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「フィフティ・シェイズ・ダーカー」監督:「今作のセックス描写はR指定ぎりぎり」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
フォーリー監督、原作者ジェイムズ、ダコタ・ジョンソン、ジェイミー・ドーナン(写真:Shutterstock/アフロ)

過激なセックス描写が話題を呼んだ「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」は、その舞台裏も同じくらいドラマチックだ。

そもそもは、2009年、「トワイライト」シリーズのファンであるE・L・ジェイムズが、「トワイライト」と同じアメリカ北西部を舞台にしたアダルト恋愛小説をネットに投稿し出したのが始まり。続きを書いては投稿することを繰り返すうちにフォロワーが増え、誰かに真似されることを恐れたジェイムズは、自費出版を決める。2012年には正式に出版社と契約。2015年までに1作目だけでも全世界で1億2,500万部を売り上げ、映画化の話も早々に決まった。

主人公は、大学卒業を間近に控えたアナスタシア(ダコタ・ジョンソン)と、大金持ちの起業家クリスチャン(ジェイミー・ドーナン)。

主演のジョンソンとドーナン
主演のジョンソンとドーナン

恋愛を信じず、好みのタイプの女性とセックスだけの契約を結んできたクリスチャンは、アナスタシアに出会い、違うものを感じる。一方で、処女だったアナスタシアは、彼の手ほどきで、性の悦びを知っていくことになる。

そんな始まりの部分を描く1作目の監督に選ばれたのは、「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」のサム・テイラー=ジョンソン。女性で、ビジュアルアーティストである上、私生活で23歳年下のアーロン・テイラー=ジョンソンと結婚するという衝撃的大恋愛をした彼女は、まさに ぴったりのように思えた。

だが、現場で彼女は、すべてのシーンに口出ししてくるジェイムズと、ことごとく衝突。2作目には、声がかからなかった。最近の「The Hollywood Reporter」へのインタビューで、テイラー=ジョンソンは、この一件で心が非常に傷ついたと告白している。

次の監督に選ばれたのが、ジェームズ・フォーリーだ。

過去に「摩天楼を夢みて」(1992)や「チェンバー/凍った絆」(1996)などを手がけた彼は、 近年、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」や「Billions」など、主にテレビドラマで活躍している。

ジェームズ・フォーリー監督
ジェームズ・フォーリー監督

映画自体がご無沙汰な上、彼が得意としてきた作品は、“マミーポルノ”と呼ばれる今作と、かなりタイプが違う。

23日に日本公開となる2作目「フィフティ・シェイズ・ダーカー」と、来年公開予定の3作目「フィフティ・シェイズ・フリード」はまとめて撮影されたため、撮影期間は長かった。さらに、今回はジェイムズの夫が脚本を担当している。そんなふうに、ますます彼女のコントロール下に置かれた現場を、フォーリーは、トラブルなしで切り抜けてみせたようだ。その秘訣は何だったのか、L.A.で聞いてみた。

今作のストーリーは、1作目の直後から始まります。別の人が監督していたものを引き継ぎつつ、あなたならではの個性を打ち出すのは、難しかったですか?

いや、ストーリーをちゃんと続けること以外は、自由にやればいいと思っていたよ。ビジュアルも、映画全体のトーンも、僕が望むようにやっている。僕は、この映画を、王道ハリウッド映画にしたかった。これはそもそもファンタジーなんだし、そこから目を背けるつもりはなかったんだよね。美男美女が素敵な服を着て、素敵な家にいるんだ。 衣装や、部屋のデザインなども、それを基準に決めている。今作は、1作目みたいにシリアスではない。もっと楽しい。

1作目の最後で別れたふたりはすぐに復活
1作目の最後で別れたふたりはすぐに復活

今作の監督にあなたが決まったのは、多くの人にとって驚きだったと思います。E・L・ジェイムズにインタビューした時、彼女は、あなたがキャラクターの心理を理解していること、また、 2作目と3作目をまとめて撮影するので、「ハウス・オブ・カード〜」で素早い撮影に慣れていることなどが決め手だったと言っていました。あなた側の理由は、何だったのでしょうか?

また映画をやりたいなと思っていたんだ。でも、僕が作りたいのは、リアルな人間の心理が描かれる作品。残念ながら、今のメジャースタジオはそういう映画を作らない(筆者注:メジャースタジオは、近年、スーパーヒーロー映画やアクションなど、お金をたっぷり使うかわりに儲けも大きい作品にばかり目を向けているため)。だが、今作は、超ベストセラー小説が原作だから、メジャースタジオが、予算を出し、やろうと言っているんだよ。

華やかさにあふれる仮面舞踏会のシーン
華やかさにあふれる仮面舞踏会のシーン

もちろん、オスカーに引っかかるような大人向け映画の秀作は、今も作られている。でも、それらは低予算のインディーズ映画だ。 華やかさを持つ王道のハリウッド映画を作りたいと思っていた僕は、今作で、5,000万ドルを与えてもらい、それをやらせてもらえたんだ。2作目と3作目を一気に撮るのも、テレビドラマをやってきた僕にとっては、全然きつくない。むしろ楽なくらいだ。

E・L・ジェイムズがすべてにおいて口出しすることは広く報道されています。しかも、今回は彼女の夫が脚本を書きました。その状況を、あなたはどうやって切り抜けたのですか?

1作目で、性格の不一致のためにトラブルが起きたことは聞いていた。だから、今作の監督を引き受ける前に、まず彼女と会って、僕らの考えが一致するかどうかを確かめる必要があった。大丈夫だと思ったから、受けることにしたんだよ。プロデューサーという人たちは、毎日現場にいるわけではない。だが、彼女は絶対、毎日いて、常に自分専用のモニターで撮影を見ている。途中で「原作ではもっとこういうふうなのよ」と僕に言ってきたりするが、 僕は「それは良いですね、やりましょう」と言うこともあったし、「いや、それは映画ではやらないほうがいいです」と言うこともあった。それだけのことさ。1作目でどうしてそんな大騒ぎになったのか、僕にはわからない。誰かと誰かがケンカしているという話はおもしろがられるから、大げさに報道されたのかもしれない。彼女はみんなが思うような人じゃないよ。ただ、自分の作品にすごい情熱を持っていて、ファンを大切に思っているだけだ。

今作でふたりはいくつかの思いがけない障害に直面
今作でふたりはいくつかの思いがけない障害に直面

セックスシーンの撮影は、難しいものです。あなたはどう挑みましたか?

僕がやったのは、絵コンテを作り、細かい動きまで事前に徹底的に説明すること。現場で「それはやりたくない」ということにならないようにね。1作目を通じてダコタとジェイミーの間に仲間としての絆ができていたことは、大きな助けになった。ふたりは冗談を言い合える関係。セックスシーンの撮影は緊張するから、彼女が笑ってくれると、ほっとするんだよ。今作のセックス描写は、ぎりぎりのところまでやっている。興行成績のために、R指定(17歳未満は大人の同伴が必要)内でとどめなければいけないのはわかっていたが、最初のバージョンはNC-17(17歳未満は入場禁止)を受けた。だが、カットしたのはわずかだ。もっと長かったシーンがちょっと短くなった程度で、シーンを丸々削ることは、していない。

ダコタとジェイミーは、あなたとのお仕事をとても楽しんだと語っています。俳優から最高のものを引き出す秘訣はありますか?

あるよ。でもそれは俳優によって違う。だから僕は、撮影前に彼らをできるだけ深く知っておくようにするんだ。フィルムスクールでは、俳優に指示を出すやり方はただひとつと教えられた。でも、実際に仕事をするようになると、そうじゃないとすぐにわかったよ。たとえば「摩天楼を夢みて」の現場で、アル・パチーノとジャック・レモンは演技へのアプローチが両極端だから、僕はもうひとりに聞こえないように、それぞれに小声で話をした。彼らはみんな違うやり方でやってきている。監督も、それに合わせた話し方をしてあげないといけないんだよ。

「フィフティ・シェイズ・ダーカー」は23日(金)、全国公開

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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