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マーク・ウォルバーグ:「パトリオット・デイ」撮影中、監督は「ウォルバーガーズに病みつきになった」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
兄ポール(左)らとの副業でも多忙なウォルバーグの新作は「パトリオット・デイ」(写真:REX FEATURES/アフロ)

マーク・ウォルバーグは、故郷ボストンで爆弾テロ事件が起きた日のことを、はっきりと覚えている。

「ニュースを見て、とてつもない恐怖を感じたよ。僕の子供たちは、まだ小さすぎて、何が起こったのかよくわかっていなかったが、僕はすぐにボストンに飛んだ。着いてみたら、道には、車もなく、人も誰もいない。街が完全に死んでいた。あんなボストンを見たことはなかったよ」。

9日(金)日本公開となる「パトリオット・デイ」では、その静けさの裏で、人々がどうお互いを助け合い、正義の追求のためにどんな努力がなされていたのかが描かれる。事実に忠実に作られているが、ウォルバーグが演じる主人公は、事件の日に現場にいた5、6人の刑事の要素を取り入れて書かれたフィクションのキャラクターだ。監督は、やはり実話にもとづくアクションスリラーである「ローン・サバイバー」「バーニング・オーシャン」でも組んだピーター・バーグ。

俳優、プロデューサー以外にも、ビジネスマンとして幅広い事業を展開するウォルバーグは、ボストンでのロケ中、彼が兄弟で展開するハンバーガー屋“ウォルバーガーズ”に、何度もバーグを連れて行った。「ピート(・バーグ監督)は、ここのバーガーは病みつきになると言っていたよ」と得意そうに語る彼は、まもなくお膝元のL.A.に、ウォルバーガーズの旗艦店をオープンする予定で、あいかわらず大忙しだ。

私生活では、4人の子供の父。長女は今年の秋に高校入学するまでに成長した。そのことに触れると、「早すぎるよ。次は大学だよ。そして家を出て行っちゃうんだ。怖いし不安だ」と、優しいパパの側面を見せる。

悩んだ結果、今作を作ると決めたと言うウォルバーグに、今作に寄せる思いやバーグとの友情、またウォルバーガーズの旗艦店と妻との関係について、L.A.で話を聞いた。

ウォルバーグの役は、マラソンの警備に当たっていた刑事
ウォルバーグの役は、マラソンの警備に当たっていた刑事

ボストンマラソン爆弾テロ事件についての映画を作るにあたっては、かなり躊躇もされたそうですね。

そうだ。これは僕が立ち上げたプロジェクトではなく、僕のところに持ち込まれたもの。これ以外にも、あのテロ事件を語る映画の企画はハリウッドにふたつ存在していて、そのうちひとつは、確実に今作のライバルになると思われるものだった。どうせ誰かがあの事件を映画にするんだよ。ならば、自分が関わって、自分の考えるところのちゃんとした映画にしようと思ったのさ。

ウォルバーグの妻役をミシェル・モナハンが演じる
ウォルバーグの妻役をミシェル・モナハンが演じる

そう決めたとたん、僕のところには、ボストンのあらゆる人たちから電話が押し寄せた。政治家、マスコミ、遺族の人たちなど、みんなが「まだ早すぎる」と言ったよ。僕は、「いや、むしろ遅すぎるくらいですよ。僕らが伝えるのは、愛のメッセージ。今こそ、それが必要なんです」と言った。今、世の中では、狂ったことが起こっている。だが、そこではまた、人々がお互いを助け合う、美しいことも起こっているんだ。ひどいことが起こった時、本人も予測しなかったような勇気のある行動に出る人というのがいる。僕はそんな人たちをすごく尊敬するし、そういう話は語られるべきだと思う。

以前、あなたは、「ボストンは小さな街だから、友達の友達くらいの関係であっても、あの事件で直接の被害に遭った人を、みんな必ずひとりは知っている」とおっしゃっていました。故郷の人たちに見つめられる中でこの映画を撮影するのは、どんな体験になりましたか?

みんなが僕のところに来ては、どういう映画にしてほしいとか、責任を持って作ってほしいとか言ってきたよ。それはたしかにプレッシャーだったが、逆に、僕らがどういう意図のもとにこの映画を作ろうとしているのかも、わかってもらえたと思う。彼らは、僕がボストンの人たちをちゃんと理解していると知っているし、ピートとも話をして、彼のことも信頼してくれた。とは言え、撮影中、辛い気持ちになることも少なくなかったよ。普通の人は目にしないような生々しいものも見ることになったから。

アクション映画の主役も務めるあなたですが、今作のためには体重を増やしたのですよね?

ちょっと大変だったんだよ。「バーニング・オーシャン」で役のために太ったんだが、「パトリオット・デイ」の前に、僕とピートはもう1本映画を作ろうとしていて、その作品のために、僕は厳格なダイエットとワークアウトをした。そうしたらそのプロジェクトは潰れてしまって、ピートは僕に「『パトリオット・デイ』に備えてまた太ってくれ」と言ってきたんだ。それで僕は、ワークアウトをやめて、食べたいだけ食べるようにした。そうやって太った僕にたまたま会ったマイケル・ベイ(『トランスフォーマー』の監督)は、すごいショックを受けていたよ(笑)。「パトリオット・デイ」が終わって、たった3週間で、僕は「トランスフォーマー」の体に戻さなきゃいけなかった。

バーグ監督と組むのは3度めですが、これからもまだまだ一緒に映画を作っていくつもりですか?

僕とピートは、同じエージェンシー(タレント事務所)に所属している。担当エージェントも同じだ。担当エージェントは、ずいぶん前から僕とピートを組ませようとして来たんだが、僕らが乗らなかったんだよね。なぜかはわからない。

ピーター・バーグ監督
ピーター・バーグ監督

彼はニューヨーク、僕はボストンの出身で、スポーツで常に相手の街をライバル視してきたという、単純な理由かもしれない。でも、「ローン・サバイバー」でついに組んだ時、僕は「こいつとあと20本は映画を作るぞ」と思った。次の10年のうちに作ろうと言っている企画が6つあるよ。それらも、こういう(実際に起きた事件にもとづく )映画だ。プロデューサーとしても、俳優としても、観客としても、僕は今、この手の映画に最も心を惹かれる。その合間に娯楽作にも出るけれど、本当に作りたいと思うのは、こういう映画だ。

ボストンでの撮影中にはウォルバーガーズで何度も食事をしたそうですが、L.A.店の話はどうなっていますか?

もうすぐだよ。場所も決まったんだ。僕の住むL.A.で、旗艦店という位置づけになるから、僕は最高の場所を探し続けてきた。その結果決まったのは、サンセットプラザの、今カフェ・メッドという店があるところ。僕は、あの店で妻に出会ったんだ。当時、僕はすぐ近くに住んでいたから、あの店にしょっちゅう歩いて行っていたんだよ。僕にとって、すごく意味のある場所なんだ。

映画のために鍛えたり、太ったりするわけですが、奥さんはどちらのあなたを好みますか?

だらだら食べては、テレビを見ながらワインをがぶがぶ飲んでいる僕を見て、素敵とは思わないだろう。でも、厳しいワークアウトを毎日こなす僕を見たら、自分もそうしなきゃいけないのかと、それはそれでプレッシャーを感じるみたいだよ。だから、わからないな(笑)。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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