダンス」「トップガン」「ビバリーヒルズ・コップ」「デイズ・オブ・サンダー」「クリムゾン・タイド」「バッドボーイズ」など、数々の爆発的ヒット作を生み出した。シンプソンは、1996年、ドラッグの過剰摂取のため52歳で死亡。以後、ソロとなってからも、「アルマゲドン」「60セカンズ」「タイタンズを忘れない」「パール・ハーバー」「ナショナル・トレジャー」などの娯楽大作を世に送り続けた。

メディアを大切にする彼は、取材も積極的に応じる。「人が何を求めているのか、どうしてわかるのですか」と何度か聞いたことがあるが、 答はいつも、「そんなの、わからないよ。僕は、自分が見たい映画を作っているだけだ」というものだった。時代の変化とともに、彼の見たい映画が必ずしも若者のそれと一致しなくなってきたのか、ここ数年は期待はずれが続いている。そんな中、「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」は、彼に久々の北米首位デビューをもたらしてくれた。

同じ頃には、「トップガン」の続編が本格的に動き出したことも明らかになっている。ほかにも、「バッドボーイズ」3作目や、アン・リー監督によるSF映画の企画などが進んでいるが、「パイレーツ〜」も、まだ手放したくないようだ。73歳にしてまだまだ次のヒットへ意欲を見せる彼に、「パイレーツ〜」の始まりと、自身のキャリアの始まりを、振り返ってもらった。

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前作「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉」から、6年が経っています。今作の製作には3年ほどの時間がかかったようですが、その背後にはどんな理由があったのですか?

正しいストーリーを作ること。それが最大の理由だったね。ストーリーを語るのは、難しいんだ。意味をなしていないといけないし、スムーズに流れないといけない。今作は、過去4作よりわかりやすいよ。上映時間も15分か20分ほど短い。それは意図的にやったことだ。そんな中で、今作は、冒険、感動、ユーモアなど、どの面でも最高のものを届けていると思う。

もうひとつの理由は、俳優のスケジュール調整だ。みんな売れっ子だから、そこも大変なんだよ。さらに、ディズニーは、今やマーベル、ルーカスフィルム、ピクサーを持っていて、常に大作を抱えている。僕らも大作だが、順番待ちも必要になるんだよね 。そしてポストプロダクション。ハビエル・バルデムの髪を含め、今作にはエフェクトが多用されているから、撮影終了後に1年ほどが必要だった。

今作は、過去4作と比べてどこが大変でしたか?

映画作りはいつも大変だよ。今作は、ロケ地がオーストラリアで、L.A.から遠いのが辛かったね。だけど、撮影場所として、オーストラリアはすばらしかった。現地の俳優やクルーも優秀だし。

僕らは14年もこの映画を作ってきている。いわば家族なんだ。ジェフリー・ラッシュはずっと出てきてくれたし、今回はオーランド・ブルームも戻ってくる。それに、なんと言ってもジョニー・デップ。彼は最高だよ。

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1作目でジョニー・デップがジャック・スパロウを作り上げていく過程には、あなたも多少なりとも関わったのですか?

いや、あれは全部ジョニーだ。「ここは僕が思いついた」とか言えたらかっこいいだろうけどね(笑)。 娘が生まれたところで、彼は当時、アニメをたくさん見ていた。そしてキース・リチャーズは、彼の友人。そういうことが組み合わさって、ジャック・スパロウが生まれたんだよ。

1作目が公開された時は、ジャック・スパロウがゲイなのかとの話題も出ましたね。

ああ、当時はそういう騒ぎも出たね(笑)。それに限らず、1作目ではいろいろ言われたよ。僕がディズニーランドのアトラクションを映画にするとわかった時だって、(業界仲間から)「気が違ったのか」「君のキャリアは終わるぞ」と言われたものさ。 メディアも、これはコケると最初から決めつけた。だからこそ彼らは、ジャック・スパロウという、とても新しいキャラクターを見て、ショックを受けたんだ。その間も、ディズニーが僕らを信じてくれたことには、感謝している。

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プロデューサーとして大ヒット作を送り続けてきたあなたは、監督や俳優の成功と失敗も見てきています。この業界に入りたいと思っている若い人に、どんなアドバイスをあげますか?

まず、学校を出なさいということだね。教育は重要。そして、できるかぎりたくさんのものを読むこと。監督になりたいなら監督業について、プロデューサーになりたいなら製作について、俳優になりたいなら演技について、ありとあらゆるものを読むべきだ。

どんな仕事であっても、そこに入り込んでいけるならやる。自分はハーバード卒なんだから最初からアソシエートプロデューサーで始めたい、という人は多い。でも、そうはいかないんだよ。人がそれぞれどういうことをしていて、どう回っているのかを、まずは理解しないと。僕の最初の仕事は、(広告会社で)社内に郵便物を配達する仕事だった。おかげで、社内にはどんな仕事があり、人はそれをどうこなしているのかを、知ることができた。その中で自分には何が向いているのかを考えることもできたよ。

ハリウッドのエクゼクティブには、実際の撮影現場の状況をわかっていない人も多い。自分がそこで実際に働いたことがないからだ。映画を作るのは大変。大勢の人がいるし、人が多ければ多いほど問題も起こる。思わぬことは、いつだって起こり、その都度、解決していかないといけない。

プロデューサーが自分に合っているというのは、いつわかりましたか?

わりと早くにわかったね。プロデューサーの仕事は、才能のある人を見つけ、引っ張ってくること。そして彼らが最高の状況で仕事できるようにすることだ。プロデューサーは、たくさんの決断をしないといけない。ジョニーを雇うのも、決断だった。僕が下してきた決断の中には、そんなふうに、正しかったものもあるし、そうでなかったものもある。

この仕事で唯一好きじゃないのは、ロケハンかな。みんなでぎちぎちに車に乗り込んで、長い距離を延々と移動するんだから。途中、まずい食べ物で空腹を満たしつつね(笑)。

「パイレーツ〜」シリーズは、まだ続くのでしょうか?

それはわからない。そういうことは、いつだってわからないんだ。でも、僕らはまたこのキャラクターたちをスクリーンに呼び戻したいよ。僕は、彼らのことが大好きなんだ。

「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」は本日全国公開。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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